秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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アミュレットとメダル

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ゆっくりと馬車に揺られながら、生家へと道を進む。

当分は王都へと戻ることはないだろう。真帆はあれもこれもと、王都を出るまで何度も馬車を止めさせて買い物をしている。

「悠理も行こう。何か必要な物とかないの?」

馬車を降りる度に誘われるが、必要な物は生家に行けば揃っているし、特に買い揃えておくものはない。

「いや、わたしはいい。ここが最後だぞ。これ以上足止めばかりされては、先に進めない。」

わかったよ、と口を尖らせながら真帆は付き添いの騎士一人を引き連れて、華やかな店へと駆けて行った。

ルドルフ様に付き添いは必要ないと申し出たが、遠慮するなと二人の騎士を付き従えてくれた。

「…ユリウス様、いいんですか?あいつと行かせて。」

残った騎士が心配そうに声を掛けてくる。

「何か問題が?」

「いや、あいつ、ユリウス様には結構反発していたし…それに、、、」

「確かに反発していたが、この付き添いに自分から志願したんだろう?」

「…それは、マホ様が、」

「真帆が何か?」

「…いや、ユリウス様がいいんなら、いいんです。余計な心配でした。」

この騎士は、わたしを慕ってくれた数少ない騎士の中の一人だ。

マホに付き従って行った騎士は伯爵家の次男で、団長になってからは何度も反発されていた。

騎士を辞めることにしたからか、わたしへの反発もなくなったのだろう。

馬車は王都を出て、いくつかの街を通り過ぎていく。

隣にいる真帆はずっと何かを話しかけてきたが、気のない返事ばかりしていると、終いには諦めたのか、買って来た物を出し始め、並べて眺めては満足そうに頷いている。

『俺も、子を産める身体だ。』

ノア様の最後の言葉が、頭の中で反芻される。

本人から直接その事実を耳にするのは、初めてのことだ。

いずれ、ノア様はシオンの子を…

わたしを想い慕っていると言ったノア様をあのまま連れ出したら、今目の前にいたのは、外を見ながらはしゃぐノア様だったのだろうか。

『ユリウス、あれを見てみろよ!あんなの初めて見るな!面白いな!』

ノア様の言う想いが、ノアール様の記憶のせいだと、何故言い切れたのだろう。

その想いが、本当にノア様自身の…

「悠理?どうしたの?」

目の前にいるのは真帆だ。

選択したのはわたしだ。

…余計なことを考えるべきではない。

わたしはもう、ノア様の護衛ではないのだから。




夕刻前に宿に着くと、慣れない馬車旅で疲れたのか、夕飯まで少し休みたいと真帆は寝台に潜り込んだ。

別々の部屋をとっていたことに不服そうだったが、それよりも疲れの方が勝ったのだろう。横になるとすぐに目を閉じてしまった。

ここは古びた宿ではあるが、子綺麗で広さもある。

この辺りでは他に大きな宿はないので、いつも混み合っているのに、今日は他に数組の団体しか見ていない。

階下の食堂に降りてみると、夕飯前のせいでもあるが、人影はまばらだ。

宿に着くとすぐに飲み始める客もいるはずなのに、酒を飲んでいる客が一人もいない。

「何かお作りしましょうか?」

声を掛けて来たのは、この宿の主人だ。

「ああ、飲み物を。酒以外で。」

カウンターに座り、出された飲み物を口にする。

「今日は随分と人がいないな。」

「ええ、そうなんですよ。急に大口の団体さんが来れなくなったそうで。でもまあ、先払いしてもらっていたのでね。返金もしなくていいそうですから、今日はのんびりやらせて貰いますよ。」

がらんとした食堂を見回すと、何人かの客と目が合う。

「あ、ユリウス様も来てたんですね。」

一人の騎士が食堂まで降りて来ると、カウンターで酒を注文する。

「…悪いが、今晩は駄目だ。酒以外の物を。」

酒を準備しようとする主人を制すると、騎士は少しだけ不服そうにした。

「えええ、ユリウス様、今日は任務じゃないからいいって、さっきまで言っていたじゃないですかあ!」

「…さっきまではな。」

もう一度店の中を見回すと、騎士に耳打ちする。

「…嫌な予感がする。予感だけならいいんだが。悪いが、今晩は任務同様の警戒を頼む。」

騎士は顔色を変えずに、笑顔で頷いた。

「もう、ユリウス様ってば、わかりましたよ!酒はほどほどにしておきますから!」

察しがいい部下の対応に笑みが出る。

「あいつにも飲み過ぎるなよって、伝えておきますか?」

「いや、それはいい。」

「あいつばっかり、ずるいなあ。」

そう言って笑いながら、騎士は一瞬だけ当たりを見回した。

何事もなければ、それでいい。

身に付いた習性か、嫌な予感がするときは気のせいにせず、前もって念入りに準備しておくほうが得策だ。

これ以上何も言わなくとも、目の前の騎士は理解しているだろう。

もう一人の騎士は、部屋に入ったまま出てくる気配がない。

宿に到着してから、疲れてぐったりとした真帆が馬車から降りようとした時に、手を差し伸べたのを振り払われた、あの時の目つき…。

真帆はあの騎士の手を振り払って、わたしに身を預けてきた。

一人で歩けと言ったのに、無理だと言うから仕方なく抱き上げた時の鋭い視線…。

つつがなく夕飯を食べ終わると、真帆はお腹を抱えてわたしの部屋へとやって来た。

「悠理、一緒に寝よう。一人じゃ寂しいから。」

わたしは、真帆を部屋へと招き入れた。

















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