お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

小平ニコ

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第8話

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「残念ながら……。領主の権力を弱め、法による平等で公正な統治を目指した先代ご領主様の高潔なご意思が、今回は裏目に出てしまったようです」

「ふん、『今回は』ではなく、『今回も』だろう。父上にも困ったものだ。勝手に妙な法律を作り、領主の特権をいくつも放棄した挙句、すぐに体を壊して亡くなられてしまった。跡を継いだ俺は父上の作った法律に縛られ、思い通りの統治ができず、たまったものではない」

「侯爵様、少々口が過ぎますよ。十代の頃は放蕩三昧で碌に勉強もせず、領地経営の知識に乏しいあなたでもなんとか侯爵の真似事ができているのは、先代ご領主さまの作った法律のおかげでもあることをお忘れなく」

「お前、言うに事欠いて『侯爵の真似事』とは何ごとだ。……ちっ、もういい。お前と言い争いをしていてもますますイライラするだけだ」

 そこで侯爵様は私に向き直り、ぺこりと頭を下げました。

 ……本当に、心の底から驚きました。
 高貴なる侯爵様が、私なんかに頭を下げるなんて。

「すまん、リネット。今聞いての通りだ。色々と事情があってな。侯爵といっても、俺には強権を振るう力がなく、お前の母親を罰することができない。それでも、領主として厳重注意だけはしてみようと思うのだが……」

 その言葉だけで、もう充分でした。
 私は首を左右に振ってから、口を開きます。

「ありがとうございます、侯爵様。侯爵様の優しいお気持ち、とても光栄で、嬉しく思います。でも私、最初からお母さんを罰したいだなんて思っていません。ですから、何もしていただかなくても結構です」

「なんだと? お前は、身勝手な母親を恨んでいないのか?」

「はい。……お母さんは私のことを娘だなんて思っていなかったみたいですが、それでも、私にとってはただ一人のお母さんですから。お母さんの私に対する態度はいつも冷ややかでしたが、酷い折檻を受けたことはありませんし、数えるほどですが、楽しい思い出もあるんです。だから私、お母さんのことを恨んでなんていません」

 強がりではなく、私は本心からそう思っていました。

 メルブラン侯爵領の福祉制度を受けるためとはいえ、何もできない私を、お母さんが10年間育ててくれたことは紛れもない事実ですし、恩義も感じています。だからこそ、お母さんの言うことを聞き、『捧げもの』となる道を受け入れたのです。

 侯爵様は私に憐みの眼差しを向け、大きなため息を漏らしました。
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