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第9話
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「哀れだな。自分のことを娘と思っていなかった母親を、それでも愛し、その身を犠牲にする。まるで意志を持たぬ人形ではないか。お前、それでいいのか? リネット、お前の本心はどこにある?」
そう言われても、私は困ってしまうだけでした。今まで、受動的な生き方しかしてきませんでしたから。もしかしたら私には『本心』なんてものはなく、本当に、意志を持たぬ人形なのかもしれません。
黙ってしまった私を見て、侯爵様はもう一度溜息を吐き、言葉を続けます。
「まあいい。この話は、ここまでにしよう。……とにかく、献上品としてお前を受け取ることは、俺にはできん。地方領主の中には、年端も行かぬ幼い娘を捧げられて喜ぶ下衆もいるそうだが、信じがたい話だ。おぞましい。まったく、世も末だな」
「あの、それでは、私はどうすればいいのでしょうか……?」
「どうもこうもない。もう帰っていいぞ。……いや、ちょっと待て。シュベール。リネットの母親は、リネットに『用済み』とまで言い放ったのだったな。そんな母親の元にこの子を帰したら、どうなると思う?」
シュベールさんは、さほど迷うこともなく即答します。
「当然、ろくなことにはならないでしょうね。リネットさん本人の前で話すのも酷ですが、取り立てて学のない従順な子供は、働ける年齢である14歳になったら、タチの悪い商家へ奉公に出されるのが常道。いえ、それならまだマシな方で、あるいは、口にするのも汚らわしい仕事をさせられるかもしれません」
「だろうな。……やれやれ、参ったな。このまま帰せば、見捨てるのと同じか」
侯爵様は腕を組み、小さく唸ります。
そこで私はやっと、自分の置かれた状況の危うさに気が付きました。
昨日までは、曲がりなりにも私を娘として保護してくれていたお母さん。……そのお母さんは今日、私を捨てたのです。のこのこ家に帰ったところで、たった今シュベールさんが述べた通り、これまで通りの生活ができるはずもありませんでした。
私のように察しの悪い娘が、商家の奉公など務まるでしょうか?
口にするのも汚らわしい仕事とは、どんなものなのでしょうか?
想像すると、まるで地を這う冷気のような恐ろしさが足元から背筋へと上がって来て、私の体はかすかに震えだしました。愚かな私は、子供が親の庇護を失うということの本当の意味を、今になってやっと理解できたのです。
もう、今までと同じ人生はない。
かといって、幸福な未来もない。
目の前が、暗くなりました。
そう言われても、私は困ってしまうだけでした。今まで、受動的な生き方しかしてきませんでしたから。もしかしたら私には『本心』なんてものはなく、本当に、意志を持たぬ人形なのかもしれません。
黙ってしまった私を見て、侯爵様はもう一度溜息を吐き、言葉を続けます。
「まあいい。この話は、ここまでにしよう。……とにかく、献上品としてお前を受け取ることは、俺にはできん。地方領主の中には、年端も行かぬ幼い娘を捧げられて喜ぶ下衆もいるそうだが、信じがたい話だ。おぞましい。まったく、世も末だな」
「あの、それでは、私はどうすればいいのでしょうか……?」
「どうもこうもない。もう帰っていいぞ。……いや、ちょっと待て。シュベール。リネットの母親は、リネットに『用済み』とまで言い放ったのだったな。そんな母親の元にこの子を帰したら、どうなると思う?」
シュベールさんは、さほど迷うこともなく即答します。
「当然、ろくなことにはならないでしょうね。リネットさん本人の前で話すのも酷ですが、取り立てて学のない従順な子供は、働ける年齢である14歳になったら、タチの悪い商家へ奉公に出されるのが常道。いえ、それならまだマシな方で、あるいは、口にするのも汚らわしい仕事をさせられるかもしれません」
「だろうな。……やれやれ、参ったな。このまま帰せば、見捨てるのと同じか」
侯爵様は腕を組み、小さく唸ります。
そこで私はやっと、自分の置かれた状況の危うさに気が付きました。
昨日までは、曲がりなりにも私を娘として保護してくれていたお母さん。……そのお母さんは今日、私を捨てたのです。のこのこ家に帰ったところで、たった今シュベールさんが述べた通り、これまで通りの生活ができるはずもありませんでした。
私のように察しの悪い娘が、商家の奉公など務まるでしょうか?
口にするのも汚らわしい仕事とは、どんなものなのでしょうか?
想像すると、まるで地を這う冷気のような恐ろしさが足元から背筋へと上がって来て、私の体はかすかに震えだしました。愚かな私は、子供が親の庇護を失うということの本当の意味を、今になってやっと理解できたのです。
もう、今までと同じ人生はない。
かといって、幸福な未来もない。
目の前が、暗くなりました。
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