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第19話
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「そ、そんな、いきなり出て行けと言われても困ります。ここは税も軽いし、他の土地では、女一人では生きていけませんっ」
「この領地の税が軽いのは、善良な人々が健やかに暮らすためだ! 何不自由ない生活をしておきながら、我が子を売るような者を養うためではない! 牢にぶち込まれたくなければ、とっとと失せろ!」
「ひっ、ひいぃぃぃぃ……っ」
そして『お母さんだった人』は、逃げるようにお屋敷を去りました。
侯爵様は「ふん」と息を吐き、私の方を見て言います。
「本当に、これで良かったのか?」
私は、頷きます。
「はい。わざわざ裁判をしてまで、殊更に彼女をいたぶる必要はないと思います。それに私、あの人には感謝しているんです」
「育ててもらったことをか?」
「それもですけど、彼女が私を捨てなかったら、私、こうやって侯爵様のおそばにお仕えすることができませんでしたから……」
「そうか……そうだな。ああいう女は許せんが、それでもお前との縁を繋いだことに免じて、ここで手打ちにしておくか」
・
・
・
それから、三年の月日が流れました。私も17歳となり、一般の使用人と同じ仕事を任せてもらえるようになって、日々、充実した日々を過ごしています。
マブドの腕は、三年前とは比較にならないほど上達し、今では10回やれば、9回私が勝つようになりました。今日も侯爵様は、悔しそうに頭をかきます。
「ええい、また負けた。リネット、少しは手加減しろ」
「あら、侯爵様は手に汗握る熱戦がしたくて、私を雇ったのでしょう? 手加減なんかしたら、契約違反になってしまいます」
「まったく、あの大人しい娘が、よくもここまで生意気になったものだ。ああ言えばこう言うんだからな」
「侯爵様のおかげです。あの時あなたが私を救ってくれなかったら、私は今頃、口にするのもおぞましい生活をしていたでしょう。あるいは、すでに死んでいたかもしれません」
「『おかげ』というなら、俺もお前のおかげで領民と交流することが増え、三年前よりは随分良い領主になれた。俺たちの出会いは、互いにとって良縁だったというわけだな」
「この領地の税が軽いのは、善良な人々が健やかに暮らすためだ! 何不自由ない生活をしておきながら、我が子を売るような者を養うためではない! 牢にぶち込まれたくなければ、とっとと失せろ!」
「ひっ、ひいぃぃぃぃ……っ」
そして『お母さんだった人』は、逃げるようにお屋敷を去りました。
侯爵様は「ふん」と息を吐き、私の方を見て言います。
「本当に、これで良かったのか?」
私は、頷きます。
「はい。わざわざ裁判をしてまで、殊更に彼女をいたぶる必要はないと思います。それに私、あの人には感謝しているんです」
「育ててもらったことをか?」
「それもですけど、彼女が私を捨てなかったら、私、こうやって侯爵様のおそばにお仕えすることができませんでしたから……」
「そうか……そうだな。ああいう女は許せんが、それでもお前との縁を繋いだことに免じて、ここで手打ちにしておくか」
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それから、三年の月日が流れました。私も17歳となり、一般の使用人と同じ仕事を任せてもらえるようになって、日々、充実した日々を過ごしています。
マブドの腕は、三年前とは比較にならないほど上達し、今では10回やれば、9回私が勝つようになりました。今日も侯爵様は、悔しそうに頭をかきます。
「ええい、また負けた。リネット、少しは手加減しろ」
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「まったく、あの大人しい娘が、よくもここまで生意気になったものだ。ああ言えばこう言うんだからな」
「侯爵様のおかげです。あの時あなたが私を救ってくれなかったら、私は今頃、口にするのもおぞましい生活をしていたでしょう。あるいは、すでに死んでいたかもしれません」
「『おかげ』というなら、俺もお前のおかげで領民と交流することが増え、三年前よりは随分良い領主になれた。俺たちの出会いは、互いにとって良縁だったというわけだな」
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