この村の悪霊を封印してたのは、実は私でした。その私がいけにえに選ばれたので、村はもうおしまいです【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
30 / 34

精霊に愛された素晴らしき村の終焉 第6話

しおりを挟む
「おじいちゃん、なに悩んでるの! 村の連中を『おとり』にした方が、私たちが生き残る可能性が上がるんだから、迷う必要ないでしょ!?」

 清々しいほどに、自分のことしか考えていない進言であった。

「それもそうじゃな。あの悪鬼どもの素早さは尋常ではない。いかに駿馬でも、見つかればどうなるか分からん。ここはやはり、村人たちには『おとり』になってもらおう。新たなる村の長であるワシとお前を助けるためだ。連中にとっても、名誉ある死と言えるだろう」

 清々しいほどに、身勝手な決意であった。

 そして、究極の自己中心者二人は、誰にも見つからぬように、こっそり正面扉の施錠を解除すると、悪鬼たちの注意を引くように、時間差で点火が可能な爆竹をセットした。

 爆竹が破裂するまでのわずかな時間に、速やかに裏口へ向かい、馬に跨る二人。老人と少女とは思えぬほど手際のいい、軽やかな動きだった。自らのおこないのせいで、多くの村人の命が無残に消えることなど何とも思っていないような、軽やかな動きだった。

 次の瞬間、激しい破裂音が連続して鳴り響く。

 爆竹のことなど何も知らない村人たちが、パニックになって悲鳴を上げた。それから数秒後、音に引き寄せられた悪鬼たちが、勢いよく玄関の重たいドアを開いて侵入してくる。一体……二体……三体……四体五体六体七体八体九体十体十一体十二体十三体十四体十五体……

 驚くべきことに、悪鬼の行列はまだ終わらない。館に入って来た数だけでも、二十体はいる。外には、その倍はいるようだった。

 そして、地獄が始まった。

 堅牢なはずの扉が何の抵抗もなく開いたことで、混乱と恐怖の極みに達する村人たち、ある者は正気を失い、狂ったまま悪鬼に食われた。ある者は持っていたナイフで自らの首の血管を切り、自殺した。またある者はヤケクソになって悪鬼に突撃し、一撃で返り討ちにあって絶命した。

 館の村人が全滅するまでの時間は、ほんの数分だったが、その『ほんの数分』だけでも、悪鬼たちの注意を引きつけ、完璧に足止めできたことは非常に大きかった。

 カレンの祖父と姉は、当初の思惑通りに、駿馬に乗って村を脱出する。多くの村人を犠牲にしたというのに、二人の口元には『計画が上手くいった』という歓喜の笑みすら浮かんでいた。

 軽快な蹄の音と共に、荒れた山道を駆けていく駿馬。ここは、他の地方へと続く唯一の道。ここさえ抜ければ、大きな商業都市につく。そこで悪鬼のことを報告すれば、国が軍隊を動かして、あんな化け物ども、すぐに駆逐してくれるだろう。

 どうにか窮地を切り抜けたことで、カレンの祖父と姉は、やっと人心地がつき、余裕が生まれたようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?

木山楽斗
恋愛
平民であるため、類稀なる魔法の才を持つアルエリアは聖女になれなかった。 しかしその実力は多くの者達に伝わっており、聖女の部下となってからも一目置かれていた。 その事実は、聖女に選ばれた伯爵令嬢エムリーナにとって気に入らないものだった。 彼女は、アルエリアを排除する計画を立てた。王都を守る結界をアルエリアが崩壊させるように仕向けたのだ。 だが、エムリーナは理解していなかった。 部下であるアルエリアの失敗の責任を取るのは、自分自身であるということを。 ある時、アルエリアはエムリーナにそれを指摘した。 それに彼女は、ただただ狼狽えるのだった。 さらにエムリーナの計画は、第二王子ゼルフォンに見抜かれていた。 こうして彼女の歪んだ計画は、打ち砕かれたのである。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

「役立たず」と婚約破棄されたけれど、私の価値に気づいたのは国中であなた一人だけでしたね?

ゆっこ
恋愛
「――リリアーヌ、お前との婚約は今日限りで破棄する」  王城の謁見の間。高い天井に声が響いた。  そう告げたのは、私の婚約者である第二王子アレクシス殿下だった。  周囲の貴族たちがくすくすと笑うのが聞こえる。彼らは、殿下の隣に寄り添う美しい茶髪の令嬢――伯爵令嬢ミリアが勝ち誇ったように微笑んでいるのを見て、もうすべてを察していた。 「理由は……何でしょうか?」  私は静かに問う。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

処理中です...