この村の悪霊を封印してたのは、実は私でした。その私がいけにえに選ばれたので、村はもうおしまいです【完結】

小平ニコ

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精霊に愛された素晴らしき村の終焉 第5話

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 その間抜けな悲鳴が十秒ほど続いた後、ひと際甲高い声を上げ、カレンの父はもういかなる声も発することはなくなった。

 鮮血にまみれた口を不満げに尖らせ、悪鬼は言う。

「ちぎれちゃった。ちぎれて、ばらばらになっちゃった」
「もろいな。人間って、もろいな、もろもろもろ、うへへへへ」
「つまんないの。つまんないの。もう食べちゃお。食べちゃお」

 その後は骨を噛み砕く音と、肉の潰れる音がひたすらリビングに木霊していた。





 凄惨な食事会が終わると、悪鬼たちは家を出た。

 彼らの身長に対しては低すぎる玄関を、大きくかがんでくぐる悪鬼たち。どういうわけか、その数は三倍の九体に増えていた。

 九体の悪鬼は、もう足並みをそろえることもなく、各自散らばって、村の家々を訪問していく。村の人間は皆、クォールとカレンの警告を聞いていたが、カレンの父と同じく、避難したものはいなかった。彼ら、彼女らは、助かるチャンスをドブに捨てたのだ。

 村人たちの心に、わずかでも『慈愛ある山の神』を信じる心があれば、この惨劇は回避できただろうに。カレンの家族たちが、ほんの少しでもカレンを哀れに思い、罪悪感を抱き、彼女の声を覚えていれば、こうはならなかっただろうに。

 しかし、もうすべては詮無いこと。村人たちは、恐怖に泣き、叫び、狂い悶えながら、悪鬼たちに生きたまま喰われた。

 突然のことで、逃げ出せたものはごく少数だった。

 その『ごく少数の人々』は、現在長老の館に集まっている。この館は、田舎の村には似つかわしくないほど堅牢なつくりであり、悪鬼の怪力をもってしても、簡単に壁やドアを壊して侵入することはできない。

 ちなみに、この長老の館に、長老本人はいなかった。たまたま外を散歩していた長老は、悪鬼と鉢合わせし、そのまま頭から食べられて、今は下半身だけとなり地面に横たわっている。

 残った村人たちのリーダーとなったのは、カレンの祖父である。自らの家から名誉ある『いけにえ』を出したことで、彼の村での地位は村長に次ぐナンバー2となっており、今回繰り上げのような形で、とうとうナンバー1になれたというわけだ。

 しかし、せっかくナンバー1になっても、もうじき死ぬのでは意味がない。どんなに堅牢な建物でも、いずれ悪鬼たちは侵入してくる。そうなれば全滅だ。

 ……こうなったら最終手段である。全滅してしまうくらいなら、震えて縮こまっている村人たちには『おとり』になってもらい、自分と、可愛い孫娘の命だけは守らなければ。

 そう決断してからのカレンの祖父の行動は早かった。カレンの姉にだけ作戦内容を打ち明けると、二人は館の裏口から脱出ルートを確保し、村長の所有する駿馬に鞍を取り付けた。これで、いつでも出発できる。後は『おとり』作戦を決行するだけだ。

 だが、館の裏に悪鬼の気配は全くなく、馬にさえ乗ってしまえば、哀れな村人たちをわざわざ『おとり』にしなくても、案外問題なく逃げられるかもしれない。カレンの祖父はしばし悩んだが、その悩みを蹴り飛ばすようにカレンの姉が催促する。
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