追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第5話

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 私、地理の本も全部暗記してるけど、『ダンゼルド』なんて地名、しらないわ。

 いいじゃない。

 実に知的好奇心がそそられる。

 私ですら解読できない、意味不明の文字。
 私ですら知らない、『禁断の地、ダンゼルド』

 なんだかワクワクしてきたわ。

 日がな一日、のんびりと魔術研究に打ち込む日々も嫌いじゃなかったけど、よく考えたら、私も若いんだし、こんな森の奥で、ず~っと仙人みたいな暮らしを続けるのも、あまりいいことじゃないわよね。

 よし、決めたわ。

 王太子に喧嘩を売った以上(仕掛けてきたのは向こうだが)、安穏とこの国で過ごすことはできないでしょうし、思い切って旅に出ることにしましょうか。目的地はもちろん、『禁断の地、ダンゼルド』よ。私が本気で探せば、すぐに見つかるでしょ。

 と言うわけで、思い立ったが吉日。
 私はお気に入りの黒帽子をかぶって、家を出た。

 手持ちの荷物は、少々のお金と、『禁断の地、ダンゼルド』の手掛かりになり得る、『黒い本』だけだ。他には、別に思い入れのある物などないし、私がいなくなった後、誰にどうされようとも、別に構わない。私は、物や場所に執着しないのだ。

 家の外に立てかけてあった箒を手に取り、エレガントに腰かけると、空中に飛翔する。……箒で空を飛ぶなんて、10歳の頃以来だけど、案外、体がやり方を覚えているものね。私は鼻歌を歌いながら、森の上に出た。

 ……おや?
 おやおや?

 街道に、なにか行列が見えるわね。

 行列は一直線に、私の住んでいた森に向かっている。
 よく目を凝らすと、それが軍隊であることが分かった。

 そして、その軍隊を率いているのは、白馬に乗った王太子デルロックだ。

 あちゃ~……

 さっきの脅しで、とりあえずは戦意を喪失したと思ったけど、今度は軍隊を率いて、戻って来たってわけね。なかなか根性がありますな~。

 多少なりとも魔法の才能のあるデルロックは、空を飛ぶ私の魔力を感知したのだろう、行軍を止めさせ、こちらを指さし、何やらぎゃあぎゃあと喚いている。

 数秒遅れて、軍隊は私に向かって、矢を放ってきた。

 おお。
 凄い数ね。

 まるで、地上から空に向かって、雨が昇っていくみたい。

 私は呪文を口ずさみ、矢の雨を、花びらに変えた。

 旅立ちにふさわしい、花吹雪だ。

 膨大な数の矢が、一瞬で花へと変わったことで、軍隊がたじろいでいるのが、上空からでもよくわかる。私は彼らに向かって、にこやかに手を振った。

「祝福のお花、どうもありがとう~! 火あぶりにされるのはごめんだけど、私はこの国を出ていくから、もう心配いらないわよ~! じゃあね~!」

 地面から、王太子デルロックの金切り声が響いて来る。

「ま、魔女ラディア! 貴様を、この国から永久に追放する! もう二度と、戻ってくることは許さん!」

 言われなくても戻ってくる気はないが、デルロックとしては、自らが率いる軍隊の手前、形だけでも、『自分が魔女を追放した』ということにしておきたいのだろう。

 くだらないメンツだと思うが、まあ、私としては、どうでもいいことだ。
 私はもう一度、地上に向かって笑顔で手を振ると、彼方の空へと旅立った。

『禁断の地、ダンゼルド』……そして、まだ見ぬ世界を目指して……
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