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第4話
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本来なら優秀であるはずの近衛兵でさえこのザマだから、その気になれば、私を害する者すべてを薙ぎ払い、ここに住み続けることもできる。……しかし、ハッキリ言って、私はそこまでするほどこの家に愛着はないし、この国自体にも、まったく愛着がない。
だいたい、もともと争いごとは嫌いだ。鍛え上げた魔力と魔法の知識を、人を傷つけるために使うなんて、愚か者のすることだもの。まあ、争いごとになったとしても、誰にも負けはしないけどね。
ん~。
さあて。
これから、どうしようかなあ。
私は大きく背伸びをし、何気ない仕草で、戸棚から一冊の本を手に取る。
それは、母が生前に書き記した日記だった。
いや、実を言うと、これが本当に日記なのかは、わからない。表紙は真っ黒で、何も書かれていないからね。……ただ、母は毎日、夜になると、この『黒い本』を開き、何かを書き記していた。だから幼い私は、当然のように、日記だと思っていたのである。
私は、『黒い本』を、開いた。
この家には書物が山ほどあり、私はそのすべての内容を暗記しているが、この『黒い本』を開くのは、初めてのことだった。そりゃそうよ。死に別れた親のものとはいえ、他人の日記を覗き見るほど、私は俗な人間じゃないもの。
じゃあ、なぜ今になって、母の日記を見る気になったのか。
……その理由は、自分でもよくわからなかった。私はまるで、本自身に呼ばれたかのように、自然と『黒い本』を手に取り、そして、開いてしまったのである。
『黒い本』の中身を見て、私は驚いた。
読めない。
書いてあることが、まったく理解できない。
自慢ではないが、私はこの世界で使われている、あらゆる言語を話し、そして、あらゆる文字を解読することができる。……その私が、『黒い本』に書かれている文字を、ただの一つだって、読むことができない。
もしかしてこれ、ただの落書き帳なんじゃないの?
一瞬そう思ったが、小さな子供ならともかく、母が毎夜、落書き遊びをしていたとは考えにくい。……それに、良く読み込むと、意味不明な文字だが、ある程度の規則性があり、何かの暗号のようにも思えてくる。
私は、微笑んだ。
そして、隣で立ち尽くしている石像の兵士に、声をかける。
「私、こういう暗号みたいなの、好きなのよね。知的好奇心をそそられるから。……母さんは、毎日毎日、いったい何を書き記していたのかしら。ねえ、石の兵士さん、あなたはどう思う?」
当然、石の兵士は、何も答えなかった。
私はおどけて、言う。
「あなたって無口なのね。でも、おしゃべりな男より、よっぽど素敵よ」
そして、ぱらぱらと、『黒い本』をめくっていく。
……おや?
『黒い本』の最終ページに、写真が挟まっている。
これは、風景写真ね。
随分と薄暗いところみたいだけど、よく見ると、草原のように見える。そして、その草原の上に、石の柱や、奇妙なモニュメントがあり、どことなく、遺跡的な感じがする。
私は写真を手に取り、裏を見た。
裏には、『黒い本』に記されているような、意味不明の文字ではなく、この世界の公用語で、こう書かれていた。
『禁断の地、ダンゼルド』
ふ~む……
禁断の地ねぇ……
だいたい、もともと争いごとは嫌いだ。鍛え上げた魔力と魔法の知識を、人を傷つけるために使うなんて、愚か者のすることだもの。まあ、争いごとになったとしても、誰にも負けはしないけどね。
ん~。
さあて。
これから、どうしようかなあ。
私は大きく背伸びをし、何気ない仕草で、戸棚から一冊の本を手に取る。
それは、母が生前に書き記した日記だった。
いや、実を言うと、これが本当に日記なのかは、わからない。表紙は真っ黒で、何も書かれていないからね。……ただ、母は毎日、夜になると、この『黒い本』を開き、何かを書き記していた。だから幼い私は、当然のように、日記だと思っていたのである。
私は、『黒い本』を、開いた。
この家には書物が山ほどあり、私はそのすべての内容を暗記しているが、この『黒い本』を開くのは、初めてのことだった。そりゃそうよ。死に別れた親のものとはいえ、他人の日記を覗き見るほど、私は俗な人間じゃないもの。
じゃあ、なぜ今になって、母の日記を見る気になったのか。
……その理由は、自分でもよくわからなかった。私はまるで、本自身に呼ばれたかのように、自然と『黒い本』を手に取り、そして、開いてしまったのである。
『黒い本』の中身を見て、私は驚いた。
読めない。
書いてあることが、まったく理解できない。
自慢ではないが、私はこの世界で使われている、あらゆる言語を話し、そして、あらゆる文字を解読することができる。……その私が、『黒い本』に書かれている文字を、ただの一つだって、読むことができない。
もしかしてこれ、ただの落書き帳なんじゃないの?
一瞬そう思ったが、小さな子供ならともかく、母が毎夜、落書き遊びをしていたとは考えにくい。……それに、良く読み込むと、意味不明な文字だが、ある程度の規則性があり、何かの暗号のようにも思えてくる。
私は、微笑んだ。
そして、隣で立ち尽くしている石像の兵士に、声をかける。
「私、こういう暗号みたいなの、好きなのよね。知的好奇心をそそられるから。……母さんは、毎日毎日、いったい何を書き記していたのかしら。ねえ、石の兵士さん、あなたはどう思う?」
当然、石の兵士は、何も答えなかった。
私はおどけて、言う。
「あなたって無口なのね。でも、おしゃべりな男より、よっぽど素敵よ」
そして、ぱらぱらと、『黒い本』をめくっていく。
……おや?
『黒い本』の最終ページに、写真が挟まっている。
これは、風景写真ね。
随分と薄暗いところみたいだけど、よく見ると、草原のように見える。そして、その草原の上に、石の柱や、奇妙なモニュメントがあり、どことなく、遺跡的な感じがする。
私は写真を手に取り、裏を見た。
裏には、『黒い本』に記されているような、意味不明の文字ではなく、この世界の公用語で、こう書かれていた。
『禁断の地、ダンゼルド』
ふ~む……
禁断の地ねぇ……
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