追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第13話(デルロック視点)

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「ほう、わかっているではないか。身の程をわきまえているなら、私もこれ以上、お前をどうこうする気はない。どこへなりと行き、学者にでも何でもなるがいい」

「そうさせてもらいます。……時に、兄上。森に住む魔導師を、火あぶりにしたと言うのは本当ですか? さっき、民衆がそう叫んでいたのが、耳に入ったのですが」

 民衆というのは、本当に愚かなものだ。魔女の家の残骸を見せつけただけで、魔女ラディアを火あぶりにしたと、勝手に勘違いしたらしい。

 私は鼻で笑い、言う。

「残念だが、火あぶりにはできなかった。だが、魔女は追放した。お前のようにな。もう、二度と戻って来ることはあるまい」

 マールセンは自らの胸をなでおろし、ホッと息を吐く。

「良かった。何の罪もない者を火あぶりにするなど、あってはならないことです。そのラディアさんも、こんな歪んだ国を出ることができたのなら、それはそれで、良いことだったのかもしれませんね」

 なんとなく、引っかかる物言いだった。
 私は眉を顰め、やや厳しい声を出す。

「今の言葉、聞き捨てならんな。『何の罪もない者』だと? 魔女ラディアは、神の啓示よって告げられた大罪人だ。お前は神の言葉を侮辱するのか? それに今、『歪んだ国』と言ったな。それは、どういう意味だ?」

「言った通りの意味です。この国は、王族も、高官も、民衆も、歪んでいる。……父上は国民を顧みず、兄上は権力の頂点に立つことしか考えていない。そして僕は、そんな二人を、満足に諫めることもできない。まさに、歪んだ王族です」

「なんだと……」

「本来なら王のまつりごとを正しい方向に導く立場にある高官は、そのほとんどが、自分たちの派閥と権力闘争にしか興味がない。これでは、国が良くなるはずがありません。父上の治世は酷いものでしたが、それでも、高官たちが実直であったなら、この国も、今よりはずっとまともだったでしょう」

「…………」

「そして残念なことに、民衆の心も歪んでいる。彼らはいつも、困窮の原因を他人にせいにし、自ら努力して生活を改善する気がまったくない。彼らは今、『邪悪な魔女を追い出したことで自分たちの生活が良くなる』と騒いでいますが、なぜそういう発想になるのか、僕には理解できない」

「ふん、そんな愚民どもを導いてやるのが、選ばれし王の責任だ。国を出ていくお前が、偉そうなことをほざくな」

「おっしゃる通りです。僕の言っていることは、所詮は本で学んだ理想論。現実は、理想通りにはいかないもの。だから僕は、人の上に立ち、まつりごとをおこなう器ではないのです。……では、僕はそろそろ行きます。兄上、お元気で」

 そしてマールセンは、闇に溶けるように、姿を消した。

 ……ふん、『歪んだ国』だと? それはまあ、そうだろうな。無能な父の治世が、長く続きすぎた。そりゃ、国だって歪むさ。しかし、これからは違う。この私が、王になったのだから。

 見ていろ、マールセン。
 この国は、あっという間に良くなるぞ。

 愚民どもも、上手く使ってやればいい。
 馬鹿は馬鹿なりに、使い道があるのだ。
 本ばかり読んでいるお前には、それがわからんだろう。

 ……それにしても、今日は少し疲れた。
 一度に、色々なことがあり過ぎたからな。

 ひとまず睡眠をとろう。
 本格的に国のかじ取りをするのは、明日からだ。

 私は寝室に赴き、ベッドに横たわる。
 疲労のためか、途端に眠気がやってきた。

 泥のような眠りに落ちていく最中、また、あの声がした。

『愚か者。お前は、してはならぬことをした』

 声は、さらに言葉を続けた。

『破滅の時は、迫っている。もう、救いはない』
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