127 / 185
第二十三章
7
しおりを挟むとくんと胸が鳴った。
(なに……今の……)
たぶん意識がはっきりしていなかったのだろう。
『いつ』の僕に話し掛けていたのか。
それでも。
優しい声で、優しく撫でられて……僕はさっきまでとは違う涙をほろりと落とした。
その日僕がいる間には、もう目覚めなかった樹。
翌日の放課後に行って仕切りのカーテンの中に入ると、もう起き上がっていた。
頭側のフレームに背を凭せ掛けていた。
「いっくん! 目がっ……!」
吃驚し過ぎて大声を出してしまう。ここが病院であることを思い出し、慌てて自分の口を押さえた。
「ごめん」と謝ってから。改めて、
「いっくん、目が覚めたんだね。起き上がって大丈夫なの?」
小声で訊いた。
「ああ、少し熱あるけどもう平気だ」
声も顔も素っ気ない。
(目が覚めたら、どうなるんだろう)
昨日は優しい声で優しい言葉をくれて、優しく撫でてくれた。
でも、ちゃんと目覚めた時の樹は。
また元の冷たさに戻ってしまうのだろうか。
それは昨日からずっと考えていたことだ。
「そ……っか、良かった……」
どういう態度を取っていいのかわからず、立ち尽くす。
「座れば」
「あ……うん……」
取り敢えず勧められるままに、ベッドの脇にあるパイプ椅子に座る。
しかし樹の顔は見れず、上掛けの上にある樹の手を、吊るされた腕を見た。これは骨折した肩の保護の為だろう。
痛々しさに胸がきゅっと痛む。
「ナナは……」
名を口にされ、やっと樹の顔を見上げる。
声にさっきまでの素っ気なさが消えたから。
その瞳が酷く心配げに揺れていた。
「大丈夫なのか?……彼奴に叩かれてたろ……怪我は……?」
僕のことを心配してくれる言葉。その言葉だけで涙が出そうになる。
「うん、大丈夫だよ。腕の打撲と……これ……」
僕はなんとなく恥ずかしい心持ちで、両手首を上掛けに乗せて鬱血痕を見せた。
見せたら余計心配させちゃうかなとも思ったけれど、黙っていて後からわかるほうが樹が悲しい思いをするような気がした。
樹は骨折していないほうの手で、その鬱血痕を優しく擦った。
「痛いな……これ」
(いっくん……っっ。なんで、今日そんなに優しいの……っっ)
避けられている日々が続いた。
嘘も吐かれた。
僕らを守る為だったのかも知れない。
でも、辛くて哀しい日々だった。その時の気持ちが一瞬にして甦り、そして──。
今の樹は、その前までの樹とも少し違って、そう、子どもの頃の彼のように感じた。
──哀しみは温かさに塗り替えられた。
「もう、痛くないよ」
僕は涙が出そうなのを我慢しながら言った。少し声が震えているかも知れない。
「いっくんが……いっくんが守ってくれたから、僕は酷い怪我をしなくて済んだんだ。いっくんが……僕の代わりに怪我をしたから……」
もう我慢が出来なかった。ぼろぼろっと涙が零れてしまう。
59
あなたにおすすめの小説
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる