はじまりの朝

さくら乃

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第二十三章

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 僕は目をひらいた。
 僕を包み込んでいたのは、樹の身体だった。
 更にその身体を通して衝撃が伝わって来る。
「つぅっ」
 と彼は小さく呻いた。
 僕の顔に何かが落ちてくる。
 汗? と思って樹の顔を見ると、その顔は血に染まっていた。
 「いっくん、血が」
 手が動かせないのがもどかしい。
 身体だけでも動かそうとする僕に彼は言う。
「じっとしていろ」
 彼は力を込めて僕を抱き締めた。
 
 それから遠くで何人かの声がして、やがて明たちの顔が見えた。
 鉄パイプを持った男は彼らに取り押さえられていた。
 それを見た途端緊張の糸が切れた。


(そう。
 僕は本当は。
 ずっとずっと緊張していたんだ)

 
 ──意識が遠退くのを感じた。



★ ★



 ──あの後どうなったのか。


 目覚めれば、白い天井と母の心配そうな顔があった。
 僕は鉄パイプで殴られた片腕の打撲と、縛られた両手両足の鬱血痕があるだけで目立った外傷はなかった。軽い脱水症状があった為に、目が覚めた時には点滴が繋がれていたが、それを終えると帰宅の許可が降りた。
 

 母は夜になっても帰って来ない僕を心配していた。そんな時に樹から「俺に心当たりがあるので、自宅で待機していてください」と言う連絡を貰った。
 この病院にいることを伝えたのは明だった。何故なら樹が連絡を出来る状態ではなかったからだ。
 明は病院側に樹の自宅の電話と、父親の勤務先の名も教えた。樹の父親は一度病院にやって来たが、樹の状態を医師から聞いた後にすぐに帰って行ったという。


 そして僕は今──学校を終えて樹の眠るベッドの傍らにいる。
 彼はまだ目覚めていない。
 右肩骨折、頭部裂傷、数か所の打撲。全治3か月の重症だ。
 怪我を要因とする熱もあり、時々うっすらと目を開けるがまた眠りについてしまう。
 本当は名前を呼んで揺り起こしたいけど。きっと今は眠ることが大事なのだろう。
 僕はここに来てからただ見守ることしか出来ない。
 額から頭の後ろに巻かれている包帯が痛々しい。
 顔にある擦り傷に触れないように、時々汗を拭いてあげる。
 樹は六人部屋の窓側で、もう外は真っ暗だった。

(そろそろ帰らなきゃ……でも。もう少しだけ)

 僕は樹の上掛けの上に突っ伏した。
「いっくん……目を覚まして」
 樹には聞こえていないのに、声に出して言ってしまう。その声も涙で震えていた。

「ナナー……何泣いてんだ……」

 不意に掠れた声が聞こえ、頭に大きな掌が乗った。
「いっくん!」
 がばっと顔をあげると、樹の目が薄く開いていた。
「誰かに苛められたのか……泣くなよ……俺、お前が泣くと胸が痛むんだ……俺に……言ってみろ……そんな奴俺が…………」
 ゆっくりと手を動かし、頭を撫でてくれる。
 それから──また、目を閉じた。

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