悪役令嬢だと断罪されたけど、攻略対象全員に追いかけ回されています

ゆっこ

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 断罪式(という名の茶番)は大混乱のまま終了した。

 本来なら、わたくしが“ざまぁされる側”になるはずだったのに――
 気づけば逆に、ユリウス殿下が四方向から怒鳴られ、責められ、最終的に膝から崩れ落ちていた。

 ……うん、ざまぁだけれど、ちょっと可哀想になるくらいにはテンポが早かった。

 問題は、ここからだった。

「アリシア様、こちらへ! 馬車をご用意しております!」
「いや、アリシアは僕が迎えに来た馬で……」
「アリシア嬢は私の屋敷に滞在するのが安全だ」
「アリシア様ぁぁぁ! お隣に座ってもよろしいですの!?」

 攻略対象とヒロインに取り囲まれたまま、大広場を抜けたわたくしは、逃げ場を探していた。

(家に帰りたい……!)

 庶民的な願望だが、今はそれが一番大事だ。

「皆さま、わたくしは自宅に帰りますわ。仮にも今は混乱状態……まずは心を落ち着かせたいのです」

 すると4人+1人が、一斉に振り返る。

「「「「「では僕(私/俺/わたくし/拙者)もご一緒に!!」」」」」

 いや、だからなぜそうなるのだ。

「同行してどうしますの!? わたくしは一人で――」

「護衛が必要だろう」
「心細くないように」
「アリシア嬢はモテすぎて危険だ」
「アリシア様と一緒にいたいだけです!」
「アリシア様、私の膝枕はいかがですの!?」

 リリア様、それは“護衛”ではございません。

 わたくしは深いため息をつき、じりっと後ずさる。

「では……これで失礼しますわね?」

 意を決して、ドレスの裾を手で軽く持ち上げ――

 全力で走った。

「アリシア!?」
「待ってくださいアリシア様ぁぁ!」
「アリシア嬢!? 走らなくても……!」
「アリシア様ぁーー!!」
「拙者も走るでござるーー!!」

 ……最後の一人、誰!?
 振り返る暇もなく、わたくしは石畳を滑るように駆け抜ける。

「はぁ……はぁ……!」

 ドレスで全力疾走など普通はしないが、そんなことを考えていられる状況ではなかった。

(あの方々から逃げるには……最早これしかありませんわ!)

 王宮の中庭を抜け、貴族用の通用口から裏通りへと飛び出す。

 そのまま馬車置き場へ向かうと、そこに――

「お嬢様!?」

 わたくしの家の従者ジェイドが、驚いた顔で立っていた。

「ジェイド! 早く馬車を! 急いで屋敷に戻りますわ!」

「は、はいっ!」

 従者の迅速な対応は素晴らしい。
 わたくしは勢いよく馬車に乗り込むと、すぐに扉を閉めた。

 ばたん。

「さあ、出して――」

 ……が、馬車が動かない。

「ジェイド? 何をして……」

「申し訳ありません、お嬢様。馬車の前に、人が……」

「人?」

 カーテンをわずかに開いて覗くと――
 そこには5人の影が。

「アリシア!! 僕たちも乗る!!!」
「狭くても構いません、失礼します!」
「アリシア嬢、膝の上でも大丈夫だ」
「アリシア様ぁぁ!!!」
「拙者も!!!」

 拙者……ああ、あれは武道科の筆頭生徒ギンジローだったのね。今思い出した。

 って、そういう問題ではない!

「乗せませんわよ!?」

 慌てて窓を締め切り、扉に鍵をかける。

 しかし外からはガチャガチャと扉を開けようとする音が――

「アリシアぁぁぁ!!!」
「せめて話を!!」
「アリシア様!! お茶だけでも!!」

「ジェイド!! 出しなさい!! 今すぐ!!」

「は、はいっ!」

 馬車が急発進し、驚いた彼らがばらける。

 その隙に、馬車は全速力で裏道へ――

「アリシアァァァァァァ!!!」
「また会いに行きますからねぇぇぇ!!!」
「アリシア嬢、必ず!!」
「アリシア様ぁぁぁ!!!」

 声が遠ざかっていく。

 ……逃げ切った。
 心の底から安堵の息をつく。

「……はぁ、やっと静かに……」

 と思った矢先。

 馬車の天井から、

 コン、コン。

(……え?)

 はっと見上げると、車内の天窓がぱかっと開き――

「アリシア様……!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!!?」

 そこには、涙ぐんだ顔で覗き込むリリア様がいた。

 なぜ天井!? どうやって!?

「アリシア様、お逃げになるなんて酷いですわ……! 私、悲しくて……!」

「リリア様、どうやってそこに!?」

「愛の力ですわ!!」

 答えになっていない。

 しかしリリア様が落ちないようにと必死で手を伸ばすと――

「リリア、危ない!」
「そっちに行くな!」

 天窓を横から掴んで引き寄せる手が二つ。
 レオンとアランだ。

「なぜそなた達まで天井に!?」

「アリシアが逃げたら追いかけるに決まっている!」
「アリシア嬢、あなたの安全のためです」

「安全のために天窓から侵入するという発想はどこから!??」

 天窓というより、もはや“猫用の出入り口”のような状態だ。

 シェリル様まで後ろから顔を出してきて、ぎゅうぎゅう詰めで天井が落ちそうになる。

「アリシア様ぁぁ! お昼ご飯は何が好きですの!? 私作れますわ!!」

 あなた、料理できましたの?

「ジェイド!! 速度を上げて!!」

「で、でも天井の上に皆さんが……!」

「そんなことより命が大事!! 行けぇぇぇ!!」

 馬車は再度速度を上げ、攻略対象たちは天窓からずり落ちかけ――

「アリシアぁぁぁぁ!!!」
「また行きますからねぇぇぇ!!!」
「待ってくれアリシア嬢!!」
「アリシア様ぁぁ!!」
「拙者ぁぁぁぁ!!」

 次々と振り落とされていった。

 ……やっと、本当に、静かになった。

 

 屋敷に戻ると、父と母が玄関で待っていた。

「アリシア!? 断罪されたと聞いて慌てて戻ってきたのよ!」

「おまえ……無事か? 誰かに傷つけられたんじゃないか?」

 両親の心配そうな顔を見て、胸がじんと熱くなる。

「大丈夫ですわ……むしろ問題は、わたくしを追いかける方々のほうで……」

「追いかける……?」

「攻略対象全員とヒロインが……」

「は!?」

 説明すると、両親は揃って絶句した。

「アリシア……おまえ、いつのまにそんなモテモテに……」

「わたくしにもわかりませんわ……気づいたら……」

 父が額を押さえる。

「それではお前は、断罪されるどころか求婚者が増えて帰ってきたのか?」

「はい……五名ほど……」

「五名!? 多い!!」

「一名は女性でして……」

「さらに複雑!!」

 両親の困惑をよそに、私は自室に戻った。

 ふかふかのベッドに沈み込み、天井を眺める。

(はぁ……やっと落ち着ける……)

 そう思った瞬間――

 コン。

 窓に、小さく何かが当たる音がした。

(…………嫌な予感しかしませんわ)

 恐る恐るカーテンを開けると。

そこには。

「アリシアぁぁぁ!! 会いに来たよぉぉぉ!!!」
「アリシア嬢、窓を開けてくれ!!!」
「アリシア様ぁぁ!! 私、クッキー焼いてきましたの!!」
「アリシア!! もう帰ってきたのか!?」
「拙者も来たでござるぅぅぅ!!」

 ――攻略対象+ヒロインが、屋敷の外に勢ぞろいしていた。

 なぜこんなに行動が早いのか。

「ジェイド……門を閉めなさい……できるだけ強固に」

「も、もう閉めてます!! でもあの方々が……!」

 門の前で、五人が必死に顔を押し付けてこちらを見ている。

「アリシアぁぁぁ!!!」
「僕たちのこと、嫌いにならないで!!!」
「アリシア様!! お菓子を受け取ってくださいませぇぇ!!」
「アリシア嬢ーーー!!!」
「拙者ぁぁぁぁ!!」

 ――逃げても逃げても追いかけてくる攻略対象たち。

 悪役令嬢と断罪されたはずなのに、なぜか全員がわたくしに執着している。

(わたくし……どうすればよいの……?)
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