悪役令嬢だと断罪されたけど、攻略対象全員に追いかけ回されています

ゆっこ

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 門の前に勢ぞろいした攻略対象+ヒロインを横目に、私は深いため息をついた。

「……どうしてこうなりましたの?」

「お嬢様、わたくしに聞かれても……」
 ジェイドが困った顔で肩をすくめる。

 外では、五人がわちゃわちゃしながら私を呼んでいる。

「アリシアぁぁ!! 返事してぇぇ!!!」
「アリシア嬢、冷たくしないでくれ!!」
「アリシア様、私のお菓子……無視ですの!? つらいですわ……!!」
「アリシア!! 出てきて話をしよう!」
「拙者も仲間に入れてほしいでござるぅーーー!!」

 ……声量、五通り全部うるさい。

 とくに拙者が混ざると余計にカオスだ。

(どうにかして、静かに過ごしたい……)

 そう願いながらも、私はとりあえずリビングへ降りていく。

 両親が心配そうに待ち構えていた。

「アリシア……あの者たち、帰る気配がないのだが」
「むしろ増えた気がするわ……」

 母の言葉どおり、外をちらりと見ると、

「アリシア様のお茶請けを用意しました!」
「アリシア嬢、これを見て癒やされてくれ……!」

 レオンとアランがプレゼント用らしき箱を次々と門の隙間に押し込んでいた。

 門の隙間からギフトボックスがにょろにょろ出てくる様は、怖い。

「アリシア様ぁぁぁぁ!!!」
 シェリルの叫び声も聞こえる。

「これが……愛されるということ……?」
 母が呟く。

「違う気がしますわ……」

 父が「どうする?」と視線を向けてくる。

「このままでは近所迷惑ですわ。何とか、帰っていただかなくては……」

「それができれば苦労しないのだけどな……」

 父が遠い目をする。

 娘を愛しすぎている者達を相手に、普通の説得が通用すると誰も思っていない。

(はぁ……私が直接、追い返すしかありませんわね)

 覚悟を決め、私は玄関へ向かった。

「お嬢様!? 危険です!」
「行ってきますわ。ジェイド、扉は絶対に開けないで。わたくしも戻るまでは“鍵を外さない”こと」

「は、はい……!」

 ジェイドを残し、私は裏口から庭へ出て、ぐるりと回って門の前に立つ。

 五人が一斉にこちらに気づいた。

「アリシアぁぁぁ!!」
「アリシア嬢!!!」
「アリシア様ぁぁぁ!!!」
「アリシア!!!」
「拙者ぁぁぁ!!」

 声の重圧で風が吹いたような錯覚すら覚える。

「皆さま。ご来訪はありがたいのですけれど、今日はお引き取りくださいませ」

「「「「「嫌です!!!」」」」」

 全員、声を合わせる気満々じゃないの。

 リリアが涙目で門にしがみつく。

「アリシア様ぁぁぁ……! わたくし一人でも残りますわ……!」

「一人もダメですわ!」

「じゃあ二人でも……」

「増えてますわ!」

 アランが真剣な顔で言う。

「アリシア嬢、あなたが断罪されたと聞いて……いてもたってもいられなかったのだ」

「断罪は無効ですわよ……」

「それでも心配だ」

 レオンも食い気味に続ける。

「アリシア、君は優しすぎるから……誰かに利用されるんじゃないかと……!」

 いや、むしろ利用されているのは私の静かな生活のほうだ。

「アリシア様、私は貴女の味方ですわ……!!」
「拙者も!!」
 なぜ拙者まで堂々と混ざるのか。

「とにかく、今日は帰ってくださいませ!」

「「「「「嫌です!!!」」」」」

 五重奏の拒否。

 ……もうダメだ。

 このまま押し問答しても絶対に帰らない。

(ならば……わたくしも手段を変えるしかありませんわね)

 私はすぅっと息を吸い込み、扇子を開いた。

「承知しましたわ」

 五人が一斉に静まり返る。

(よし。これなら、話ができる)

「では……“皆さま平等に”お茶会をいたしましょう」

 静寂。

 五人が顔を見合わせて――

「「「「「やったぁぁぁぁ!!!」」」」」

 跳ねるかのような勢いで歓喜した。

(……案外、単純)

 しかし私は続ける。

「ただし――“一日につき一名”ですわ」

「え? 一名?」
「じゃあ今日は僕!?」
「いや私だ!」
「私ですわ!!」
「拙者でござる!!」

「そして順番は……“クジ引き”で決めます」

 五人が固まった。

「く、クジ……!?」
「アリシア嬢、それは……公平すぎる……!」
「私……運が悪いのだけど……」
「アリシアぁぁ……運試し……!!」
「拙者の運、見せてやるでござる!!」

 よし、作戦通り。

 “均等に扱われる”ということは、彼らの優越感や嫉妬心を刺激せず、かつ当面の混乱を避けられる。

(これでようやく、静かに寝られる……)

 私は微笑み、手をひらりと振った。

「では今日は解散ですわ。クジは後日、ご連絡いたします」

 五人は名残惜しそうに、しかし納得しながら帰っていった。

……リリア以外は。

 リリアは門の向こうで、わたくしを見つめ続けていた。

「アリシア様……寂しいです……」

「順番が来たら、ゆっくりお話ししましょう?」

「……は、はい……!!」

 ぱあぁっと花が咲いたように笑い、彼女も帰って行った。

 静寂。

 私はその場でへにゃりと膝をついた。

(疲れましたわ……)

 あまりの騒ぎに頭が痛い。

 しかし、ひとまずは収束したのだ。

(今日は……寝る前に甘いものでも食べましょう……)

 優雅に休息を取る未来がようやく見え始めた――その瞬間。

 ジェイドが庭側から走ってきた。

「お嬢様っ!!」

「どうしましたの? ジェイド……」

「大変です! 彼らが……彼らがっ!!」

「まだ帰っていないのですの?」

「あ、いえ、一度帰られたのですけれど……」

「なら問題ないでしょう?」

「違うんです……! 五人とも……!」

 ジェイドが震える声で言った。

「“屋敷の近くに仮設テント”を張り始めました!!」

「……」

「“明日まで待ってる”と言って……!!」

「………………」

 わたくしは、空を見上げた。

(この世界……逃げ場という概念、存在しませんの?)

 静かに、静かに涙が滲む。

 悪役令嬢のはずなのに、なぜか全攻略対象たちに取り囲まれ、追いかけ回される日々。

 断罪どころか――
 むしろ“愛され地獄”がエスカレートしている。

(……せめて、わたくしの部屋の窓から入ろうとするのはやめてくださいませ……)

 そんな控えめな願いを抱きながら、私は屋敷へと戻った。

 明日はきっと、今日以上に騒がしくなる。
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