悪役令嬢だと断罪されたけど、攻略対象全員に追いかけ回されています

ゆっこ

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 翌朝。
 私は侍女のエミリアに叩き起こされた。

「お嬢様っ、大変ですっ! 屋敷の前が……前が……!」

「んん……まだ朝日も昇りきってないのに……なにが……?」

 寝ぼけ眼をこすりながら、私はふらふらと起き上がった。
 エミリアは半泣きで私を引っ張っていく。

「見れば分かります! とにかく窓を!」

 言われるままにカーテンを開けると――

 

 そこには、攻略対象全員が、そろって正門の前に並んでいた。

 

 な、なんで……?
 まだ朝の五時よ? なにしてるのあいつら……?

 驚愕する私の横で、エミリアが震えながらつぶやいた。

「朝の五時から……皆さま……“順番待ち”をしておられます……」

「順番待ち……?」

「“レティシア様に一番に会いに行く権利”の……だそうで……」

 うそでしょ……?
 まさか本当に私を奪い合ってるの?

 いや、昨日のアレクシスで充分大変だったのに、今度は全員まとめて……?

 

 私は寝間着のまま、急いで外に出た。

 正門の外で待っていたのは……

・アレクシス(王太子)
・ラインハルト(騎士団長)
・ユリウス(宮廷魔術師)
・ルーファス(公爵家嫡男)
・フィリップ(宰相の息子)

 ……なにその並び順。
 どう見ても貴族の序列じゃない。昨日の“告白順”よね絶対。

 私が呆然と立っていると、一番前にいたアレクシスが真っ直ぐ歩いてきた。

「おはよう、レティシア。昨夜は眠れたか?」

「むしろあなた達のせいで眠れなくなりそうよ!」

 するとアレクシスが真顔で口を開いた。

「――レティシアを幸せにするのは、この私だ。他の男に遅れを取るつもりはない」

「待て、アレクシス殿下。昨日は殿下が先を越された。今日は俺が先だ」

 ラインハルトが剣を持っていないのに剣気みたいなのを放っている。
 戦いなしのはずなのに、雰囲気が戦場なのよ……!

 ユリウスはにこにこしながら扇子をひらり。

「ふふ、物騒なことを言うのはやめようよ。レティシアが怯えてしまう。
 ――ねえ、今日は僕と一緒に朝食をとらない? もう用意してあるんだ」

「は? 朝食ならウチの料理長の方が腕がいいに決まってるだろう」
 ルーファスが腕を組んで前に出る。

「というわけで、レティシア。今日は私の屋敷へ行こう。君専用の席も準備した」

「では僕は、午前の散策にお供しよう」
 フィリップが薔薇の花束を差し出す。

「今日の花言葉は“唯一の恋”。――レティシア様にぴったりだと思いまして」

「……………………」

 もうダメだ。
 朝から頭痛がする。

「ねえ、あなたたち全員……なんでそろって来てるのよ!?」

 私が叫ぶと、五人はなぜか堂々と答えた。

「「「「「レティシアの気持ちを勝ち取りに決まっているだろう」」」」」

 全員ハモった。
 なんで息ぴったりなのよ……。

 



 どうにか屋敷のサロンまで全員を招き入れ、私は必死に説得を試みた。

「いい? 私は断罪された『悪役令嬢』なのよ?
 あなたたち全員が追いかけてくる理由が分からないわ。
 普通だったら、嫌われて終わる立場なのよ?」

 すると、五人はまたもや同時に答えた。

「「「「「そんなわけあるか」」」」」

 なんでそんなに息がそろうの?
 あなたたち、もしかして『レティシア争奪同盟』でも結成したの?

 しびれを切らしたのか、ルーファスが先に口を開いた。

「レティシア。君が『悪役令嬢』? 笑わせてくれるな。
 学園で君がした“悪事”とされるものは、ほとんどが濡れ衣だ」

「……え?」

 ユリウスが補足するように笑って言う。

「ルーファスが調査したんだよ。
 レティシアに罪をなすりつけた子たち、全部名前も行動も割れてる」

「僕も殿下も、すでに裏を取っている」
 フィリップが書類を広げる。

「レティシア様、あなたは断罪される理由なんて、最初からなかったんですよ」

 ……嘘でしょ。
 そんなの、知らなかった。

 アレクシスが優しく手を取ってきた。

「レティシア。お前は何も悪くない。
 むしろ、ずっと理不尽に耐えてきたのだろう?」

「…………」

 胸がきゅっと痛む。
 ずっと心の奥で押し込んでいたものに、触れてしまったみたいだった。

 

「でも……それでも私は、“悪役令嬢”として断罪された女なのよ。
 あなたたちは……本当にそんな私を……?」

 アレクシスが、ラインハルトが、ユリウスが、ルーファスが、フィリップが。

 全員が私の言葉を遮るように言った。

「「「「「好きだ」」」」」

 同時。
 本当に同時。

「………………」

 あまりの破壊力に、私はソファに崩れ落ちた。

 



 どうにか気を取り直し、私は深呼吸した。

「で……でも、私は誰か一人なんて選べないわ。
 突然そんなふうに言われても、気持ちが追いつかないし……!」

 すると五人は、なぜかほっとした顔をした。

 アレクシスが柔らかく微笑む。

「焦らなくていい。レティシアはレティシアのままでいい。
 ただ、俺たちの中から……いずれ誰かを選んでくれればいい」

「その“選ばれる候補”に自分が入っているだけで十分です」
 ユリウスが嬉しそうに頬に手を当てる。

「むしろ、選ばれるために全力を尽くすだけですから」
 ラインハルトが胸に手を当てる。

「君の心を得るためなら、なんだってする」
 ルーファスが真剣な眼差しで言った。

「僕は一番最後でも構いません。ただ……僕も恋の相手として見てほしい」
 フィリップが穏やかに告げる。

 

 ……なにこの五人、揃いも揃ってこんなに甘い台詞を……。

 私の心臓は、悲鳴をあげている。

 



 そのとき――

「レティシアお嬢様ぁぁぁぁ……っ!!」

 サロンに転がるように飛び込んできたのは、幼馴染のミランダだった。

「ミランダ!? どうしたの、そんなに慌てて」

「大変ですっ……! 学園の生徒たちが……!
 “レティシア様を悪役にしたのは自分たちじゃありません”って証言し始めて……!」

 全員が固まった。

「……は?」

「それで……それで……!
 “レティシア様の名誉を回復するために署名運動をします”って……!
 校門前が、大行列になってます!!」

 行列?
 いったいどれだけの人が……?

 ミランダが涙目で続ける。

「それに……みんな言ってました……
 『レティシア様が追放されたら、攻略対象の方々が本気で怒るから』って……!」

 五人が、同時に笑った。

 アレクシスが代表して言う。

「当然だ。レティシアを傷つけた者は、全員許さない」

 ユリウスが穏やかに追い打ちをかける。

「レティシアを泣かせた連中、しっかり反省してもらうよ」

 ラインハルトが静かに言う。

「君を守るのは俺たちだからな」

 ルーファスが目を細める。

「レティシアを傷つけた罪は重い」

 フィリップが優しく微笑む。

「これからは、あなたが傷つく前に僕たちが動きます」

 

「ちょっと待って!? なんでそんなに怖い方向へ話が行ってるのよ!?」

 私は叫んだ。

 でも五人は意に介さず、全員が当たり前のように言う。

「「「「「だって、レティシアが好きだから」」」」」

 もうやめて心臓がもたない。

 



「それよりレティシア様!」
 ミランダが私の手を握った。

「行きましょう! 学園の皆さんがお待ちです!
 レティシア様の名誉を取り戻すために!」

「え、私が行くの……?」

 すると五人は当然のように立ち上がる。

「俺も行こう」
「私も付き添う」
「当然僕も」
「行くに決まっているだろう」
「レティシア様の護衛をしないと」

 ……こうして私は――

 攻略対象全員に囲まれたまま、
 学園へ向かうハメになった。

 

 いったいどうしてこんなことになってるの……?

 いや、分かってる。
 ぜんぶ彼らが私を“好き”だなんて言うから……。

 

 だけど、それと同時に胸の奥がふわっと温かくなるのも、また事実で。

 

 ――私の平穏な日常は、もう二度と戻らないのかもしれない。

 でも。

 その混乱の中に、ほんの少しだけ、甘いざまぁの香りがして――

 私は気づけば、ほんのすこしだけ笑っていた。
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