悪役令嬢だと断罪されたけど、攻略対象全員に追いかけ回されています

ゆっこ

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 朝日が差し込む石畳の道を、私は五人の攻略対象に囲まれながら進んでいた。
 これだけでも視線が痛いのに、学園が近づくにつれて、遠目でもわかるほどの大群が門前に押し寄せているのが見えた。

「……なに、この人数」

「レティシア様の名誉回復を願う署名に、学園のほとんどの生徒が集まっています」
 ミランダが誇らしげに言う。

「だが、想定より多いな……」
 アレクシスが目を細める。

 いや、どう見ても多すぎる。
 むしろ学園の人口を越えていない? 追加で親や親族まで来てない?

「ほら、レティシア様だ!」「本物!?」「清楚で可愛くて優しいって本当じゃん……!」「あの断罪は嘘だったんだよ!」

 ざわめきが走り、次第に歓声のような空気に変わっていく。

「ちょっと……騒ぎすぎじゃない?」

「当然だ。レティシアはそのくらいの価値がある」
 アレクシスが私の肩を抱く。

「殿下。レティシア様が困っています」
 ユリウスがやんわりとアレクシスの腕を外す。

「俺が隣だ」
 ラインハルトが反対側に立つ。

「いや、隣は私の定位置だろう?」
 ルーファスがするりと私の前に出る。

「皆さん、レティシア様が歩けません」
 フィリップがため息をつきながら五人をまとめて押し戻す。

「……君たちホントに仲悪いの? 仲いいの?」
「「「「「仲悪いに決まっている」」」」」

 ハモらなくていいのよ。



 学園の大講堂に入り、用意された演壇に立つと、そこはすでに満員だった。
 ざわつく視線の中で、私は少し深呼吸した。

「えっと……来てくれてありがとう。
 私はレティシア。
 “悪役令嬢”として断罪されたけれど……その多くは誤解でした」

 声が震えている。
 でも、逃げたくなかった。

「私は……確かにプライドも高かったし、感じの悪い言い方だってしてきたと思う。
 でも……誰かを傷つけるつもりなんて、最初からなかったの」

 私の言葉に、会場が静まった。

「今回の件は、複数の生徒による嫉妬や虚偽の訴えが原因でした。
 それを調べてくれた人たちがいます」

 私は後ろに立つ五人へ視線を向ける。

「王太子殿下、ラインハルト様、ユリウス様、ルーファス様、フィリップ様。
 そして、私を信じてくれた皆さん」

 胸が熱くなる。

「ありがとうございます」

 会場に拍手が広がり、それは次第に大きな波となった。
 涙が出そうになって、私は慌てて目元を押さえた。

 



 その後、学園側は正式に断罪の撤回を発表し、虚偽の告発に関わった生徒には処分が下された。
 当事者たちは震えながら私の前に並び、ひたすら頭を下げた。

「レティシア様……! 本当に申し訳ありませんでした……!」

「殿下たちがすごく怒ってて……死ぬかと思いました……!」

「レティシア様を悪役にして……許してください……!」

 私は小さく息をついた。

「許さないわよ」

 三人が青ざめる。

「えっ……!? あの……!」

「だって、あなたたちがしたことは、私を人生ごと失わせるようなことだったもの。
 “許す”なんて簡単に言ってあげるほど、私は優しくない」

 そして、ゆっくり微笑む。

「でも……反省してるなら、二度と同じことをしないように生きていきなさい」

 三人は涙を流しながらうなずいた。

 一応“ざまぁ”だけど、死ぬほど怖い目に遭ったみたいだし、まあ……いいわよね。



 それからしばらくして、事件の騒動も落ち着いた頃。

 私は、中庭の東屋でお茶を飲んでいた。
 春の風が優しく頬を撫でる。

「レティシア。隣、いいか?」
 アレクシスが微笑む。

「君のために新しい茶葉を取り寄せた」
 フィリップがカップを置く。

「今日のドレス、よく似合っています」
 ユリウスが優雅に座る。

「午後は散策に行こう。予定は空けておいた」
 ラインハルトが手帳を閉じる。

「いや、午後は私がレティシアと過ごすと言っただろう?」
 ルーファスが静かに牽制する。

 ……来た。
 彼らの「日課」になってしまった争奪戦。

「ねえ、あなたたち。私はまだ誰も選ぶつもりはないわよ?」

「「「「「知っている」」」」」

 なんでそんな嬉しそうなのよ。

 フィリップが微笑む。

「レティシア様の心を勝ち取るのが目的ですから」

「選んでくれるその日まで、全力を尽くすだけだ」
 ラインハルトが真面目に言う。

 ユリウスが頬杖をついてクスクス笑う。

「恋って、追いかける方が楽しいんだよ?」

「いや、追われる側のレティシアの気持ちも考えろ」
 ルーファスがたしなめる。

 アレクシスが私の手をそっと包んだ。

「レティシア。
 ――俺は、いつまでも待っている。
 お前が、誰を選ぶ日に」

 ずるいわね。
 そんな優しい声で言われたら、胸がぎゅっと締めつけられるじゃない。

「……私、本当に“悪役令嬢”なんて呼ばせないわよ?」

「呼ぶはずがないだろう。
 ――俺たちが愛する、最高に可愛い女性だ」
 アレクシスが囁く。

「可愛いだけじゃない。賢くて、強くて、優しい」
 ラインハルトが続ける。

「ちょっと意地悪なところも素敵だよね」
 ユリウスが笑う。

「完璧である必要はない。
 君は君のままで美しい」
 ルーファスが目を細める。

「……僕も同じ気持ちです」
 フィリップが穏やかに言う。

 胸の奥で、あの日の痛みがゆっくりと溶けていくのを感じた。

 ――この人たちは、本気で私を好きなんだ。

 そう思うと、心が温かくなった。



 夕暮れ。
 五人の視線があまりに熱いので、私はお茶を置いて立ち上がった。

「……まあ、そうね」

 五人が同時にこちらを向く。

「私、あなたたち全員の気持ちが嬉しいわ。
 だから、もう“追放された悪役令嬢”じゃなくて……」

 夕陽を背に、私は微笑んだ。

「――“追いかけ回される令嬢”として、生きていくことにするわ」

 五人は一瞬呆気にとられ、それから同時に口元を緩めた。

「「「「「望むところだ」」」」」

 ――私の物語は、断罪で終わらない。

 だって今、私の前には。
 かつて私を断罪しようとした世界とは比べ物にならないほど甘くて、優しくて、少し騒がしい未来が広がっているのだから。

 
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