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王城大広間に、ぱん、と乾いた音が響き渡った。
……と言っても、誰かが私を叩いたわけではない。
今、床に叩きつけられたのは――私の「罪状書」だ。
「アリシア・フォン・レヴァント! お前は、ゲームでいうところの“典型的な悪役令嬢”なのだ!」
第一王子ユリウスが、胸を張って言い放つ。
……いや、知らんが?
「アリシア、お前は学園でヒロインであるリリアをいじめ、その恋路を阻もうとしていた! よって断罪する!」
断罪、断罪って……あんた絶対その言葉に酔ってるでしょう。
「言いがかりですわね、ユリウス殿下。わたくしがリリア様にした“いじめ”とやら、具体的には何ですの?」
「そ、それは……! リリアに対して、“無視した”だとか……!」
「それは、リリア様がわたくしの前で毎日気絶しておられたからですわ。話しかけられる状況ではありませんでしたわよ?」
「そ、そんな理由で……!」
理由も何も、わたくしは事実を申しているだけだ。
リリア様は、なぜか私の前に来ると真っ赤になったり倒れたりして、会話にならなかったのだ。
むしろ、医師を呼ぼうとしても「大丈夫ですううう!」と謎に逃げられたほどである。
そんな私の発言に、大広間が妙な沈黙に包まれる。
……まあ、そんなことはどうでもいい。
問題は、その後だ。
「アリシア嬢!! 僕は君を断罪になんてさせない!!」
ほとんど泣きかけの声で飛び込んできたのは、第二王子レオン。
その直後、彼につづくように騎士団長であるアランが走り込んでくる。
「アリシア様を断罪だと!? 何を馬鹿な!」
「アリシア様をいじめるのは私が許しません!」
……いや、ちょっと待って。
ステータス的に最強の騎士団長と、冷静沈着と言われる第二王子が、なぜそんな必死に?
と思ったら、今度は学園の魔法教師であるシェリル様が息を切らしながら登場する。
「アリシア様が断罪!? ありえません!!! アリシア様はこの国が誇る天才ですのよ!? 断罪するべきはむしろ……」
「だっ、誰が天才だと!? アリシアは悪役令嬢なんだぞ!?」
ユリウスが叫ぶ。
「この愚物王子が!!!」
シェリル様が杖でユリウスを思い切り殴った。
ごん、という重い音が響いた。戦いではない。教師からの教育的指導だ。
場が混乱していく中、わたくしはつい本音を漏らす。
「……あの、皆さま? 何ゆえにそんな……わたくしなんて、大して魅力も……」
「あります!!!」
四方向から声が重なる。
思わず、飛び上がるほど驚いた。
しかも四人とも、息を揃えたかのように私に詰め寄ってくる。
「アリシア、僕は君が好きだ」
「アリシア様はこの国で一番美しい」
「アリシア嬢の聡明さに惹かれております」
「アリシア様、私の師匠になってほしいくらい尊敬しています!」
おい、待て。
攻略対象全員、なぜか恋愛イベントフラグ立ちまくりでは?
……いや、シェリル様は女性だから恋愛とは違うのかもしれないけれど、彼女の目は「推しを語るオタクそのもの」だ。
「アリシア様~~!!」
そして最後に飛び込んできたのが、リリア様。
ヒロイン本人である。
彼女は涙目で、わたくしにぎゅっと抱きついた。
「アリシア様……! ずっと……ずっと憧れてましたの……!」
「え、ええ……?」
リリア様はほわほわした雰囲気の美少女で、確かに可愛らしい。
だが、抱きつかれたまま涙をぽろぽろ流されると、こちらも困惑する。
「あの、皆さま? 断罪の場、ですよね……?」
「「「「そんなものどうでもいい!!」」」」
あ、ダメだこれ。
攻略対象たちが揃いも揃って、断罪イベントそのものを粉砕しようとしている。
だがユリウスだけは引かない。
「お、俺は王太子だぞ!? 誰が許可をした!」
「では問うが、ユリウス。アリシア嬢が本当に悪役だという証拠は?」
アランが静かに問い詰める。
「そ、それは……リリアが……!」
「リリア様はアリシアを避けて逃げ回っていた。いじめられていたと証言はしていない」
レオンが冷静に指摘する。
「むしろ……アリシア様が素敵すぎて、直視できなかっただけです……」
リリア様が赤くなりながら告白した。
……どういうことなの。
「アリシア様は……とても……綺麗で、優しくて……! 目が合うだけで心臓が跳ね上がって、過呼吸みたいになってしまって……!」
「それ医者行った方が良いですよ……?」
「違いますの! 恋ですの!!」
いや、恋で倒れるタイプっているんだ……。
ユリウスは顔を真っ赤にし、わなわなと震えていた。
「くっ……どうして誰も俺の言うことを……!」
「だって殿下、アリシア様が好きじゃないじゃないですか」
ぽそっと、リリア様が言う。
大広間の空気が、一気に冷えた。
レオン、アラン、シェリル様、そしてリリア様までもが、同時にユリウスへ向き直る。
「ユリウス殿下。あなたはアリシア様を“愛していなかった”」
「その癖に彼女を悪役呼ばわりして断罪?」
「許しません」
「処罰すべきはあなたです」
ユリウスが、青ざめていく。
え、ちょっ……これ、ざまぁ展開にしてはスピード早くない?
わたくしは思わず、そっと片手を上げた。
「あ、あの皆さま……わたくしは別に、ユリウス殿下を罰したいわけでは――」
「アリシア様、殿下に優しすぎます!!!」
「殿下なんてどうでもいい!!!」
「アリシア嬢の優しさは俺だけに向けて!」
「独占したい……!!」
「アリシア様は私の推しですのよ!? あんな男のために心を痛める必要なんてありませんわ!」
四方八方から迫ってくる攻略対象たちに、私は後ずさるしかなかった。
背後は、壁。
逃げ場なし。
「アリシア、僕の部屋に来て。今すぐ誤解を解きたい」
「いや、アリシア様は私の屋敷で保護すべきだ」
「私がアリシア様の心のケアを……!」
「わ、わたくしもご一緒していいですか!?」
リリア様、あなたまで!?
「皆さん、ちょっと落ち着いて……!」
言ってみたが、落ち着く気配はない。
攻略対象とヒロインにまで四方囲まれ、引っ張り合いされるという、地獄のようなシーンが繰り広げられる。
「アリシア様は私がいただきます!」
「待て、俺だ!」
「アリシアは僕と……!」
「アリシア様ぁぁぁ!!」
――愛されるのも、ほどほどがいい。
私は心の中でそっと涙を流した。
そして混乱の中、静かに扇子を開き、呟いた。
「……まずは、話し合いをしましょう?」
しかし返ってきたのは、
「話し合いなら僕の部屋で!」
「いえ私の屋敷で!」
「アリシア様は私と!!」
「アリシア様ぁぁぁ!!」
……だから、聞いて?
そんな私の叫びは、ざまぁイベントに夢中の彼らには届かなかった。
……と言っても、誰かが私を叩いたわけではない。
今、床に叩きつけられたのは――私の「罪状書」だ。
「アリシア・フォン・レヴァント! お前は、ゲームでいうところの“典型的な悪役令嬢”なのだ!」
第一王子ユリウスが、胸を張って言い放つ。
……いや、知らんが?
「アリシア、お前は学園でヒロインであるリリアをいじめ、その恋路を阻もうとしていた! よって断罪する!」
断罪、断罪って……あんた絶対その言葉に酔ってるでしょう。
「言いがかりですわね、ユリウス殿下。わたくしがリリア様にした“いじめ”とやら、具体的には何ですの?」
「そ、それは……! リリアに対して、“無視した”だとか……!」
「それは、リリア様がわたくしの前で毎日気絶しておられたからですわ。話しかけられる状況ではありませんでしたわよ?」
「そ、そんな理由で……!」
理由も何も、わたくしは事実を申しているだけだ。
リリア様は、なぜか私の前に来ると真っ赤になったり倒れたりして、会話にならなかったのだ。
むしろ、医師を呼ぼうとしても「大丈夫ですううう!」と謎に逃げられたほどである。
そんな私の発言に、大広間が妙な沈黙に包まれる。
……まあ、そんなことはどうでもいい。
問題は、その後だ。
「アリシア嬢!! 僕は君を断罪になんてさせない!!」
ほとんど泣きかけの声で飛び込んできたのは、第二王子レオン。
その直後、彼につづくように騎士団長であるアランが走り込んでくる。
「アリシア様を断罪だと!? 何を馬鹿な!」
「アリシア様をいじめるのは私が許しません!」
……いや、ちょっと待って。
ステータス的に最強の騎士団長と、冷静沈着と言われる第二王子が、なぜそんな必死に?
と思ったら、今度は学園の魔法教師であるシェリル様が息を切らしながら登場する。
「アリシア様が断罪!? ありえません!!! アリシア様はこの国が誇る天才ですのよ!? 断罪するべきはむしろ……」
「だっ、誰が天才だと!? アリシアは悪役令嬢なんだぞ!?」
ユリウスが叫ぶ。
「この愚物王子が!!!」
シェリル様が杖でユリウスを思い切り殴った。
ごん、という重い音が響いた。戦いではない。教師からの教育的指導だ。
場が混乱していく中、わたくしはつい本音を漏らす。
「……あの、皆さま? 何ゆえにそんな……わたくしなんて、大して魅力も……」
「あります!!!」
四方向から声が重なる。
思わず、飛び上がるほど驚いた。
しかも四人とも、息を揃えたかのように私に詰め寄ってくる。
「アリシア、僕は君が好きだ」
「アリシア様はこの国で一番美しい」
「アリシア嬢の聡明さに惹かれております」
「アリシア様、私の師匠になってほしいくらい尊敬しています!」
おい、待て。
攻略対象全員、なぜか恋愛イベントフラグ立ちまくりでは?
……いや、シェリル様は女性だから恋愛とは違うのかもしれないけれど、彼女の目は「推しを語るオタクそのもの」だ。
「アリシア様~~!!」
そして最後に飛び込んできたのが、リリア様。
ヒロイン本人である。
彼女は涙目で、わたくしにぎゅっと抱きついた。
「アリシア様……! ずっと……ずっと憧れてましたの……!」
「え、ええ……?」
リリア様はほわほわした雰囲気の美少女で、確かに可愛らしい。
だが、抱きつかれたまま涙をぽろぽろ流されると、こちらも困惑する。
「あの、皆さま? 断罪の場、ですよね……?」
「「「「そんなものどうでもいい!!」」」」
あ、ダメだこれ。
攻略対象たちが揃いも揃って、断罪イベントそのものを粉砕しようとしている。
だがユリウスだけは引かない。
「お、俺は王太子だぞ!? 誰が許可をした!」
「では問うが、ユリウス。アリシア嬢が本当に悪役だという証拠は?」
アランが静かに問い詰める。
「そ、それは……リリアが……!」
「リリア様はアリシアを避けて逃げ回っていた。いじめられていたと証言はしていない」
レオンが冷静に指摘する。
「むしろ……アリシア様が素敵すぎて、直視できなかっただけです……」
リリア様が赤くなりながら告白した。
……どういうことなの。
「アリシア様は……とても……綺麗で、優しくて……! 目が合うだけで心臓が跳ね上がって、過呼吸みたいになってしまって……!」
「それ医者行った方が良いですよ……?」
「違いますの! 恋ですの!!」
いや、恋で倒れるタイプっているんだ……。
ユリウスは顔を真っ赤にし、わなわなと震えていた。
「くっ……どうして誰も俺の言うことを……!」
「だって殿下、アリシア様が好きじゃないじゃないですか」
ぽそっと、リリア様が言う。
大広間の空気が、一気に冷えた。
レオン、アラン、シェリル様、そしてリリア様までもが、同時にユリウスへ向き直る。
「ユリウス殿下。あなたはアリシア様を“愛していなかった”」
「その癖に彼女を悪役呼ばわりして断罪?」
「許しません」
「処罰すべきはあなたです」
ユリウスが、青ざめていく。
え、ちょっ……これ、ざまぁ展開にしてはスピード早くない?
わたくしは思わず、そっと片手を上げた。
「あ、あの皆さま……わたくしは別に、ユリウス殿下を罰したいわけでは――」
「アリシア様、殿下に優しすぎます!!!」
「殿下なんてどうでもいい!!!」
「アリシア嬢の優しさは俺だけに向けて!」
「独占したい……!!」
「アリシア様は私の推しですのよ!? あんな男のために心を痛める必要なんてありませんわ!」
四方八方から迫ってくる攻略対象たちに、私は後ずさるしかなかった。
背後は、壁。
逃げ場なし。
「アリシア、僕の部屋に来て。今すぐ誤解を解きたい」
「いや、アリシア様は私の屋敷で保護すべきだ」
「私がアリシア様の心のケアを……!」
「わ、わたくしもご一緒していいですか!?」
リリア様、あなたまで!?
「皆さん、ちょっと落ち着いて……!」
言ってみたが、落ち着く気配はない。
攻略対象とヒロインにまで四方囲まれ、引っ張り合いされるという、地獄のようなシーンが繰り広げられる。
「アリシア様は私がいただきます!」
「待て、俺だ!」
「アリシアは僕と……!」
「アリシア様ぁぁぁ!!」
――愛されるのも、ほどほどがいい。
私は心の中でそっと涙を流した。
そして混乱の中、静かに扇子を開き、呟いた。
「……まずは、話し合いをしましょう?」
しかし返ってきたのは、
「話し合いなら僕の部屋で!」
「いえ私の屋敷で!」
「アリシア様は私と!!」
「アリシア様ぁぁぁ!!」
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