【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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4章 はじめての夏 side.理久

1 夏が始まる

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 最近の俺には新汰が足りていない。

 去年もそうだったからわかっていたけれど、新汰は春から夏にかけて部活でみっちりだ。
 地方大会に始まり全国大会まで行けば夏休みに被る。それに向けて朝練、夕練と剣道漬けで、今の新汰は俺に時間を割いている余裕はない。
 ただ、そんなときも新汰は優しい。
 昼休みも断ればいいのに、俺と一緒に変わらない時間をすごす。最近は俺の膝枕にもすっかり慣れたようで、抵抗なくこちらに身を預けてくれる。
 夏に向かうに連れ少しずつ暑くなる中、北側にある薄暗い旧校舎はひんやりと涼しい。
 新汰がそれを求めにここに来ているとは思いたくなかった。

 そんな一部の幸せな時間を除き、新汰が足りないと感じるのは俺の失態も絡んでいるから、やるせない。
 体育祭以降、新汰は注目の的になった。
 あの日、最後の男子リレーで倒れかけた俺を颯爽とかっさらって行った新汰が、格好よすぎると話題になったわけだ。
 確かに冷静になってあのときのことを振り返ると、新汰は随分大胆なことをしてくれたと思う。
 まるで俺が倒れることが分かっていたかのようにゴールのすぐ奥にいて。大丈夫と言った俺が本当は大丈夫じゃないことを見透かしたように、さっと抱えて走ってくれた。
 疲れと暑さの中で朦朧としていた俺は抵抗できずに受け入れたけれど、今思うとやばい。本当にかっこよすぎるだろ。

 俺は別に新汰がかっこいいと言われるのが嫌なわけじゃない。むしろ新汰が褒められると鼻高々で自分が褒められているような気分になる。
 ただ、皆が新汰の魅力に気付いたみたいで複雑ではある。新汰がどれだけいい奴かはずっと俺だけが知っていて、そんな新汰は俺だけのものだったから。
 最近はクラスに声をかけにいくと、仲良くやっているのがわかるから複雑な気持ちになる。以前の新汰なら、俺がいなければクラスメイトと会話なんてしようとしなかったのに。
 今思えば体育祭のときも普通にみんなと話をしていた。応援練習とかで俺が目を離した隙にこうなったんだと思う。
 もちろん新汰が笑っていると嬉しい。俺だってそう思う。でも俺は心の広い仏みたいなやつではない。
 新汰が誰かと笑っているのを見ると、つい自分が否定されたような気分になる。
 俺がいなくても新汰は大丈夫で。むしろずっと俺がいたのがいけなかったかもしれないと思う。
 そのたび俺はこんなに格好悪いやつだったのかと自分に嫌気がさしてしまう。

「理久」

 俺は声をかけられ、はっとする。
 今日も新汰と例の旧校舎で昼食を取っていたところだった。
 せっかくの新汰との時間なのに、つい気持ちが落ちてしまったと俺は反省する。

「……ごめん、何?」

「いや、理久がぼうっとしてたから」

「……何でもないって。ちょっと気になることがあっただけ」

「そうか。ならいいんだけど」

 そうして心配してくれる新汰は、やっぱり俺にとってかけがえのない存在だと思う。
 かっこよくもあり、愛しいとも思う。守りたいと思いながら、同時に助けてもらいたいとも思う。

 ――こんな感情はきっと新汰に対してだけだ。

 俺はそう思いながら、食べ終わったパンのごみを手早く袋にまとめて膝を空ける。

「それより新汰、ほら。場所空けたから」

 そう言いながら俺が自分の腿を叩くと、新汰は途端に恥ずかしそうな顔をする。

「……ほら。まだ五限までだいぶ時間あるし。今日も夕練ハードなんだろ?」

 そうして畳み掛けると新汰はようやく頷くのだ。

「ああ。じゃあ………お言葉に甘えて」

 そう言いながらおずおずと近付き、ゆっくりと頭を乗せてくる。探るように慎重に体重を乗せたあとで、腿にずっしりとした新汰の重みを感じる。
 そうして腿の上で落ち着いたあと、新汰の様子をこっそり見るのが俺の日課になりつつある。
 足を枕にして眠る新汰は、いつもより小さく見える。同時に上からよく見える耳から顎にかけてのラインが真っ赤になって可愛い。それを見ると、ついつい頭を撫でてあげたくなる衝動に駆られるが、俺はいつも気合いで制している。
 ずっとここにいればいいのに――そう思いながら俺は聞く。

「新汰。もちろん夏休みのこと、忘れてないよな?」

 すると新汰は足に顔を埋めながら静かに言う。

「…………デートの約束のことだろ」

 大丈夫。ちゃんと覚えてくれている。
 最近はそれだけが俺の希望みたいなものだ。

「ならいいや。俺、楽しみにしてるから」

 そう、あと少しで夏休みだ。
 しかも今年の夏はこれまでとは確実に違う。
 気持ちを伝えた新汰との初めての夏がやって来る。

 教室に戻り、つい気持ちが浮つく俺に良悟は気付いたらしい。
 
「理久、なんか楽しそうだな」

「そうか?」

「……まあ、俺も色々納得したっつーか」

 そうしてごにょごにょいい始める良悟が、俺に何を言いたいのか少しもわからなかった。
 良悟はそれ察したのだろうか、俺に顔を寄せて小声で言い始めた。

「お前、体育祭の借り物競争のこと忘れてるだろ。あれ俺がオーケー出したからそのままスルーしたけど、あのときのお題覚えてる?」

「……とっくに忘れたんだけど」

「大切な人だったろ」

 そう、覚えている。
 良悟の言う通りお題は大切な人だった。
 俺はそれを見た瞬間真っ先に新汰を思い浮かべて、何も考えずに新汰の元へ走り手を取った。
 ただ、まさか良悟がそのときのことを覚えてるなんて。

「大切な人って言っても、親は見に来てなかったし」

「それにしては動きが淀みなかったよな。即向かっただろ」

 正直、こうなった良悟は面倒くさい。
 まじであのままスルーしてくれればよかったのに――そう思っていると良悟は突然にやりと笑う。

「まあ応援するよ」

「……は?」

「今どきそういうの多いし、確かに人を好きになるのに男も女もないよな」

 その発言はありがたいけど、それにしても軽い。軽すぎる。
 ただこういうところは良悟のいいところでもある。余計な詮索をしないでくれる良悟とはつるむのが楽だ。だからこうして長く付き合っているというのもある。
 俺が内心ほっとしていると、良悟は下世話な笑みを浮かべて言う。

「で、最近どうなんだよ。……まあ、結局うまくいってるんだろ?」

「……は?何で?」

「え、だってお前抱きかかえられて連れて行かれただろ?」

 どう解釈したらそうなるんだ。あれは新汰の優しさに俺がすがっただけだ。

「あれは、親友として俺を心配しただけだろ」

「でも、西脇くんの反応すごく速くなかったか?お前があのまま倒れること、わかってたみたいだったぞ」

「そりゃあ、まあ……幼馴染ですから」

「……ふーん」

 その返事は俺を疑うようだった。
 だから俺は思わず良悟に言いたかった。俺だっていいように捉えたい。新汰が俺のこと恋愛対象として好きになり始めてるって信じたい。
 でも、怖いんだ。
 だって俺はまだ言葉のひとつすらもらっていないから。好きだっていう明確な言葉のない今の俺と新汰のあいだは、何もないことと同じだ。

「……それで、夏休みはどうするんだ?うちの剣道部強いんだろ?みっちり部活で予定もう埋まってるんじゃん?」

「それについては大丈夫。もう、予約しといたから」

 すると良悟は目を輝かせた。

「まさか……理久が体育祭をあんなに頑張ってた理由ってそれ?次の日俺と遊ぶ約束してたの、お前完全に忘れてたよな!」

 俺はどきっとした。良悟は意外と根に持つタイプらしい。

「……まあいっか。お前の輝かしい青春に比べたら、俺との遊びなんて価値の欠片もないよな」

 それは言いすぎだと思う。
 きっと良悟としょうもない時間を使って遊ぶことだって青春に含まれていると俺は思う。
 お前はどれだけ青春に憧れてるんだと思いながらも、俺はそれを口には出さなかった。

「理久、青春楽しめよ」

「……言われなくても楽しむって」

 そう。この夏は気持ちを伝えた人だけに与えられた特権のようなものだ。
 せっかくだし、堂々と満喫しなければ。
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