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4章 はじめての夏 side.理久
2 なにもない俺
しおりを挟むついに夏休みは幕を上げた――が、青春は相手あってこそだと痛感する。
部活で忙しい新汰に対し、俺はとにかく時間を持て余していた。
暇、暇、暇!
家でごろごろスマホをいじったり筋トレをしたり。宿題に手を付けたりゲームしたり、動画を観たり。
もちろん俺のもとへ遊びの誘いも来る。海に行こうだの、カラオケに行こうだの誘われたら時間の限り出向くようにしている。
こうなったのは、中学のときに怪我をして体操クラブを辞めて以来だ。それ以来俺の夏はずっと変わらない。
だから絶対に昔よりもつまらなくなっていると思う。
小学生の頃は毎朝ラジオ体操に行って、そのあと学校のプールに行って。終わったら公園に行ったり家でゲームをしたり。隣りにはいつも新汰がいた。
今はこうして別々で、新汰は部活。俺は目的もなく時間をすごしている。
だからかいつも夏になると、置いてかれたような気分になる。
冷房の効いた部屋で、冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注ぐ。それを飲みながらスマホを見るも、友人たちからの通知の中に、新汰からのものはない。
「……はあ」
俺達は基本的にあまりスマホで連絡を取らない。
そもそもスマホが存在しなかった幼稚園の頃からずっと一緒だった。だからわざわざ連絡を取る習慣もないし、それで問題なかった。クラスがずっと同じで、ずっと一緒にいたから。
今年は初めてクラスが分かれた上に体育祭のこともあった。だからこそ気になるのだ。
新汰のアイコンすら変えていないプロフィールを開き、メッセージを入力する。
「最近、調子どう……とか?」
そろそろ大会だったはず――そう思いいろいろ打ち込んで見るも、書いては消しを繰り返してしまう。
ほかの人にはこんなことないのに。好きな人に自分からメッセージの一つすら送れない俺は小心者だ。
結局俺はスマホをテーブルに置いたまま、リビングのソファの上に倒れ込んだ。
――今年は……バイトとか始めればよかった。
そうすれば暇な時間がなくなって、余計な考え事をして悩むこともなくなるかもしれない。
バイトをしてお金が欲しいわけでも何か欲しいわけでもない。今俺が心から求めているのは、新汰との時間だった。
「とりあえず……走ってくるか」
変な考え事をしないためには疲れるのが一番。
俺は適当なジャージを引っ掛け外へ出て、むわりとする熱気に思わず顔をしかめる。
――あ、暑っ……。
上からも下からもじりじり焼くように、熱波が襲う。
絶対昔はこんなじゃなかった。夏舐めてた――そう思いながら、一度家の中に戻ろうとしたときだった。
「あ……理久」
不意に名前を呼ばれたと思いそこを見ると、なんと新汰がいた。
剣道部の紺色のティーシャツを身に着け、防具の入ったキャリーバッグと竹刀袋を背負っている。
そのしかめっ面のような表情は、どこか疲れをうかがわせた。
「え、新汰?なんで?」
「今……その……帰りで」
「そうなんだ。部活お疲れ」
なぜかその後沈黙が流れてしまう。
いつもなら適当な会話が始まっているはずなのに、新汰があまりにも突然現れたものだから、俺の心構えがまったくできていない。
焦った俺は手を掛けていた玄関ドアを指さし言う。
「あ……家寄ってけよ。冷房ガンガンに効かせてたから気持ちいいよ」
そう言ったあとで俺はすぐにまずいことに気付く。
今、家に入れてしまえば新汰とふたりっきりになる。いつもの昼休みみたいに時間が決められているわけではないし、邪魔する人もいない。
そんな状況で俺は新汰に何もせずにいられるだろうか。
「ごめん、やっぱ――」
なし――そう言おうとするも、なぜか先に新汰が頷いていた。
どうしてかはわからない。ただそうしてどこか虚ろな顔をする新汰が気になって、俺は渋々家に招き入れることにした。
玄関に剣道道具を置かせて、新汰をリビングへ入れる。自分の部屋に上げるのはなんとなく気まずかった。
「理久んち、久しぶりだな」
ソファに礼儀正しく腰掛けながら新汰は言った。
俺は冷蔵庫を漁り、冷えたコーラを見つけた。適当なグラスに注ぎ、ぽちゃんぽちゃんと氷を入れて持って行く。
「はい。部活終わりにはやっぱコーラだよな」
「……ありがとう。理久は相変わらずそれなんだな」
「え、運動後に最高じゃん?これにアイスもあれば完璧なんだけど……」
昔は体操の練習後によくそうしていた――そう思いながらまたキッチンに戻り冷凍室を開けるも、アイスはなかった。
「……本当、理久は変わらないな」
後ろで新汰がぽつりと言った。
その言葉が、俺は妙に気になってしまう。別に嫌味とかそういう訳ではなく、ただの事実を言っただけだ。なのに俺は昔にすがったまま、何も変わっていないみたいに思えてしまう。
――……俺もバイトとか始めるか。
何をしたらいいか見当もつかないけど、何か変わるかもしれない。
そう思いながらリビングへ戻ると、新汰が何故か小さく縮こまって、ソファにもたれかかっていた。
「新汰……どうした?」
思わず聞くと、新汰は弱々しく微笑んだ。
「最近、部活もだけどそれ以外も結構しんどかったんだ」
「……それ以外って?」
まさか俺のことが負担になっている?
一瞬そう思うも、どうやら違うらしい。
「練習の見学者が増えたんだけど……それが剣道に興味があるとかじゃなくて。夏休み前も、学校で声かけられたりして、でも無下にできないから……」
俺の中でふつふつと怒りが沸く。
新汰のことを何も知らない奴はこれだから――そう思いながらも、でも元はというと俺が原因と言うことに気付く。
「……ごめん、新汰。それ体育祭のときの俺のせいだよな?俺が無理して、新汰に助けてもらったから……」
「違う!あれは俺がしたくてやったんだ。だから、駄目なのはちゃんと言えない俺なんだ」
駄目じゃない。新汰は駄目な奴なんかじゃない。
「理久……?」
気付いたときには、俺は新汰の隣りに腰かけ手を伸ばしていた。
疲れ切った新汰を、俺がだるっだるに甘やかしてあげたい。
新汰は頑張ってる、俺は新汰が大好きだって全身で伝えたい――。
俺の手が肩に触れた途端、新汰はびくっと身体を震わせた。
途端、心の中で声が響く。
――でもそれは弱みにつけ込んでいるんじゃないのか?
思わず、新汰の肩をぐっと押してしまう。
「新汰……ごめん。家でゆっくり休めよ」
そのあと、新汰がどんな顔をしていたか俺は覚えていない。
新汰は俺の方こそごめんとだけ言い、荷物を持って家に帰ってしまった。
そんな新汰は、夏の大会で目標としていたベスト四まで勝ち上がったらしい。
俺がそれを聞いたのは、夜の晩飯のときだった。
昼、家に来たのは実はたまたまではなくて、そういうことだったんだと腑に落ちる。そして、なんでああいう形で追い返すようなことしてしまったのかと自分が嫌になる。
「――ねえ、そういえばお盆理久どうする?」
突然母が話題を変えてきたので、俺はえ、とだけ返した。すると母は申し訳なさそうな顔をして続ける。
「今年、婆ちゃんたちと旅行の約束してるんだけど、理久の分の予約取り忘れてたんだよね」
「じゃあ俺……留守番してる」
正直、旅行どころじゃない。
新汰と取り付けたデートの約束だってあるのに、結局それもなあなあになったまま――そう思っていると、母はぱっと明るい顔をした。
「ごめん、留守番よろしく。そうだ!西脇家も新汰くんだけ留守番するらしいから、理久よかったね」
「…………は、まじで?」
それならば――そう希望が見えたと思ったと同時に母がこんなことを言いはじめた。
「あ、瑤子ちゃんに言っとくね」
「え?」
「理久くん遊びに来てって言われてたの。返信しとくから。理久が入り浸りますって」
「は!いやそれは駄目――」
「ええと、いろいろ持たせるからよろしくね、と。送信!」
「……………まじか」
希望だったものは何やら勝手に大きくなって、すっかり親公認のお泊りに早変わりしてしまった。
途端に俺の胸は嬉しさと不安でばくばくと高鳴る。
誰にも邪魔されない、新汰とふたりっきりの時間。
今日の昼みたいに暴走しないよう、自分をしっかり抑えなくては――。
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