いろはにほへと ちりになれ!

藤丸セブン

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五十限目 食べ物で遊ぶな

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 ポッキーゲームとは、2人が1本のポッキーの両端をそれぞれくわえて、中央に向かって食べ進めるゲーム。明確なルールはなく、どちらかが先にポッキーを口から離すか、途中でポッキーが折れてしまったら負けとなる。相手とキスをしてしまう、または相手より短く食べるなど、遊び心のある「競争」の側面があることも特徴。
「これを書いてる日は十一月十四日ぁ!つまり!ポッキーの日には大幅に遅刻しているって事だぁ!」

 <五十限目 食べ物で遊ぶな>
 
「ポッキーゲームしようぜ」
「・・・へ?」
 いつも通りの放課後。いろはは買ってきたポッキーを六花に見せて軽くそう言った。
「ポッキーゲームって、あのポッキーゲームですか?」
「他に何があんだよ」
「正気ですか!?あれは、その。もっと親密で深い人達の」
「私達の仲が浅いってのか!?私達の仲なら当然やるだろ!!!」
 いろはの押しの強さは相変わらずである。それに何故か後ろに控えている波留も無言で首を縦に振っている。こうなったら聞かないいろはだが、今回ばかりは少し躊躇する。いろはの事だからキスの口実に使っている訳ではなく純粋にゲームと名のつくこの行為をしたいだけなのだろうとは思うが。少し事故を起こしたら六花のファーストキスはいろはに奪われる事になるのだ。
「ほら、やろうぜ」
 笑顔でそう言ういろはに六花は深く考える。ファーストキスはいずれできる、かもしれない好きな人に捧げたい。しかし同性同士、それも親友のいろはと波留ならそれはノーカウントではないだろうか。厳密に言うのならば六花のファーストキスは両親のどちらかに奪われているだろうし。
「わ、分かりました。やりますよ」
「やったぜ!」
「む、先手は譲ってあげる」
 波留が六花にポッキーを手渡してくるので六花はそれを受け取り口に咥える。
「ろ、ろうぉ、(どうぞ)」
 そしてポッキーの先端をいろはに向けてきゅっと目を瞑った。いろははそれを確認するとポッキーのもう片方に齧り付。
「おらぁぁ!」
 齧り付く様子は一ミリもなく、手にしたポッキーで六花の口に咥えられたポッキーを思い切り叩いた。
「よっしゃ折った!私の勝ちだぜ!!」
「いーさん。ポッキーゲームのルールをご存知ですか?」
「ポッキーを剣にして相手のポッキーを折って戦意を喪失させるゲームだろ?」
 そう驚く事でもない。いろはと波留が何かを勘違いしている事などよくある事だ。よくある事だが。
「ほらちゃんともっかいやろうぜ?口で剣を咥えて強いのはゾロノア・ロロくらいだぞ」
「む、ちょっと違ってる」
 これは著作権に配慮してくれたのか、それともシンプルに間違えているのか。まあポッキーって言ってる時点で著作権もクソもないが。許して下さい!何でもしますから!
「よっしゃ構えろ!」
「む!私も乱入!」
 六花がポッキーを手に持ったらいろはと波留もポッキーを剣の様に構える。そしてポッキーゲームが始まった!
「ふん!」
「ああ!私の剣が!?」
 開始一秒。いろはの剣が六花にへし折られた。
「ふん!」
「むむぅ!?」
 開始二秒。波留の剣が六花にへし折られた。
「わたくしの純情を、弄びましたね。この罪は重いですよ?この胸の高鳴りは簡単には収まりません。ちょっとときめいてくるので今日はもうわたくしに関わらないで下さい。また明日」
 そう言い残すと六花は二人から去っていった。真顔でそんな事を言われたいろはと波留は二人して顔を見合わせるしか出来なかった。
「ろっちゃんってよ。恋愛とかそういう話が絡むと人が変わるよな」
「む、恋に恋してるからね」
 ポッキーゲームが恋愛に絡む事を知ってるって事は、お前らポッキーゲームのルール知ってるだろ。
  ◇
「というわけで命令です。ポッキーゲームしなさい」
「・・・は?」
 妙に威圧感のある六花の言葉に椅子に縄で縛り付けられている戸部透は驚く事しか出来なかった。
「何が起こったのか分からない!?さっき六谷が話しかけてきたから珍しいなーと思いながら返事をしたら急に椅子に座らされて縄でぐるぐる巻きにされたんだが!!?」
「分かっているではないか」
 透の状況説明に舳螺が答える。つまりそう言う事だ。
「わたくしのトキメキはお二人に補ってもらいます。さぁ、ポッキーゲームをして下さい」
「訳が分からないぞ!?多分石森辺りにポッキーゲームをけしかけられたけどポッキーでチャンバラとかさせられたんだろ!?それでときめいてたのに裏切られたから僕らを使ってときめき成分を摂取しようとしてるって事しか分からないぞ!!?」
「我より状況を理解している様に聞こえるが」
 透の叫びに舳螺が怪訝な顔を見せる。舳螺は「戸部さんとポッキーゲームゲームをして貰います」としか言われていないからだ。逆らえる雰囲気ではなかった為無言で付いてきたが、そういった理由があったとは。
「待った、蛇塚。蛇塚は誰かとキスしたことあるか?」
「ないな」
「おーけー。じゃあもし僕とキスをしたとしたら君はどうする?」
「結婚式だな」
「結婚式かぁ!!!そうかぁぁ!!!!」
 冷静になろうと舳螺に質問を投げかけたが舳螺からきた回答は透の想像通りのものだ。その想像通りの返事に透は全力で暴れて椅子から逃れようと必死になった。
「何だ、我とその、ちゅーをするのはそんなに嫌か」
「ちゅーだと!?なんだその言い方可愛すぎか!!?僕の婚約者可愛すぎか!!?いやまて落ち着け戸部透!蛇塚、落ち着いて聞いて欲しい。僕は蛇塚が大好きだ。この世で一番大切と言っても過言ではない。世界を敵に回そうが君を愛する覚悟がある」
 透の言葉に舳螺が顔を真っ赤にしながら透から顔を逸らし六花が満面の笑みを見せる。そう、これは舳螺と六花からポッキーゲームゲームをする気持ちを喪失させる為の作戦。
「愛しているよ蛇塚。でも、流石にまだキスは早いよ。僕達はまだ中学生、そういった事はもっと大人になってからしよう。君が大切なんだ。分かってくれるかい?」
 本音ではあるが出来る限り舳螺に響く様に心掛けながら舳螺に問いかける。舳螺に、そしてその背後にいる六花に問いかける。
「本音は?」
「まだ結婚なんてしたくないぃぃい!!僕はまだいろんな女の子とイチャイチャしたぃぃぃぃぃ!!!」
「へーさん。ポッキーをどうぞ」
「しまったぁぁ!!巧妙な罠か!!!!」
 六花の巧妙な罠にかかった透は舳螺の手により口にポッキーを咥えさせられる。ちゃんとチョコの付いている方だ。
「いくぞ、覚悟しろダーリン」
「待ってくれ、僕は君を愛して」
「なら問題ない」
 舳螺はゆっくり、ゆっくりとポッキーをたべ進めていく。その時間が透には物凄く長く感じられる。透からポッキーは食べない。食べられる筈がない。
 (待て、落ち着け僕!ここで僕がポッキーを噛み砕いてしまえばいいのでは!?いや、ダメだ。多分もう一本のポッキーを用意されて終わる。何故なら六谷がポッキーの箱を十個くらい持ってキラキラした目で見てくるもの!!!)
 逃げ場はない。舳螺の唇が段々と透の唇に近づいていく。
 (こうして改めて見てみると、本当に蛇塚って綺麗だよな。可愛いとも言える顔立ちしてて本物の女神にも見える。ってか唇ぷるっぷるじゃないか!!?僕が見てきたどんな女の子より魅力的だぞ!!!)
 舳螺の唇が近づく。
 (こんな最高な婚約者がいて手を出さない男がいるってマジ?その男はバカなのか?僕だったら即ポッキーを食べ切ってキスしてベットインしてフィニッシュだけどな)
 舳螺の唇が近づく。
 (待て待て待て待て!!バカか僕は!?バカだな僕は!!!ここで蛇塚とキスしてみろ!結婚だぞ!いや、結婚はいい!蛇塚と結婚出来るなら世界を敵に回したっていいのは本当だ。でも、手を出せない!!!竜斎さんが学生の蛇塚に手を出させてくれる筈がない!!!結婚してしまったら他の女の子と遊ぶ事も出来ない。けれど妻である蛇塚にも手を出せないという地獄が始まる!!!それを避ける為に蛇塚が二十歳になるまでは結婚しないって、ん?そうじゃん年齢的に僕らまだ結婚出来ないじゃん!!!!それなら、いやいやいやいやいや!竜斎さんが法律を守るとは思えねー!!!!結婚はしてないけど同棲させるとかは全然あるぞ!!僕の両親は絶対止めてくれないし!結論は変わらない!!!)
 舳螺の唇がもう目の前にある。
 (キスしたい。ダメだ死ぬ!キスしたいっ。死にたくねぇ!キスしたい!地獄を見る事になるんだぞ!キスしたい!!死ぬ!!キスしたい!!!死ぬ!!!キス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス死ぬキス!!!)
 そして。
「・・・」
「・・・へ?」
 舳螺が透の唇直前でポッキーを噛み砕いた。
「キスしたかった、あっ!!助かった!!?」
 本音を咄嗟に隠し最低な事を言う。がそんな事はどうでもいい。
「どうしてだ、蛇塚?」
「やはり、初めてはもっと大切にしたいと思ってな。六花も満足した様だし」
 そう言われて意識すらしていなかった六花の方を見ると六花は鼻血を流しながら目を閉じ、手を合わせていた。
「昇天してる」
「ふふ。六花の暴走にも困ったものだな。お互い初めてのちゅーはお預けだ」
 舳螺がくすくすと笑う。その笑い顔も実に可愛い。そんな舳螺と結婚する機会が延期したのは少しだけ残念だが今はこれでいい。これでいいのだ。
「こいつのファーストキスは既に終わっているぞ?」
 平和に終わりそうな雰囲気がどこからか聞こえた声にぶち壊された。
「星本能寺。どういう事だ?」
「そのままの意味だ。その男は軽く百は別の女と接吻をしている」
「本能寺ぃぃぃぃぃぃぃい!!!」
 ポッキーを食べながら爆弾を投下する本能寺に透は叫ぶしか出来ない。
「いいだろう。我の初めてを貰って貰うぞ。今ここで」
「僕はまだ死にたくなぃぃぃいぃぃぃいぃぃい!!!」
 透はどこから振り絞ったのか分からない力で縄を切り裂き、全力で逃げた。
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