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第二章 長すぎた初恋
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「瞳―、この服なんかどう?」
瞳と交際を始めて三ヶ月、それはもう幸せな日々だった。
平日の仕事はもちろんのこと、休日もこうして頻繁にデートに出かけることができる。瞳といられる幸福感が光一の全身をやわらかく包み込むようだった。職場でも、二人が付き合い始めたことはどこからともなく広がっていて、福岡支社では公認カップルとなっている。
光一は瞳のことを、「瞳ちゃん」ではなく「瞳」と呼ぶことにした。瞳は相変わらず光一のことを「光一くん」と呼ぶ。“くん付け”のほうが、瞳の可愛らしさが出ているようで、光一が「呼び方は変えないで」とお願いしたのだ。
日曜日、その日は福岡随一の繁華街、天神でショッピングデートをしていた。
天神地下街という巨大な地下通路を歩きながら、光一が瞳に似合うと思うアパレル店を回っていく。女性の服など、これまでまったく見てこなかったが、瞳と付き合い始めてから光一はアパレル店をよく観察するようになった。
「瞳は女の子らしいから、こういう清楚なワンピースなんかが似合うと思うっちゃん」
その日光一が手にしたのは、真っ白のキャミワンピース。下にシャツやブラウスなんかを合わせて着るのだろうと予想はついた。夏なので、そのまま肩を出して着るのもいいと思うが、恋人にあまり肌を露出してほしくないという気持ちもあって、近くにあった適当なブラウスも一緒に合わせてみた。
「え、そうかな?」
ワンピースとブラウスを見た瞳は目をぱちくりと瞬かせる。瞳は、自分が「可愛らしい女の子」だとは思っていない様子で、光一が選んだ服をじっと見つめる。
「絶対似合うって! 試着してみてよ」
「う、うん」
戸惑いを隠せない様子で、半ば強引に光一に連れられて試着室へと吸い込まれていく瞳。次に瞳が試着室から出てきた時、あまりの可愛さに光一はあっと息を飲んだ。
「めっちゃ似合っとるやん! 最高」
「ほんと……?」
「ああ。その服、プレゼントするけん」
「えっ、そんな、悪いよ! 誕生日でもないのに」
「いいやん。俺が好きな時に、好きな人にプレゼントあげるだけやけん」
「……ありがとう」
最後は光一の熱意に負けたのか、瞳は申し訳なさやら似合うと言われた恥ずかしさやらで、複雑な表情を浮かべていた。
「本当に良かったの?」
無事にワンピースとブラウスを購入し終えたあと、瞳が控えめにそう尋ねた。
「もちろん! ていうか、俺が勝手に舞い上がってるみたいで、ごめんな」
「う、ううん! そんなことないよ。選んでくれて嬉しかったから、ありがとう」
瞳が表情を緩めたので、ようやく光一はほっと胸を撫で下ろした。
自分だけが舞い上がって、瞳が喜んでくれていなかったらどうしようかと思っていたのだ。
「やっぱ瞳はさ、お嬢様っぽい格好が似合うよな。顔立ちも華やかやし、色白やけん」
「そう……かな」
瞳の今日の格好は、黒いスキニーパンツに落ち着いたピンク色のブラウスだった。オフィススタイルでも通用しそうな、カジュアルでシンプルな服装だ。
そんな瞳の今日のスタイルには目もくれず、光一は先ほど購入した服を思い出してはにんまりと口角を上げる。
「瞳がどんどん可愛くなっていくのが楽しみ。あ! もちろん今も十分可愛いけどな!」
「……可愛くなれるよう、頑張るね」
淡く微笑んだ瞳の頭を、光一はよしよしと撫でる。
瞳がどんどん自分好みの女の子になってくれる気がして、この時の光一はかなり盲目的になってしまっていた。
「あのさ、光一くん。私、そろそろ髪の毛切ろうと思うんだよね。夏だし、外はねのショートヘアとか、どうかな?」
気を取り直した様子で、瞳が自分のロングヘアを撫でる。
艶々のその黒髪は、光一が彼女に一目惚れをした時に一番目を惹かれたところだ。
その長く美しい黒髪がバッサリ切られるところを想像すると、光一の中で激しい嫌悪感が湧き上がってきた。
「ショートヘアは、瞳には似合わんっちゃないかな? 瞳のそのさらさらのロングヘア、めっちゃいいと思っとる」
光一の言葉に、瞳がぴたりと歩みを止めた。
そして、何かをじっくり考えるような素ぶりを見せて、光一の目をじっと見つめた。
「そっか。そうだよね。今まであんまりショートヘアにしたことなくて、ちょっと冒険してみようかと思ったけど、やめとく」
どこか吹っ切れたような様子の瞳に、光一も「良かった」と思わず本音が口から漏れた。
「今のままの瞳で十分可愛いよ」
「ありがとう」
光一はさっき、服の好みを自分の好みに合わせて、「瞳がどんどん可愛くなっていくのが楽しみ」と言ったのを忘れたかのように、「今のままで可愛い」と口にした。
その矛盾した発言に、光一は気づかない。
瞳は思うところがあったが、光一のそばにピッタリと寄り添って、その手を握った。
「私、光一くんの彼女になれてすごく嬉しいけん。これからも可愛い自分でいられるよう、頑張るね」
「お、おう」
突然、甘えた声を出す瞳が可愛すぎて、光一はその場で卒倒してしまいそうになった。
瞳と繋いだ手がどんどん汗ばんでいくのに申し訳なさを覚えつつ、瞳の手をもう一度ぎゅっと握り直す。
この手だけは、この先どんなことがあっても離さない。
職場の先輩たちから、やれ浮気だのやれ冷めただの、いろんな恋愛模様を聞かされるが、光一は絶対にそんな不誠実なことはしないと誓うことができた。
なぜなら、初めて恋した瞳のことを、深く愛しているから。
まだ交際を初めて三ヶ月しか経っていないのに、この恋が愛に変わっていくのを確かに感じていた。
瞳と交際を始めて三ヶ月、それはもう幸せな日々だった。
平日の仕事はもちろんのこと、休日もこうして頻繁にデートに出かけることができる。瞳といられる幸福感が光一の全身をやわらかく包み込むようだった。職場でも、二人が付き合い始めたことはどこからともなく広がっていて、福岡支社では公認カップルとなっている。
光一は瞳のことを、「瞳ちゃん」ではなく「瞳」と呼ぶことにした。瞳は相変わらず光一のことを「光一くん」と呼ぶ。“くん付け”のほうが、瞳の可愛らしさが出ているようで、光一が「呼び方は変えないで」とお願いしたのだ。
日曜日、その日は福岡随一の繁華街、天神でショッピングデートをしていた。
天神地下街という巨大な地下通路を歩きながら、光一が瞳に似合うと思うアパレル店を回っていく。女性の服など、これまでまったく見てこなかったが、瞳と付き合い始めてから光一はアパレル店をよく観察するようになった。
「瞳は女の子らしいから、こういう清楚なワンピースなんかが似合うと思うっちゃん」
その日光一が手にしたのは、真っ白のキャミワンピース。下にシャツやブラウスなんかを合わせて着るのだろうと予想はついた。夏なので、そのまま肩を出して着るのもいいと思うが、恋人にあまり肌を露出してほしくないという気持ちもあって、近くにあった適当なブラウスも一緒に合わせてみた。
「え、そうかな?」
ワンピースとブラウスを見た瞳は目をぱちくりと瞬かせる。瞳は、自分が「可愛らしい女の子」だとは思っていない様子で、光一が選んだ服をじっと見つめる。
「絶対似合うって! 試着してみてよ」
「う、うん」
戸惑いを隠せない様子で、半ば強引に光一に連れられて試着室へと吸い込まれていく瞳。次に瞳が試着室から出てきた時、あまりの可愛さに光一はあっと息を飲んだ。
「めっちゃ似合っとるやん! 最高」
「ほんと……?」
「ああ。その服、プレゼントするけん」
「えっ、そんな、悪いよ! 誕生日でもないのに」
「いいやん。俺が好きな時に、好きな人にプレゼントあげるだけやけん」
「……ありがとう」
最後は光一の熱意に負けたのか、瞳は申し訳なさやら似合うと言われた恥ずかしさやらで、複雑な表情を浮かべていた。
「本当に良かったの?」
無事にワンピースとブラウスを購入し終えたあと、瞳が控えめにそう尋ねた。
「もちろん! ていうか、俺が勝手に舞い上がってるみたいで、ごめんな」
「う、ううん! そんなことないよ。選んでくれて嬉しかったから、ありがとう」
瞳が表情を緩めたので、ようやく光一はほっと胸を撫で下ろした。
自分だけが舞い上がって、瞳が喜んでくれていなかったらどうしようかと思っていたのだ。
「やっぱ瞳はさ、お嬢様っぽい格好が似合うよな。顔立ちも華やかやし、色白やけん」
「そう……かな」
瞳の今日の格好は、黒いスキニーパンツに落ち着いたピンク色のブラウスだった。オフィススタイルでも通用しそうな、カジュアルでシンプルな服装だ。
そんな瞳の今日のスタイルには目もくれず、光一は先ほど購入した服を思い出してはにんまりと口角を上げる。
「瞳がどんどん可愛くなっていくのが楽しみ。あ! もちろん今も十分可愛いけどな!」
「……可愛くなれるよう、頑張るね」
淡く微笑んだ瞳の頭を、光一はよしよしと撫でる。
瞳がどんどん自分好みの女の子になってくれる気がして、この時の光一はかなり盲目的になってしまっていた。
「あのさ、光一くん。私、そろそろ髪の毛切ろうと思うんだよね。夏だし、外はねのショートヘアとか、どうかな?」
気を取り直した様子で、瞳が自分のロングヘアを撫でる。
艶々のその黒髪は、光一が彼女に一目惚れをした時に一番目を惹かれたところだ。
その長く美しい黒髪がバッサリ切られるところを想像すると、光一の中で激しい嫌悪感が湧き上がってきた。
「ショートヘアは、瞳には似合わんっちゃないかな? 瞳のそのさらさらのロングヘア、めっちゃいいと思っとる」
光一の言葉に、瞳がぴたりと歩みを止めた。
そして、何かをじっくり考えるような素ぶりを見せて、光一の目をじっと見つめた。
「そっか。そうだよね。今まであんまりショートヘアにしたことなくて、ちょっと冒険してみようかと思ったけど、やめとく」
どこか吹っ切れたような様子の瞳に、光一も「良かった」と思わず本音が口から漏れた。
「今のままの瞳で十分可愛いよ」
「ありがとう」
光一はさっき、服の好みを自分の好みに合わせて、「瞳がどんどん可愛くなっていくのが楽しみ」と言ったのを忘れたかのように、「今のままで可愛い」と口にした。
その矛盾した発言に、光一は気づかない。
瞳は思うところがあったが、光一のそばにピッタリと寄り添って、その手を握った。
「私、光一くんの彼女になれてすごく嬉しいけん。これからも可愛い自分でいられるよう、頑張るね」
「お、おう」
突然、甘えた声を出す瞳が可愛すぎて、光一はその場で卒倒してしまいそうになった。
瞳と繋いだ手がどんどん汗ばんでいくのに申し訳なさを覚えつつ、瞳の手をもう一度ぎゅっと握り直す。
この手だけは、この先どんなことがあっても離さない。
職場の先輩たちから、やれ浮気だのやれ冷めただの、いろんな恋愛模様を聞かされるが、光一は絶対にそんな不誠実なことはしないと誓うことができた。
なぜなら、初めて恋した瞳のことを、深く愛しているから。
まだ交際を初めて三ヶ月しか経っていないのに、この恋が愛に変わっていくのを確かに感じていた。
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