虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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王宮主催の春季晩餐会。シャンデリアの煌めく大広間に、王国の名だたる貴族たちが集っていた。

セラフィーナは薄紫のドレスに身を包み、エドウィンとともに会場を進んでいた。彼女の頬にはほのかな血色があり、瞳には生気が満ちている。一年前の病弱な面影は、もはやどこにも見当たらなかった。

「セラフィーナ様、お美しい」
「侯爵令嬢の薬草茶のおかげで、私の偏頭痛が治りましたの」
「エドウィン殿も素晴らしい学者でいらっしゃる。お似合いのお二人ですわ」

挨拶を交わす貴婦人たちの言葉は、心からの好意に満ちていた。かつてセラフィーナを哀れみの目で見ていた人々も、今は彼女の成功と幸福を素直に祝福している。

会場の片隅で、アレクシス・クロフォード公爵は一人グラスを手にしていた。妻エリーゼの姿はない。今夜も体調不良を理由に欠席していた。いや、本当は連れてこられなかったのだ。最近の彼女の癇癪は手がつけられず、社交界に出せる状態ではなかった。

アレクシスの視線は、自然とセラフィーナの姿を追っていた。薄紫のドレスが彼女によく似合っている。エドウィンと何かを話しながら、静かに微笑む横顔。あの笑顔を、彼はかつて見たことがあっただろうか。

いや、なかった。婚約していた頃、セラフィーナは常に病に苦しんでいた。会話も短く、笑顔も乏しかった。彼は彼女を、ただの病弱な令嬢としか見ていなかった。

だが今、彼女は輝いている。知性と気品を兼ね備え、社会に貢献する事業を成功させ、自分を心から愛してくれる伴侶を得て。

「間違えたのかもしれない」

アレクシスは呟いた。その声は、音楽と話し声に紛れて誰にも聞こえなかった。

セラフィーナとエドウィンがテラスへ向かおうとした時、動線が交差した。アレクシスとセラフィーナが、久々に向かい合う形になった。

一瞬の沈黙。周囲の視線が集まる。

「セラフィーナ様」

アレクシスが先に口を開いた。その声には、かつての冷たさはなかった。

「お元気そうで」

セラフィーナは穏やかに微笑んだ。憎しみも未練も、その瞳にはなかった。

「ありがとうございます。アレクシス様もお変わりなく」

社交辞令。しかし温かみのある言葉だった。

エドウィンがそっとセラフィーナの腕に手を添える。所有欲ではなく、守りたいという静かな意思表示だった。

アレクシスはそれを見て、小さく頷いた。

「私は…」

言葉を探すように、アレクシスは口を開きかけた。だが何を言えばいいのか。謝罪か。後悔の表明か。それとも祝福か。

「私は間違えたのかもしれない」

ついに、その言葉が口から漏れた。

セラフィーナは変わらぬ穏やかな表情で、静かに首を横に振った。

「人生に間違いなどありません。ただ選択があるだけです」
「選択、ですか」
「ええ。私たちはそれぞれ、その時最善だと思う道を選んだのです。それが今のこの場所に繋がっている。だから、後悔する必要はないと思います」

その言葉は、本心からのものだった。セラフィーナは本当に、もう過去に囚われていなかった。

アレクシスは深く息を吐いた。救われたような、それでいて更に切なくなるような、複雑な感情が胸を満たした。

「そうですか。あなたは…本当に強い方だ」
「いいえ。ただ、前を向いているだけです」

セラフィーナは軽く会釈をして、エドウィンと共にテラスへと向かった。アレクシスはその背中を見送りながら、グラスの中のワインを一気に飲み干した。

選択。そうだ、自分が選んだのだ。健康で美しく見えたエリーゼを。病弱に見えたセラフィーナではなく。

だが、真に強く美しかったのは。

アレクシスは首を振った。今更何を考えても無意味だ。選択は終わり、道は分かれた。彼女は幸せな道を歩み始めている。自分は…。

遠くから、エリーゼの不在を囁く声が聞こえた。また体調不良だと。あの公爵夫人は病弱だと。嘲笑混じりの噂話。

アレクシスは静かに会場を後にした。セラフィーナの微笑が、瞼の裏に焼き付いて離れなかった。
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