虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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王宮の謁見の間。荘厳な天井画の下、国王陛下の前に二組の婚約者が並んでいた。

一組は貴族の嫡男と伯爵令嬢。もう一組は、セラフィーナとエドウィンだった。

「セラフィーナ・ロスウェル侯爵令嬢とエドウィン・グレイ博士の婚約を、朕は祝福する」

国王の言葉に、謁見の間に集まった貴族たちから祝福の拍手が湧き起こった。

セラフィーナは深々と礼をした。隣でエドウィンも同様に頭を下げる。国王は温和に微笑んだ。

「グレイ博士の研究は王国の医学発展に大きく貢献している。そしてロスウェル令嬢の薬草事業もまた、多くの民を救っている。二人の結婚は、まさに理想的な組み合わせと言えよう」

式が終わり、貴族たちがセラフィーナとエドウィンを取り囲んだ。

「おめでとうございます、セラフィーナ様!」
「エドウィン殿は素晴らしい方ですわ。お幸せに!」
「お二人の研究、いつも拝読しております」
「次の薬草茶の新製品、楽しみにしておりますわ」

祝福の言葉が次々と寄せられた。かつてセラフィーナを哀れんだ人々も、今は心からの祝福を送っている。

社交界の片隅に、アレクシスの姿があった。彼は遠くからその光景を見つめていたが、近づくことはしなかった。いや、できなかった。

「アレクシス様」

重臣の一人が声をかけた。

「公爵夫人はご欠席ですか」
「ああ、体調が優れないとのことで」

それは半分本当で、半分嘘だった。エリーゼは今朝、セラフィーナの婚約発表の知らせを聞いて激昂した。部屋中の花瓶を投げつけ、侍女に当たり散らし、最後には泣き叫んで寝込んだ。

「あの病弱女が!あの無価値な女が結婚するなんて!」

エリーゼの金切り声が、今も耳に残っている。アレクシスは疲れ果てた表情で、遠くの幸福な二人を見つめた。

---

公爵邸に戻ると、予想通りの光景が待っていた。

エリーゼが寝室で泣き叫び、侍女たちが途方に暮れている。部屋は散乱し、割れた陶器の破片が床に散らばっていた。

「どうして!どうしてあの女が幸せになるの!」

エリーゼは枕に顔を埋めて叫んでいた。化粧は涙で滲み、かつての美貌は見る影もない。

「私の方が美しいのに!健康なのに!公爵夫人なのに!」
「エリーゼ、落ち着いて」

アレクシスが声をかけたが、彼女は枕を投げつけた。

「あなたが悪いのよ!あなたがちゃんと私を愛してくれないから!」
「それは…」
「セラフィーナなんて、病弱で役立たずだったじゃない!なのにどうして!どうしてあの女が幸せで、私が不幸なの!」

アレクシスは何も言えなかった。確かに、セラフィーナは病弱だった。だが彼女は自らの力でそれを克服し、社会に貢献し、誠実な愛を手に入れた。

一方エリーゼは。健康で美しいはずだった彼女は、実は全てを演技していただけだった。結婚してその仮面が剥がれ、本性が露わになった。我儘で、傲慢で、感情の制御ができない。

「使用人が辞めたわ。また三人も」

執事が暗い顔で報告に来た。

「理由は」
「夫人の…叱責に耐えかねたと」

アレクシスは頭を抱えた。使用人は次々と辞めていく。理不尽な怒りに晒され、時には暴力すら振るわれる。残っているのは、高給に惹かれた者か、辞める機会を逃した者だけだ。

「跡継ぎの件も…」

執事は言いにくそうに続けた。

「親族会議で再び話題になっております。このままでは…」

言葉を濁したが、意味は明確だった。跡継ぎがいない。そして今の状況では、エリーゼが懐妊する見込みは極めて低い。

「わかっている」

アレクシスは疲れた声で答えた。

その夜、彼は書斎で一人、グラスを傾けた。窓の外には星空が広がっている。

(私は何を選んだのだろう)

セラフィーナの穏やかな微笑が脳裏に浮かんだ。「人生に間違いなどありません。ただ選択があるだけです」という言葉が、重く心に響いた。

選択。そうだ、自分が選んだのだ。この道を。この結果を。

だが、もし選び直せるなら。

アレクシスはグラスを握りしめた。その仮定に意味はない。時は戻らない。セラフィーナはもう、別の人の妻になる。

翌日の社交界では、セラフィーナとエドウィンの婚約が話題の中心だった。

「本当にお似合いですわ」
「グレイ博士は誠実な方ですもの」
「セラフィーナ様が幸せそうで、私まで嬉しくなりますわ」

祝福の言葉が飛び交う一方で、公爵家についての噂も囁かれていた。

「公爵夫人、また欠席ですって」
「最近ずっとそうですわね」
「体調不良が多すぎません?」
「いいえ、聞いた話では…」

小声での会話。憐れみと嘲笑が混じった視線。

かつてセラフィーナが受けていたそれを、今度はエリーゼが受けていた。ただし、セラフィーナへのそれが同情だったのに対し、エリーゼへのそれは軽蔑だった。

公爵家の威信は、静かに、しかし確実に崩れていった。
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