虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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初夏の朝、王都の下町に新しい建物が完成した。

「無料診療所 ロスウェル医館」

木製の看板に、丁寧な文字でそう書かれている。二階建ての清潔な建物で、一階が診療室と薬局、二階が研究室と事務室になっていた。

セラフィーナは建物の前に立ち、満足そうに頷いた。隣にはエドウィン、そして協力を申し出た若い医師たちと薬剤師たちが並んでいる。

「皆さん、ありがとうございます」

セラフィーナは集まった人々に向かって言った。

「この診療所の目的は、貧しい人々に医療を提供することです。利益ではなく、人々の健康のために」

彼女の言葉に、医師たちが頷いた。王立医学院を卒業したばかりの若い医師たち。理想に燃え、人々を救いたいと願う者たち。セラフィーナの理念に共感し、無償で協力を申し出てくれた。

「薬は侯爵家の薬草園から無償で提供します。診療費も取りません。ただし、診療できる人数には限りがありますので、重症の方を優先させていただきます」

執事のマクスウェルが補足した。彼もこの計画に全面的に協力してくれている。

「では、開院しましょう」

セラフィーナが扉を開くと、すでに多くの人々が列を作っていた。古びた服を着た労働者、痩せた子供を抱いた母親、杖をついた老人。

「本当に無料なんですか?」
「ええ、どうぞ」

セラフィーナは微笑んで応えた。

診療が始まった。若い医師たちが丁寧に診察し、セラフィーナと薬剤師たちが薬を調合する。エドウィンは重症患者の診断を補助した。

「この咳止めシロップ、一日三回飲んでください」
「足の傷ですね。この軟膏を塗って、清潔に保ってください」
「栄養失調ですね。この薬草茶を毎日飲んで、できればこの食事内容を参考にしてください」

次々と患者が診察を受け、薬を受け取っていく。その顔には、驚きと感謝が浮かんでいた。

「本当にありがとうございます、令嬢様」

老人が深々と頭を下げた。

「いいえ。お大事になさってください」

セラフィーナは優しく微笑んだ。

昼過ぎ、貴族の馬車が診療所の前に止まった。降りてきたのは、数人の貴族夫人たちだった。

「セラフィーナ様!」

彼女たちは診療所の中に入ってきた。

「素晴らしい試みですわ。私たちも協力させていただけませんか」
「え?」
「寄付をさせてください。それから、私の領地でも同じような診療所を開けないかしら」

貴族夫人の一人が熱心に言った。彼女は以前、セラフィーナの薬草茶で持病が改善した経験があった。

「私も協力しますわ。うちの領地には良い医師がいないの」

別の夫人も加わった。

セラフィーナは驚き、そして深く感謝した。

「ありがとうございます。皆様のお力をお借りできれば、もっと多くの人々を救えます」

こうして、セラフィーナの慈善事業は貴族たちの支援を得て、急速に拡大していった。

---

夕方、診療所の仕事を終えたセラフィーナとエドウィンは、二階の小さな休憩室でお茶を飲んでいた。

「疲れましたか?」

エドウィンが尋ねた。

「いいえ、充実しています」

セラフィーナは微笑んだ。

「多くの人を助けられた。それが何より嬉しい」

窓の外では、診療所を出ていく人々が、笑顔で話しながら歩いている。子供を抱いた母親の顔には、安堵の色が浮かんでいた。

「あなたは本当に強い」

エドウィンが言った。

「病を克服し、事業を成功させ、そして人々を救っている。私は毎日、あなたから学んでいます」
「私も、あなたから学んでいますわ」

セラフィーナは彼の手を取った。

「一人では、ここまでできなかった。あなたがいてくれるから」

二人は手を繋いだまま、窓の外を見つめた。

「結婚式の後、この事業をもっと広げましょう」

エドウィンが提案した。

「各地に診療所を作り、医師を育成する。そうすれば、もっと多くの命を救える」
「素晴らしい計画です」

セラフィーナの目が輝いた。

「前世の知識と、この世界の資源を組み合わせれば、きっと実現できます」

二人は未来の計画を語り合った。その表情には、希望と決意が満ちていた。

---

同じ頃、公爵邸では暗い雰囲気が漂っていた。

「また使用人が二人辞めました」

執事が報告した。

「今度の理由は」
「夫人が銀食器を投げつけたそうです」

アレクシスは深いため息をついた。

「怪我は」
「幸い、当たりませんでした」

それだけが救いだった。

「セラフィーナのことを聞きました」

重臣の一人が言った。

「下町に無料診療所を開いたとか。民の間で評判になっています」
「そうか」

アレクシスは窓の外を見た。

「彼女は…素晴らしい方だ」

重臣は意味深な目でアレクシスを見たが、何も言わなかった。

「跡継ぎの件ですが」

別の重臣が切り出した。

「このままでは…」
「わかっている」

アレクシスは短く答えた。

「考えている」

だが、解決策は見えなかった。エリーゼとの間に子供が生まれる見込みはない。彼女の精神状態では、懐妊どころではない。

「養子を迎えるという選択肢も…」

重臣が慎重に提案したが、アレクシスは首を横に振った。

「エリーゼが許さない」
「しかし公爵家の未来が…」
「わかっている!」

アレクシスは珍しく声を荒げた。そして、すぐに謝罪した。

「すまない。少し、疲れているのだ」

重臣たちは静かに退出した。残されたアレクシスは、一人暗い書斎で頭を抱えた。

遠くから、エリーゼの甲高い声が聞こえてくる。また何かに腹を立てているのだろう。

(セラフィーナは今頃、人々の笑顔に囲まれているのだろうか)

アレクシスは苦く微笑んだ。あまりにも対照的な二つの人生。そして、自分が選んだのは。

彼は立ち上がり、酒の瓶に手を伸ばした。最近、酒の量が増えている。それだけが、現実から逃れる方法だった。
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