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あまりの眩しさに目を瞑って光が収まってから目を開けるとそこはもう先程の場所ではなかった。
あれだけ居た人も誰も居ない。
隣にいるメイヤットさんと俺の2人だけだ。
うわぁ....一瞬で別の場所に....。
凄いなぁ...。
辺りは一面木で覆われている。
「あの、ここはどこなんでしょう?」
「........」
あれ?メイヤットさん?
俺が話しかけても聞こえていないのか青い顔で辺りを見回している。
え、ちょっと待って。送られる場所間違えたとかそんな感じ?
確かに周りに味方すら居ないのは不自然だ。
じゃあこのまま逃げるとかも有りか?
夢が覚めるまでどこかでのんびりしてた方がよっぽどいい。
「....勇者様、どうやら転送先の座標が間違っていたようです。定かではありませんが....おそらくここはネイベル...。すでに敵国へ来てしまったかもしれません」
「ええ!?」
「お静かに」
ぴしゃりと言われ慌てて口を閉じる。
敵国って!たった2人で居ていい場所じゃないでしょ!
さくっと逃げましょう!そうしましょう!
メイヤットさんに逃げよう、と言おうとした直後、「ぐぁっ!」とくぐもったうめき声が隣から聞こえた。
えっ、なにっ。どうしたの!?
がくん、と崩れ落ちたメイヤットさんを見ると足首に矢が刺さっており、血がどくどくと流れている。
「ひっ!」
グロっ!怖っ!なにが起こってんの!?
「メイヤットさん!?大丈夫ですか!?」
「勇者様...、お逃げくださいっ....」
いや、逃げるつったって右も左もわからないのにどうやって逃げるのさ!
しかも矢を放った人がどこに居るかも分からない。
もおおおお!怖いよ!どんだけ長い夢なのよ!
取り敢えず止血?矢は抜いちゃ駄目だよな...。
止血するにも縛る紐がないからしょうがなくスウェットを切ろうと剣を抜く。
「いっ....!」
その直後、俺の手を何かが掠めた。
なに!?痛いんだけど!
見ると手の甲がざっくりと裂けている。
ぎゃあああ!なに!?なんで痛いの!?これ夢だろ!?
感じるはずのない痛みに頭の中はパニックだ。
「動くな」
突如聞こえた声に俺の身体はぎくりと固まった。
聞いたことのないような、冷たくて低い声。
殺気、というものを感じたことがないのでこれがそうなのか分からないが背筋が凍りつき、手の痛みも忘れた。
「剣を遠くに捨ててゆっくり立ち上がれ」
顔を上げることも出来ず、震える手で剣を放り投げる。
ただ、腰が抜けてしまい立ち上がることが出来なかった。
代わりにゆっくり両手と顔を上げ、声が震えないように口を開く。
「す、すみません.....。腰が抜けてしまって——」
顔を上げると弓を構えている男と目が合った。
———その綺麗さに思わず息を呑む。
銀髪の長い髪に獣のような金色の瞳。
ピクピクと忙しなく動く、髪と同じ色の犬のような耳。
顔は普通——いや、尋常ではないほどの美形ではあるが人と同じ容姿をしている。
尻尾は見えないが獣人族だ。
「.....綺麗....」
弓を構えられているのも忘れて思わず声が漏れた。
「勇者様...私が時間を稼ぎますので」
「少しでも動いたら射るぞ」
小声で話すメイヤットさんの声も聞こえていたようで被せるように言い放ち一歩踏み出す。
「そいつの剣も捨てろ」
「あ、あの...、止血だけでもさせてもらえませんか...?」
足の出血が気になって仕方がない。
心なしかメイヤットさんの顔色も悪くなってきてる気がする。
「.....少しでも変な動きをすればわかってるな?」
「は、はい...」
ギロリと睨みつけられ身体が竦む。
...これは現実か?自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえ、手の痛みもぶり返してきた。
だとしたら、この後はどうなってしまうんだろうか。
震える手で剣を抜こうとすると男が叫んだ。
「動くな!」
「ひっ!」
「射られたいのか?」
「ち、違います...!縛る紐が無いので服を切りたくて...」
「引きちぎればいいだろう。剣は捨てろ」
引きちぎる!?どう考えても無理でしょ!
あなたみたいなムキムキと一緒にしないで頂きたい!
それでも頑張って引きちぎろとしても服は伸びるばかりで破れる気がしない。
するとメイヤットさんがもぞもぞと動くのが見えた。
ドスッ
直後、鈍い音が響く。
「え.....」
懐に入れていたメイヤットさんの手が、ナイフを掴んだままだらりと力なく垂れた。
「メ...メイヤット...さん....?」
喉に、矢が.....。
「っ....!なっ....!」
し、死んでる...!?
男と、そしてメイヤットさんと距離をとろうと必死に足を動かす。
こわいこわいこわい!
なんで俺がこんな目に!?夢だろ!早く覚めろよ!
頭をがしがしかくと右手がズキンと痛んだ。
まるで、これは現実だとでも言うように。
男を見ると新たな矢をつがえてこちらを睨みつけている。
もうやだ。俺なんか悪いことした?
ブルブルと震える体を抱きしめて目をぎゅっと瞑る。
「おい、何故こんなところに居る。他に人はいないのか?」
「........」
「おい!答えろ!」
「....知らないよ!俺はなんにも知らない!いきなり連れてこられただけだ!勇者でもなんでもない!」
なんなんだよ!もう!
勇者ってあれだろ?チート授かったやつのことだろ!?俺にはなにもないから!なんの力もないただの大学生だから!女神様からなにも授かってないから!
近くでガザリと音がしたかと思えば俺の意識はそこで途切れた。
あれだけ居た人も誰も居ない。
隣にいるメイヤットさんと俺の2人だけだ。
うわぁ....一瞬で別の場所に....。
凄いなぁ...。
辺りは一面木で覆われている。
「あの、ここはどこなんでしょう?」
「........」
あれ?メイヤットさん?
俺が話しかけても聞こえていないのか青い顔で辺りを見回している。
え、ちょっと待って。送られる場所間違えたとかそんな感じ?
確かに周りに味方すら居ないのは不自然だ。
じゃあこのまま逃げるとかも有りか?
夢が覚めるまでどこかでのんびりしてた方がよっぽどいい。
「....勇者様、どうやら転送先の座標が間違っていたようです。定かではありませんが....おそらくここはネイベル...。すでに敵国へ来てしまったかもしれません」
「ええ!?」
「お静かに」
ぴしゃりと言われ慌てて口を閉じる。
敵国って!たった2人で居ていい場所じゃないでしょ!
さくっと逃げましょう!そうしましょう!
メイヤットさんに逃げよう、と言おうとした直後、「ぐぁっ!」とくぐもったうめき声が隣から聞こえた。
えっ、なにっ。どうしたの!?
がくん、と崩れ落ちたメイヤットさんを見ると足首に矢が刺さっており、血がどくどくと流れている。
「ひっ!」
グロっ!怖っ!なにが起こってんの!?
「メイヤットさん!?大丈夫ですか!?」
「勇者様...、お逃げくださいっ....」
いや、逃げるつったって右も左もわからないのにどうやって逃げるのさ!
しかも矢を放った人がどこに居るかも分からない。
もおおおお!怖いよ!どんだけ長い夢なのよ!
取り敢えず止血?矢は抜いちゃ駄目だよな...。
止血するにも縛る紐がないからしょうがなくスウェットを切ろうと剣を抜く。
「いっ....!」
その直後、俺の手を何かが掠めた。
なに!?痛いんだけど!
見ると手の甲がざっくりと裂けている。
ぎゃあああ!なに!?なんで痛いの!?これ夢だろ!?
感じるはずのない痛みに頭の中はパニックだ。
「動くな」
突如聞こえた声に俺の身体はぎくりと固まった。
聞いたことのないような、冷たくて低い声。
殺気、というものを感じたことがないのでこれがそうなのか分からないが背筋が凍りつき、手の痛みも忘れた。
「剣を遠くに捨ててゆっくり立ち上がれ」
顔を上げることも出来ず、震える手で剣を放り投げる。
ただ、腰が抜けてしまい立ち上がることが出来なかった。
代わりにゆっくり両手と顔を上げ、声が震えないように口を開く。
「す、すみません.....。腰が抜けてしまって——」
顔を上げると弓を構えている男と目が合った。
———その綺麗さに思わず息を呑む。
銀髪の長い髪に獣のような金色の瞳。
ピクピクと忙しなく動く、髪と同じ色の犬のような耳。
顔は普通——いや、尋常ではないほどの美形ではあるが人と同じ容姿をしている。
尻尾は見えないが獣人族だ。
「.....綺麗....」
弓を構えられているのも忘れて思わず声が漏れた。
「勇者様...私が時間を稼ぎますので」
「少しでも動いたら射るぞ」
小声で話すメイヤットさんの声も聞こえていたようで被せるように言い放ち一歩踏み出す。
「そいつの剣も捨てろ」
「あ、あの...、止血だけでもさせてもらえませんか...?」
足の出血が気になって仕方がない。
心なしかメイヤットさんの顔色も悪くなってきてる気がする。
「.....少しでも変な動きをすればわかってるな?」
「は、はい...」
ギロリと睨みつけられ身体が竦む。
...これは現実か?自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえ、手の痛みもぶり返してきた。
だとしたら、この後はどうなってしまうんだろうか。
震える手で剣を抜こうとすると男が叫んだ。
「動くな!」
「ひっ!」
「射られたいのか?」
「ち、違います...!縛る紐が無いので服を切りたくて...」
「引きちぎればいいだろう。剣は捨てろ」
引きちぎる!?どう考えても無理でしょ!
あなたみたいなムキムキと一緒にしないで頂きたい!
それでも頑張って引きちぎろとしても服は伸びるばかりで破れる気がしない。
するとメイヤットさんがもぞもぞと動くのが見えた。
ドスッ
直後、鈍い音が響く。
「え.....」
懐に入れていたメイヤットさんの手が、ナイフを掴んだままだらりと力なく垂れた。
「メ...メイヤット...さん....?」
喉に、矢が.....。
「っ....!なっ....!」
し、死んでる...!?
男と、そしてメイヤットさんと距離をとろうと必死に足を動かす。
こわいこわいこわい!
なんで俺がこんな目に!?夢だろ!早く覚めろよ!
頭をがしがしかくと右手がズキンと痛んだ。
まるで、これは現実だとでも言うように。
男を見ると新たな矢をつがえてこちらを睨みつけている。
もうやだ。俺なんか悪いことした?
ブルブルと震える体を抱きしめて目をぎゅっと瞑る。
「おい、何故こんなところに居る。他に人はいないのか?」
「........」
「おい!答えろ!」
「....知らないよ!俺はなんにも知らない!いきなり連れてこられただけだ!勇者でもなんでもない!」
なんなんだよ!もう!
勇者ってあれだろ?チート授かったやつのことだろ!?俺にはなにもないから!なんの力もないただの大学生だから!女神様からなにも授かってないから!
近くでガザリと音がしたかと思えば俺の意識はそこで途切れた。
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