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15話
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転移陣は地下にあるそうで、俺も同行させてもらうことにした。
せめてメイヤットさんに手を合わせておきたい。
地下へと続く階段を降りて入り組んだ通路を進むと少し開けた場所へ出た。
と、言っても松明の灯りしかないのでどれくらいの広さかはわからない。
正直、少し怖い。明かりはリベルが持つ松明だけで、視界は悪いし足音がやけに響く。
しかもなんだか肌寒い。でも、自分の腕を抱いた直後に背後のトリスさんがなにか呟いたと思ったら一瞬で辺りが明るくなった。
「わっ!」
それほど広くはなく、物はなにも置いてない。
あるのは床に書かれた魔法陣だけ。
そしてその上に布で巻かれた、たぶんメイヤットさんが寝かされている。
震える身体を動かして側に膝をつくと恐る恐る布をめくる。
青白い顔を見た瞬間、どばっと涙が溢れた。
声も出ず、ただ涙がぼろぼろと零れる。
会って間もない、会話だって数回しかしてない見ず知らずの俺を必死に護ろうとしてくれた。
俺はただ逃げることしかできなかったのに。
目を閉じて溢れる涙をそのままに手を合わせる。
メイヤットさん、ありがとうございました。あなたのお陰で俺は今、生きています。
なにもできず、すみませんでした。どうか安らかに。
お礼と謝罪を繰り返していると涙をぬぐうようになにかが目元に触れる。
驚いて顔を上げると思ったより近くにリベルがいた。
「っ、...なんだよ」
反射的にびくりと身体が竦む。
涙はいつの間にか止まっていた。
「.....俺を恨んでるか?」
「は?」
またこいつは何を言い出したんだ?
ってか触り方がいちいちキザっていうか....。お前イケメンじゃなかったらセクハラだからな!?
男同士なのになんでこんなドキドキしなくちゃいけないんだ。
まさか天然タラシか?
「こいつを殺した俺を恨んでるか?」
反対側の涙の跡も指でぬぐいながら再度問う。
心なしか表情が曇っている気がする。
「.....別に。恨んでないよ」
その言葉に嘘はない。
思い返してみればメイヤットさんの足の止血も許可してくれたし、問答無用で殺そうとはしていなかった。
怖かったけどね。
それに敵国の人間がいきなり国内に現れたらそりゃ警戒もするだろう。
めちゃくちゃ怖かったけどね。
だから、リベルの行動は理解できる。
「怖かっただけで恨んでない」
もう一度言うとリベルは「そうか」と言って少しホッとしたように笑った。
「お2人とも、そろそろ転送させますので陣から離れてください」
トリスさんの言葉に立ち上がろうとしたとき、リベルから手を差し伸べられた。
一瞬躊躇ったが手をとると、その手の大きさと力強さに思わずドキッとしてしまう。
なんだよ!ドキッて!相手は男だぞ!?
落ち着け俺。預けた手に体重をかけて立ち上がろうとすると、ものすごい力で引っ張られた。
補助とかそんなんじゃなくリベルの力だけで立ち上がったようなものだ。
しかも勢い余ってリベルの逞しい胸板に支えられてしまう。
「っ、ごめん...ありがと」
慌てて離れて、陣からも距離をとる。
俺たちが陣から離れるのを確認するとトリスさんは呪文を唱え始めた。
「そういえば、メイヤットさんの傷なくなってたけどあれもトリスさんが?」
トリスさんの邪魔にならないように小声で聞く。
「ああ。防腐処理もな」
へぇ~。トリスさんってそんなことまでできるのか。すごいな。
魔術を使うには魔力だけでなく知識も必要らしい。つまり、トリスさんは医術や防腐処理の知識もあるってことだよな?すごすぎる。
魔力があったとしても俺には無理だろうな~。
そんなことを考えていたら光とともにメイヤットさんは消えていた。
◇◇◇◇
次の日から1週間、ローレンは護衛の仕事を休む事になったらしい。
「具合悪いの?」
「いや、ルディがヒートになっただけだ。護衛の仕事だと融通が利きにくいだろ」
そういえば昨日そんなこと言ってたな。
「ヒートってなんなの?」
「知らなかったか?発情期のことだよ」
「はっ!?....えっと、なんだって...?」
「だから、発情期」
あまりにもさらっと言うので聞き間違いかと思ったのに、どうやら聞き間違いではないらしい。
「そうか。人族にはないんだったな。獣人にはみんなあるんだ。なんの獣人かによって期間も周期もバラバラだけどな」
な、なるほど...?
「えっと....じゃあルディっていうのは...」
「ああ、ローレンの恋人だよ」
ローレン彼女いたのね!いや、いてもおかしくはないんだけどこの砦って女の人少ないしさ?
普通に羨ましいんですけど....!
あれ、でも待って。
「恋人がいない人はどうしてるの?」
男女の比率が明らかに違うのだからあぶれる者は当然でてくるはずだ。
「相手がいないやつ同士とか...後はひたすら我慢とかだな。まあ相手いた方が圧倒的に楽だし、みんな適当に相手探してるんじゃないか?」
な、なるほど...?
じゃあここの人たちはほぼ童貞は卒業してるってことかな...?
俺も一応卒業はしてるけど年上のお姉さんにされるがままで、俺はほとんどマグロ状態。
しかも経験はその一回だけだ。
ネコ耳とか萌えるな~、って思ってたけどものすごいプレイとかテクニックとか要求されそうでなんか怖いな。
下手!とかつまらない!とか言われたら立ち直れなくなりそう....。
その後、ローレンの代わりに護衛をしてくれる人を紹介された。
「ジャルさん!」
嫌そうに顔をしかめながら入ってきたのはジャルさんだ。
「ちっ、なんで俺が人族なんかの護衛を」
「あれ、知り合いだったか?」
「うん。昨日少し話しただけだけどね」
よし!この1週間で仲良くなるぞ!
せめてメイヤットさんに手を合わせておきたい。
地下へと続く階段を降りて入り組んだ通路を進むと少し開けた場所へ出た。
と、言っても松明の灯りしかないのでどれくらいの広さかはわからない。
正直、少し怖い。明かりはリベルが持つ松明だけで、視界は悪いし足音がやけに響く。
しかもなんだか肌寒い。でも、自分の腕を抱いた直後に背後のトリスさんがなにか呟いたと思ったら一瞬で辺りが明るくなった。
「わっ!」
それほど広くはなく、物はなにも置いてない。
あるのは床に書かれた魔法陣だけ。
そしてその上に布で巻かれた、たぶんメイヤットさんが寝かされている。
震える身体を動かして側に膝をつくと恐る恐る布をめくる。
青白い顔を見た瞬間、どばっと涙が溢れた。
声も出ず、ただ涙がぼろぼろと零れる。
会って間もない、会話だって数回しかしてない見ず知らずの俺を必死に護ろうとしてくれた。
俺はただ逃げることしかできなかったのに。
目を閉じて溢れる涙をそのままに手を合わせる。
メイヤットさん、ありがとうございました。あなたのお陰で俺は今、生きています。
なにもできず、すみませんでした。どうか安らかに。
お礼と謝罪を繰り返していると涙をぬぐうようになにかが目元に触れる。
驚いて顔を上げると思ったより近くにリベルがいた。
「っ、...なんだよ」
反射的にびくりと身体が竦む。
涙はいつの間にか止まっていた。
「.....俺を恨んでるか?」
「は?」
またこいつは何を言い出したんだ?
ってか触り方がいちいちキザっていうか....。お前イケメンじゃなかったらセクハラだからな!?
男同士なのになんでこんなドキドキしなくちゃいけないんだ。
まさか天然タラシか?
「こいつを殺した俺を恨んでるか?」
反対側の涙の跡も指でぬぐいながら再度問う。
心なしか表情が曇っている気がする。
「.....別に。恨んでないよ」
その言葉に嘘はない。
思い返してみればメイヤットさんの足の止血も許可してくれたし、問答無用で殺そうとはしていなかった。
怖かったけどね。
それに敵国の人間がいきなり国内に現れたらそりゃ警戒もするだろう。
めちゃくちゃ怖かったけどね。
だから、リベルの行動は理解できる。
「怖かっただけで恨んでない」
もう一度言うとリベルは「そうか」と言って少しホッとしたように笑った。
「お2人とも、そろそろ転送させますので陣から離れてください」
トリスさんの言葉に立ち上がろうとしたとき、リベルから手を差し伸べられた。
一瞬躊躇ったが手をとると、その手の大きさと力強さに思わずドキッとしてしまう。
なんだよ!ドキッて!相手は男だぞ!?
落ち着け俺。預けた手に体重をかけて立ち上がろうとすると、ものすごい力で引っ張られた。
補助とかそんなんじゃなくリベルの力だけで立ち上がったようなものだ。
しかも勢い余ってリベルの逞しい胸板に支えられてしまう。
「っ、ごめん...ありがと」
慌てて離れて、陣からも距離をとる。
俺たちが陣から離れるのを確認するとトリスさんは呪文を唱え始めた。
「そういえば、メイヤットさんの傷なくなってたけどあれもトリスさんが?」
トリスさんの邪魔にならないように小声で聞く。
「ああ。防腐処理もな」
へぇ~。トリスさんってそんなことまでできるのか。すごいな。
魔術を使うには魔力だけでなく知識も必要らしい。つまり、トリスさんは医術や防腐処理の知識もあるってことだよな?すごすぎる。
魔力があったとしても俺には無理だろうな~。
そんなことを考えていたら光とともにメイヤットさんは消えていた。
◇◇◇◇
次の日から1週間、ローレンは護衛の仕事を休む事になったらしい。
「具合悪いの?」
「いや、ルディがヒートになっただけだ。護衛の仕事だと融通が利きにくいだろ」
そういえば昨日そんなこと言ってたな。
「ヒートってなんなの?」
「知らなかったか?発情期のことだよ」
「はっ!?....えっと、なんだって...?」
「だから、発情期」
あまりにもさらっと言うので聞き間違いかと思ったのに、どうやら聞き間違いではないらしい。
「そうか。人族にはないんだったな。獣人にはみんなあるんだ。なんの獣人かによって期間も周期もバラバラだけどな」
な、なるほど...?
「えっと....じゃあルディっていうのは...」
「ああ、ローレンの恋人だよ」
ローレン彼女いたのね!いや、いてもおかしくはないんだけどこの砦って女の人少ないしさ?
普通に羨ましいんですけど....!
あれ、でも待って。
「恋人がいない人はどうしてるの?」
男女の比率が明らかに違うのだからあぶれる者は当然でてくるはずだ。
「相手がいないやつ同士とか...後はひたすら我慢とかだな。まあ相手いた方が圧倒的に楽だし、みんな適当に相手探してるんじゃないか?」
な、なるほど...?
じゃあここの人たちはほぼ童貞は卒業してるってことかな...?
俺も一応卒業はしてるけど年上のお姉さんにされるがままで、俺はほとんどマグロ状態。
しかも経験はその一回だけだ。
ネコ耳とか萌えるな~、って思ってたけどものすごいプレイとかテクニックとか要求されそうでなんか怖いな。
下手!とかつまらない!とか言われたら立ち直れなくなりそう....。
その後、ローレンの代わりに護衛をしてくれる人を紹介された。
「ジャルさん!」
嫌そうに顔をしかめながら入ってきたのはジャルさんだ。
「ちっ、なんで俺が人族なんかの護衛を」
「あれ、知り合いだったか?」
「うん。昨日少し話しただけだけどね」
よし!この1週間で仲良くなるぞ!
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