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29話
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ヴィスに部屋まで送ってもらい、少しだけ事情を教えてもらった。
「さっきの人が近衛騎士団のラージュ副団長だ。リベル団長に代わって指揮をとってもらう」
「....そうなんだ」
「.....レムールに攻めることは黙ってて悪かった。ただ、チヒロの為でもあるんだ。何も知らなければスパイだと疑われずに済むだろ。だから詳しくは話せないが事が終わるまでなるべく部屋にいて欲しい。この1週間はリベル団長もマーキングできないし」
「.....うん。わかった」
俺が落ち込んでいるのが黙っていた事だと思っているらしい。
そりゃあさっき聞いた時はびっくりしたけど、そういう理由なら納得できる。むしろ感謝しかない。
それより自分でもなんでこんなに心臓が痛むのかわからない。
それはヴィスが部屋を出て行っても治らなかった。
1人だと余計なことを考えてしまうから。
今頃あのラージュさんって人としっぽりやってるんだろうか、とか。付き合ってる人はいないって言ってたけど好きな人がいないとは言ってなかったな、とか。自分からは触ってくるくせに俺から触るのはダメなのか、とか。
そんなことを考えていると余計心臓に棘が刺さったかのようにジクジクと痛む。
振り払われた手を撫でながら、はっと息をのんだ。
いや、いやいやいや!なに考えてんだ俺!これじゃまるであいつのこと好きみたいじゃんか!
ない!ないから!俺はノーマルだから!誰が好き好んであんなイカつい男を!そりゃ顔は綺麗だけどさっ。
やめ!やめやめ!考えるのやめ!
これ以上考えていたらいけないところに行き着いてしまいそうで怖い。
1人の夜も久々で、うっかり昼間あったことを思い出してしまいなかなか眠れなかった。
それから3日間はとても静かで、俺も極力部屋から出ていない。筋トレも部屋のなかでやっている。さすがに1か月も続けていると筋肉痛にもならなくなってきた。
随分静かだけどまだなにも送られてきてないんだろうか。みんな無事だろうか。怪我とかしてないだろうか。
暇だと余計なことばかり考えてしまう。
どうかみんな無事に戻ってこれますように。
窓から外を眺めながら祈ると、突然鳥が一斉にバタバタと慌ただしく飛び立った。
もしかして、レムールからなにか送られてきたのか?
ここからじゃ森の様子がよくわからなくて、外に出ようかと一瞬悩んでやめた。俺が外に出てもなにもできないし足手まといになるだけだ。
それからずっと、たぶん30分くらい、外を眺めてたけど鳥が飛び立った以外に目立った異変はない。
「ん...?」
その時、足元をなにかが掠めた。
だが下を見てもなにもいない。
気のせいかと思って顔を戻そうとしたら目の端に黒いものが映った。
「えっ!?」
そこにはベッドで寛ぐ黒豹の姿。
いつの間に!?ってか誰!?
獣騎士団員なら勝手に部屋に入ったりしない。
しかもまだ全員の顔は覚えてないけど黒豹はいなかったはずだ。
ん?黒豹.....?
「.....もしかして、ノックス...?」
俺の言葉に嬉しそうに目を細めたかと思えば黒豹がぐにゃりと歪んだ。
「せいかーい」
次の瞬間には人の姿になっていた。もちろん全裸。
服持ってこいよ!
ノックスは気にしていないのかご立派なモノを隠そうともしない。
逃げたくてもノックスの方がドアに近いので無理だろう。
「....なんでここに....」
「そんな警戒すんなよ。今日は別に仕事で来てるわけじゃない。ほら、丸腰だろ?」
わかったから見せつけないでほしい。
「....じゃあなおさらなんで...」
「お前、俺と来ないか?」
「は.....?」
何を言われたのか一瞬わからなかった。
「こんなところで肩っ苦しく生きるより俺と来た方が楽しいぞ?」
この人は本気で言ってるんだろうか。....きっと本気なんだろうな。
「.....悪いけど、逃亡生活なんてごめんだよ」
「そうか?あの緊張感癖になるぞ?生きてるって実感できる」
「....十分実感できてる」
「そうか。できれば望んで来て欲しかったんだがな」
「望んで行くことなんか絶対にない」
「ははっ、なら首輪でもつけないとなぁ?」
ぞくり
——怖い。話が通じない。怖い。助けて。助けて、リベル———。
真っ先に顔が浮かんだのはリベルだった。
情けない姿を見せたくなくてなんとか歯を食いしばり、とにかく時間を稼ごうと気合を入れる。
「そんなことのためにここまで来たの?捕まるとは思わなかった?」
「俺にとっては"そんなこと"じゃない。それに、俺が侵入したことさえ気づかない奴らなんざ取るに足らん」
そう言った直後、ニヤリと笑って扉の方を見た。
「——いや、1人いたようだな」
「え....?」
もしかして、扉の向こうに誰かいる?
「さっきの人が近衛騎士団のラージュ副団長だ。リベル団長に代わって指揮をとってもらう」
「....そうなんだ」
「.....レムールに攻めることは黙ってて悪かった。ただ、チヒロの為でもあるんだ。何も知らなければスパイだと疑われずに済むだろ。だから詳しくは話せないが事が終わるまでなるべく部屋にいて欲しい。この1週間はリベル団長もマーキングできないし」
「.....うん。わかった」
俺が落ち込んでいるのが黙っていた事だと思っているらしい。
そりゃあさっき聞いた時はびっくりしたけど、そういう理由なら納得できる。むしろ感謝しかない。
それより自分でもなんでこんなに心臓が痛むのかわからない。
それはヴィスが部屋を出て行っても治らなかった。
1人だと余計なことを考えてしまうから。
今頃あのラージュさんって人としっぽりやってるんだろうか、とか。付き合ってる人はいないって言ってたけど好きな人がいないとは言ってなかったな、とか。自分からは触ってくるくせに俺から触るのはダメなのか、とか。
そんなことを考えていると余計心臓に棘が刺さったかのようにジクジクと痛む。
振り払われた手を撫でながら、はっと息をのんだ。
いや、いやいやいや!なに考えてんだ俺!これじゃまるであいつのこと好きみたいじゃんか!
ない!ないから!俺はノーマルだから!誰が好き好んであんなイカつい男を!そりゃ顔は綺麗だけどさっ。
やめ!やめやめ!考えるのやめ!
これ以上考えていたらいけないところに行き着いてしまいそうで怖い。
1人の夜も久々で、うっかり昼間あったことを思い出してしまいなかなか眠れなかった。
それから3日間はとても静かで、俺も極力部屋から出ていない。筋トレも部屋のなかでやっている。さすがに1か月も続けていると筋肉痛にもならなくなってきた。
随分静かだけどまだなにも送られてきてないんだろうか。みんな無事だろうか。怪我とかしてないだろうか。
暇だと余計なことばかり考えてしまう。
どうかみんな無事に戻ってこれますように。
窓から外を眺めながら祈ると、突然鳥が一斉にバタバタと慌ただしく飛び立った。
もしかして、レムールからなにか送られてきたのか?
ここからじゃ森の様子がよくわからなくて、外に出ようかと一瞬悩んでやめた。俺が外に出てもなにもできないし足手まといになるだけだ。
それからずっと、たぶん30分くらい、外を眺めてたけど鳥が飛び立った以外に目立った異変はない。
「ん...?」
その時、足元をなにかが掠めた。
だが下を見てもなにもいない。
気のせいかと思って顔を戻そうとしたら目の端に黒いものが映った。
「えっ!?」
そこにはベッドで寛ぐ黒豹の姿。
いつの間に!?ってか誰!?
獣騎士団員なら勝手に部屋に入ったりしない。
しかもまだ全員の顔は覚えてないけど黒豹はいなかったはずだ。
ん?黒豹.....?
「.....もしかして、ノックス...?」
俺の言葉に嬉しそうに目を細めたかと思えば黒豹がぐにゃりと歪んだ。
「せいかーい」
次の瞬間には人の姿になっていた。もちろん全裸。
服持ってこいよ!
ノックスは気にしていないのかご立派なモノを隠そうともしない。
逃げたくてもノックスの方がドアに近いので無理だろう。
「....なんでここに....」
「そんな警戒すんなよ。今日は別に仕事で来てるわけじゃない。ほら、丸腰だろ?」
わかったから見せつけないでほしい。
「....じゃあなおさらなんで...」
「お前、俺と来ないか?」
「は.....?」
何を言われたのか一瞬わからなかった。
「こんなところで肩っ苦しく生きるより俺と来た方が楽しいぞ?」
この人は本気で言ってるんだろうか。....きっと本気なんだろうな。
「.....悪いけど、逃亡生活なんてごめんだよ」
「そうか?あの緊張感癖になるぞ?生きてるって実感できる」
「....十分実感できてる」
「そうか。できれば望んで来て欲しかったんだがな」
「望んで行くことなんか絶対にない」
「ははっ、なら首輪でもつけないとなぁ?」
ぞくり
——怖い。話が通じない。怖い。助けて。助けて、リベル———。
真っ先に顔が浮かんだのはリベルだった。
情けない姿を見せたくなくてなんとか歯を食いしばり、とにかく時間を稼ごうと気合を入れる。
「そんなことのためにここまで来たの?捕まるとは思わなかった?」
「俺にとっては"そんなこと"じゃない。それに、俺が侵入したことさえ気づかない奴らなんざ取るに足らん」
そう言った直後、ニヤリと笑って扉の方を見た。
「——いや、1人いたようだな」
「え....?」
もしかして、扉の向こうに誰かいる?
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