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28話
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この世界に来てから早いもので約1か月が経とうとしていた。
1か月も経つと顔見知りもだいぶ増え、リベルの匂いがついているなら護衛もいらないだろう、とたまに1人で出歩いたりもしている。
とは言ってもトレーニングは続けてるので基本はヴィスかローレン、サムたちと一緒にいる事が多い。それにヴィスとリベルはかなり過保護で1人で歩いていると必ずついてきて口うるさく注意される。
心配してくれるのはわかってるのであまり邪険にできないのがネックだ。
護衛有りでマーキング無しの方がよかったのだがそういうわけにもいかないみたいで、それならと頼み込んで狼の姿でやってもらうことにした。
人の姿だとどうしても恥ずかしいものがあり、変に意識してしまう。その点狼の姿なら可愛いが勝るしそこまでエロい雰囲気にならずに済む。
もふもふも堪能できるしね!
「なんか今日は慌ただしいね」
トレーニングからの帰り道、過保護なヴィスがまた部屋まで送るとついて来ている。
「ああ、チヒロが召喚されてからもうすぐ1か月経つだろ」
「うん」
「召喚の間隔がだいたい1か月なんだよ」
「そうなんだ」
と、いうことはまたなにか送られてくるかもしれないのか。
「だから今日から交代で森の中を一日中警戒するんだ」
「えっ!?一日中!?大変だね....」
「それよりも砦内の人が減るからあまり1人で出歩くなよ」
「うん。わかった」
「ヴィス!」
突然後ろからヴィスが呼ばれて、俺も一緒になって振り返ると声の主はリュードだった。
ただ、見たことのないくらい焦った顔をしている。
「どうした」
「リベル団長がヒートだ」
「!?」
「っ!こんな時に...!」
「ああ...。トリス殿にラージュ副団長を召喚してくれるよう頼んでくれ。俺はクーガ副団長に伝えてくる」
「わかった。チヒロ、お前は部屋に戻ってろ」
「俺にもなんかできないっ?」
何一つ状況がわからないなか、部屋に戻っても落ち着かない。
「ないから部屋戻ってろ。いいな?」
きっぱり言われれば従うしかなかった。
「....わかった」
俺が頷くと2人はすごい速さで走って行ってしまい、もう姿が見えない。
大人しく部屋に戻ろうかとも思ったのだがやっぱり気になる。
少しだけ。少しだけ遠回りして部屋に戻ろう。
それで会えなければ大人しく部屋に戻るから。
◇◇◇◇
苦しそうに壁に身体を預けながら歩くリベルを見つけて思わず駆け寄った。
「リベル!」
「っ、チヒロ...!?」
いつもはすぐに気づくのに声をかけるまで気づかなかったようだ。相当余裕がないらしい。
ヒートとはそれほど辛いものなんだろうか。
「大丈夫か!?」
「触るな!」
「っ!」
苛立ちを含んだ声に俺の身体はびくりと跳ねてリベルに触れる前に止まった。
「っ...はぁ...大丈夫だ...。お前は、部屋戻ってろ...」
みんな同じ事を言う。俺はそんなに頼りないだろうか。
「そんなふらふらでどこが大丈夫なんだよっ」
だが、肩を貸そうと再び伸ばした手を、パシンと乾いた音が鳴る程振り払われた。
「なっ...」
痛みよりも驚きの方が先にきた。だって、振り払われるとは思ってなかったから。
後からやってきた痛みで2度も振り払われたような気持ちになる。
「くっ....、早く、戻れ....っ、は....」
こんな息も絶え絶えの状態で置いていけるわけがない。
でも体格的にも体力的にも無理矢理担いで行くのは無理だしどうしよう。それにもう一度手を伸ばしてまた振り払われたらと思うとなかなか手が出せない。
「チヒロ!?」
どうしたもんかと考えているとヴィスの声がした。
「なんでここに...!」
「あ、えっと、ごめん。やっぱり気になって...」
謝りながら振り返るとヴィスの他に見覚えのない女の人もいた。オレンジがかった金色の長い髪に金色の瞳。耳の形と尻尾の斑らからして豹の獣人かな?
白い隊服を着ているので近衛団員だろう。けど女性の団員は初めて見た。もしかしてこの人がラージュ副団長なのだろうか。
「まったく....こんな大事な時にヒートになるなんてね。気合いでなんとかしな」
「はぁ...、無茶を、言うなっ...」
女の人は俺をチラリと見たがなにも言わずにリベルへと近づく。
「だけど今回はようやくレムールへ攻め入るんだろう?」
「え...」
「ラージュ副団長!チヒロの前でその話は!」
「ああ、悪い。人族には内緒だったね」
悪いと思っていないような物言いでリベルへと手を伸ばす。
リベルは振り払ったりせずに大人しく肩を借りていた。
——なんで...。俺の時は振り払ったくせに。
ズキン、と心臓が痛み並んだ2人が絵に描いたような美男美女で、めちゃくちゃお似合いでそれがまた心臓をぎゅっと締め付ける。
「....ヴィス...、はっ...チヒロを、部屋まで...っ、頼む...」
「はい。必ず部屋へ送ります」
こんな時まで俺の心配?なにもさせてくれない、いや、できない自分に腹が立つ。
2人を見ていたくなくてくるりと背を向けた。
1か月も経つと顔見知りもだいぶ増え、リベルの匂いがついているなら護衛もいらないだろう、とたまに1人で出歩いたりもしている。
とは言ってもトレーニングは続けてるので基本はヴィスかローレン、サムたちと一緒にいる事が多い。それにヴィスとリベルはかなり過保護で1人で歩いていると必ずついてきて口うるさく注意される。
心配してくれるのはわかってるのであまり邪険にできないのがネックだ。
護衛有りでマーキング無しの方がよかったのだがそういうわけにもいかないみたいで、それならと頼み込んで狼の姿でやってもらうことにした。
人の姿だとどうしても恥ずかしいものがあり、変に意識してしまう。その点狼の姿なら可愛いが勝るしそこまでエロい雰囲気にならずに済む。
もふもふも堪能できるしね!
「なんか今日は慌ただしいね」
トレーニングからの帰り道、過保護なヴィスがまた部屋まで送るとついて来ている。
「ああ、チヒロが召喚されてからもうすぐ1か月経つだろ」
「うん」
「召喚の間隔がだいたい1か月なんだよ」
「そうなんだ」
と、いうことはまたなにか送られてくるかもしれないのか。
「だから今日から交代で森の中を一日中警戒するんだ」
「えっ!?一日中!?大変だね....」
「それよりも砦内の人が減るからあまり1人で出歩くなよ」
「うん。わかった」
「ヴィス!」
突然後ろからヴィスが呼ばれて、俺も一緒になって振り返ると声の主はリュードだった。
ただ、見たことのないくらい焦った顔をしている。
「どうした」
「リベル団長がヒートだ」
「!?」
「っ!こんな時に...!」
「ああ...。トリス殿にラージュ副団長を召喚してくれるよう頼んでくれ。俺はクーガ副団長に伝えてくる」
「わかった。チヒロ、お前は部屋に戻ってろ」
「俺にもなんかできないっ?」
何一つ状況がわからないなか、部屋に戻っても落ち着かない。
「ないから部屋戻ってろ。いいな?」
きっぱり言われれば従うしかなかった。
「....わかった」
俺が頷くと2人はすごい速さで走って行ってしまい、もう姿が見えない。
大人しく部屋に戻ろうかとも思ったのだがやっぱり気になる。
少しだけ。少しだけ遠回りして部屋に戻ろう。
それで会えなければ大人しく部屋に戻るから。
◇◇◇◇
苦しそうに壁に身体を預けながら歩くリベルを見つけて思わず駆け寄った。
「リベル!」
「っ、チヒロ...!?」
いつもはすぐに気づくのに声をかけるまで気づかなかったようだ。相当余裕がないらしい。
ヒートとはそれほど辛いものなんだろうか。
「大丈夫か!?」
「触るな!」
「っ!」
苛立ちを含んだ声に俺の身体はびくりと跳ねてリベルに触れる前に止まった。
「っ...はぁ...大丈夫だ...。お前は、部屋戻ってろ...」
みんな同じ事を言う。俺はそんなに頼りないだろうか。
「そんなふらふらでどこが大丈夫なんだよっ」
だが、肩を貸そうと再び伸ばした手を、パシンと乾いた音が鳴る程振り払われた。
「なっ...」
痛みよりも驚きの方が先にきた。だって、振り払われるとは思ってなかったから。
後からやってきた痛みで2度も振り払われたような気持ちになる。
「くっ....、早く、戻れ....っ、は....」
こんな息も絶え絶えの状態で置いていけるわけがない。
でも体格的にも体力的にも無理矢理担いで行くのは無理だしどうしよう。それにもう一度手を伸ばしてまた振り払われたらと思うとなかなか手が出せない。
「チヒロ!?」
どうしたもんかと考えているとヴィスの声がした。
「なんでここに...!」
「あ、えっと、ごめん。やっぱり気になって...」
謝りながら振り返るとヴィスの他に見覚えのない女の人もいた。オレンジがかった金色の長い髪に金色の瞳。耳の形と尻尾の斑らからして豹の獣人かな?
白い隊服を着ているので近衛団員だろう。けど女性の団員は初めて見た。もしかしてこの人がラージュ副団長なのだろうか。
「まったく....こんな大事な時にヒートになるなんてね。気合いでなんとかしな」
「はぁ...、無茶を、言うなっ...」
女の人は俺をチラリと見たがなにも言わずにリベルへと近づく。
「だけど今回はようやくレムールへ攻め入るんだろう?」
「え...」
「ラージュ副団長!チヒロの前でその話は!」
「ああ、悪い。人族には内緒だったね」
悪いと思っていないような物言いでリベルへと手を伸ばす。
リベルは振り払ったりせずに大人しく肩を借りていた。
——なんで...。俺の時は振り払ったくせに。
ズキン、と心臓が痛み並んだ2人が絵に描いたような美男美女で、めちゃくちゃお似合いでそれがまた心臓をぎゅっと締め付ける。
「....ヴィス...、はっ...チヒロを、部屋まで...っ、頼む...」
「はい。必ず部屋へ送ります」
こんな時まで俺の心配?なにもさせてくれない、いや、できない自分に腹が立つ。
2人を見ていたくなくてくるりと背を向けた。
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