30 / 67
七天聖と受付嬢
第7話
しおりを挟む次の日の夜、シルヴィアは受付に座り見慣れた景色を眺めていた。既にアクア以外の七天聖4名は、聖騎士と王都の外にある闇ギルド本部へと向かってしまった。アクアはお留守番らしく、二階の部屋で待機している。
シルヴィアの前では、冒険者達が酒を飲んで笑いあったり、力比べなのか軽い殴り合いをして戯れていた。
基本的に、ギルドの職員が冒険者のいざこざを止める事は無い。喧嘩の売り買いは当人達の自由だし、軽い怪我程度なら医務室で絆創膏を貼ってもらえる。
(…椅子、1つ。銅貨5枚)
だがシルヴィアの目の前で酔っ払った冒険者が転び、椅子にぶつかって椅子の脚が折れた。シルヴィアは紙にその冒険者の名前と備品の詳細を記し、側にある箱に入れる。
こういったお金が発生する場合は、喧嘩とは別で酔いが覚めた翌朝、本人に直接請求するのだ。なので冒険者達は、物が壊れない程度に上手くはしゃいでいる。
「シルヴィアちゃん!これから一杯どうだ?」
シルヴィアが記入を終えたところで、年配の男の冒険者がジョッキを片手に酒の席を誘ってきた。顔がだいぶ赤く、かなりの量を飲んでいるのだろう。それにたくさん食べたのか、お腹もだいぶ膨れている。
「私はお酒は飲まないので、遠慮させていただきます。それに今は仕事中ですので」
「そっか、わりぃわりぃ。それにしても、シルヴィアちゃんも少し変わったな」
「変わった?」
シルヴィアは引き出しから鏡を出し、自分の顔や服を見てから首を傾げた。
「特に異常はありませんが…」
「はっはっはっ!そうじゃねぇよ、内の話だ」
「内とは…何の事でしょうか?」
「心とか、気の持ちようだな。ほら、前に酒に誘った時の事覚えてるか?」
シルヴィアは少ない記憶を探り、その時の事をすぐに思い出した。
「はい。今日のように、騒がしい夜でした」
「そん時はさ、シルヴィアちゃん『必要ありません』って氷みたいに冷たく断ったからよ。それに比べりゃ随分変わったもんだ」
「そう、でしょうか…」
言われてもシルヴィアは良く理解出来ず、虚ろな瞳で宙を眺めた。こんなにも騒がしい場に1人、自分だけが冷たく静かな気がする。
そんな彼女を尻目に男は酒を喉に流し込むと、『美味い!』と言って嬉しそうに笑った。
「まぁまた今度付き合ってくれよな!」
「はい。機会があればよろしくお願いします」
会話は終わり、男は近くで飲んでいる仲間の元へと帰っていった。
シルヴィアはその後も作業をしながら言われた事を考え続けたが、結局明確な答えが見つかる事はなかった。
同時刻、王都の壁を出た所にある村の近くで、聖騎士団とギルド関係者は突撃の準備を整えていた。村にはいくつか家があり、その中心に大きな屋敷が見える。ここにあるすべての建物が、闇ギルドの根城となっているのだ。
グレイ達の仕事は狼煙をあげるようなもので、始めに家を少し潰せばその後の事は全て聖騎士団の仕事となっている。そのため、グレイ含む七天聖は最前線に立ち、始まりの合図を待っていた。
「やぁやぁ、悪いね。早く帰って寝たいだろうに」
タバコをの煙をふかして待っていると、陽気な声と共に1人の女性が歩いてきた。女性の背中には身長程ある大剣が納められており、初見だとそんな力があるのかと疑ってしまう。
グレイは短くなったタバコを地面で踏み消し、新しいタバコに火をつけた。
「それが分かってるなら、こんな依頼してくるんじゃねぇよ」
「確かにその通りかも!でもまぁ、やるならド派手にいきたいだろぅ?」
聖騎士団副団長《シズク・ロゼマリン》は戯けたように笑い、グレイの肩をバンバンと叩いた。
「詰まる所、常識知らずで派手な君達に暴れて欲しいわけさ。《成敗!》みたいな感じで」
「俺だけは控えめだけどな」
「え~?私の妹ちゃんも常識人なのに。ってあれ、アクアちゃんどこにいるの?」
「留守番してもらってる。ギルドを無防備にする訳にもいかねぇし、お前とは顔を合わせたくないだろうからな」
「…そっか!」
シズクは一瞬真顔になったが、すぐに満面の笑みになると王都の方を見つめた。その水色の瞳に光はなく、どこか遠くを眺めているようにも思える。
「残念だなぁ…久しぶりに話せると思ったんだけど。まぁあの子の事、よろしく頼むよ」
「わかってるよ。それより、その成敗はいつ始まるんだ?」
「じゃあ私も早く帰りたいし、もう始めますか!」
シズクはそう言って腕をパンッと叩くと、伝令の者に始めるよう伝えた。
「じゃあツカミは頼んだぜ、ギルドマスターくん!」
「はいはい」
グレイはため息をつきながら、他の3人と共に村の方へと歩いて行った。
村に入るなりヘリオスは太刀を抜き、姫はウルフェルの背中に乗ってギュッとしがみ付いた。ネムリは布団に包まったまま寝ており、グレイがロープを繋いで引きずっている。
「それにしても、こんな普通の村を根城にしていたとは!何故騎士達は手を出さなかぅたのだ?」
「ここらの領地を治めてる伯爵だったか…?そいつの息がかかってたらしくて、お偉いさんも手を出せなかったんだと」
「そういう事か!上流階級も腐っているな!」
「お前それ貴族街で言うなよ…?」
ヘリオスは嬉しそうに笑ったが、ウルフェルは影を泳ぎながらヌッと顔を出した。その背中で、姫は頭巾を深く被りビクビク震えている。
『では、あの副団長は上の命を無視して今宵の作戦を実行しているのか?』
「つい先日、伯爵様の違法交易やら闇商売が明るみに出たらしい。それよりその子大丈夫か?失神しそうだぞ」
『案ずるな、姫はこの俺が命に代えても守る』
「怖くない怖くない…!」
「はぁ…なんで連れてー」
「来るずら」
突然ネムリの呟きが辺りに響き、2人と1匹は暗闇に目を凝らした。そして瞬き1つの後に、樹々を跳んで何人かの刺客が姿を現す。
「うむ!闇からの奇襲とは、なかなか良い手を使うな!同じギルドの仲間だったら、俺が直々に鍛えていたぞ!」
ヘリオスは嬉しそうに大きな声を出すと、太刀を宙に向かって軽く一振りした。そこで一瞬空気の流れが止まるが、次の瞬間、空中で大爆発が起き森に風が吹き荒れた。夜なのに辺りが一転して眩しくなり、それが狼煙の代わりとなる。
「…確かにこれは派手だ」
「長殿、俺は東を行くぞ!」
『ならば我は北の影から逃亡者を喰らう』
「…じゃあ私は東の反対で寝てるずら…」
「殺さない程度にな」
「御意!」 『承知』 「ZZzzz…」
全員返事をしながら、グレイの視界から姿を消した。
14
あなたにおすすめの小説
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる