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七天聖と受付嬢
第8話
しおりを挟むお風呂から上がり、シルヴィアは絵本を真剣に読んでいた。先日ルーシーから送られてきたもので、同封されていた手紙には子供らしい字で、『依頼のお礼にあげる!』と書かれていた。
絵本の内容は、ある日人形が人間の姿になり、人として生きていくというものだった。シルヴィアは何となく主人公の人形に自分を重ね合わせていたが、外が真っ暗なのに気づき一階へと降りていった。
一階では、普段冒険者が酒を飲んでいる席で、アクアが1人ポツンと座って書類を眺めていた。
だがシルヴィアの気配に気づくと、少し鋭い目つきで振り返る。
「アクア様、まだ帰らなくてよろしいのですか?」
「グレイさんが帰ってくるまで、私は留守番を任されてるの。あんたには関係なでしょ?」
「関係はあります。いつも私がギルドを閉めているので、アクア様がいらっしゃるとギルドを閉められません」
その言葉に、アクアの眉間のしわが少し深くなり目つきが鋭くなる。
「は?何それ。グレイさんと一緒に住んでますっていう自慢?」
「いえ、そのようなつもりはありません。自慢する点も無いと思います」
「…あっそ。じゃあ今日は私が代わりにやっておくから、あんたはもう寝ていいわよ。グレイさんと少し話したい事もあるし」
「ですが…」
その場から動こうとしないシルヴィアに、アクアは書類を机に叩きつけた。静かなギルドに『バンッ』という音が響く。
「だからいいって言ってるでしょ!邪魔しないで!」
「邪魔、とは何の事でしょうか?」
「~っ!いいからもう戻って!」
「…わかりました」
シルヴィアは目の前の少女が何故怒っているのか見当もつかなかったが、これ以上自分がここに居たら余計怒ると判断し、部屋に戻ろうとした。だがある事を思い出し、戻る前に机の上に薬草の入った瓶を1つ置いた。
「何よ、これ…」
「ゼナンの草です。主に便秘薬として使われています」
「べっ…!あんたって、ほんと…!」
アクアは顔を真っ赤にして瓶を投げ捨てようとしたが、ギルドの方へグレイの魔力が近づいているのを感じた。
シルヴィアにいつくか言いたい事はあったが、その場は瓶を隠しシルヴィアを部屋に押し返した。
「あ、おかえりなさい!」
「ただいま。先に帰ってても良かったのに」
「気にしないでください」
掃討作戦を終えてグレイがギルドに帰ると、座って待っていたアクアが笑顔で出迎えた。
ウルフェルとネムリは家に帰ったが、ヘリオスは依頼書を片手に何処かの大陸へと泳いでいった。本当にあの男の元気は何処から来るのかと思うが、笑って海を蒸発させながら泳ぐ様を見て言うのをやめた。
グレイはアクアの向かいに座り、用意されていた水を飲み干した。
「依頼の方はどうでした?」
「大した事はない。ただ他の3人が、好きなように暴れただけだからね」
「やっぱり…。あの人達も、少しギルドの一員としての自覚を持って欲しいですよね!ましてや七天聖なのに」
「…そうだな」
まだ16の少女が、大人っぽい事を言おうとしているのに頰が緩みそうになるが、グレイは水を飲んでそれを隠した。これでも最年少で七天聖になり、サブギルドマスターを務めている子でもある。それは別に彼女の家柄など関係なく、贔屓目なしの実力が故だ。
『まぁあの子の事、よろしく頼むよ』
ふと少女の姉が言っていた事を思い出し、グレイはコップの水を眺めて固まった。
アクアと出会ってから数年が経つが、グレイは彼女が他の誰かと一緒にいるのを見た事がない。もちろん、彼女が通常業務などで忙しいのも知っているが、それでもいつも1人な気がしている。
「アーちゃん」
「何ですか?ってだから私はー」
「アーちゃんってさ、友達とかいる?」
アクアは一瞬ビクッとなり、目を泳がせた。グレイはその様子だけでなんとなく答えを察した。
「そ、それは、えっと…1人や、2人くらいは…?」
「そういえば、明日から1週間休みだよね?」
「え?そうですけど…」
グレイはそれを聞いて、受付の後ろにある棚からファイルを1冊取り出した。そして中にあった依頼書を1枚抜き取ると、キョトンとする彼女に手渡す。
「じゃあ旅行も兼ねて、この依頼に行ってきてくれるかな?」
「私が?!依頼内容は…」
「西にあるドワーフの大陸だよ。この前大規模災害があったらしくて、今は復興の最中らしい。そのお手伝いを知り合いに頼まれててね」
「でも、それって私じゃなくてもいいんじゃないですか?」
「水魔法が得意な人に来て欲しいんだってさ。旅費も全部経費で落とせるから、どうかな?」
「でも…」
渋るアクアを見て、グレイは前にユキノから聞いた事を思い出した。確か彼女はー
「アクア、頼むよ。君にしか頼めないんだ」
「えっ?!…しょうがないですね、私が行ってきますよ!」
ユキノ曰く、『グレイさんが目を見てイケボで懇願すれば、アクアさんは大抵の事はしてくれると思いますわ』との事らしい。
グレイは秘書の的確な(?)アドバイスに内心驚きながらも、頼みを聞いてくれて一安心した。
「あ、それと同伴者が1人いるからその人にもよろしく」
「誰ですかそれ?」
「まぁ…お楽しみって事で。出来るだけ仲良くしてくれると助かるよ」
「…?わかりました」
グレイは鼻歌を歌うアクアを見送り、その同伴者のいる部屋へと向かった。
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