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七天聖と受付嬢
第6話
しおりを挟むギルド内に爆音と風が吹き荒れ、ユキノは驚いてグレイの後ろに隠れた。それから数秒してそっと二階の方に視線を送れば、ヘリオスは抜いていない太刀をシルヴィアの首元に、ウルフェルは彼女の陰から上半身を出して噛みつこうととしていた。
だがシルヴィアはティースプーンで首元の鞘を受け止め、ブーツの底でウルフェルの牙を押し返していた。
今日のシルヴィアは、グレイを起こして朝食を済ませた後、部屋の窓辺で本を読み続けていた。朝からギルドの外が騒がしいが、気にせず本のページをめくっていく。
だが今週貰った本は昼前には読み終えてしまい、手持ち無沙汰になったシルヴィアは部屋を見渡した。これといって趣味もない彼女の部屋は、ベッドと空っぽの棚しかない。
シルヴィアは自分の無趣味さに小さくため息をついたが、ベッドのサイドテーブルにティーセットが置いてあるのが目に入った。昨晩寝る前に飲んだもので、瓶には紅茶のパックもまだ余っている。
(たまには紅茶でも…)
いつもコーヒーを飲んで顔をしかめているグレイを想像し、シルヴィアは余っていたパックを全て使って紅茶を淹れた。
そして数個のカップをトレーに乗せ、一階に持っていく。なんだか変わった魔力を数人分感じるが、気にせず歩いているとその魔力のうち2つが近づいたのを感じた。
シルヴィアはトレーを背後に起き、スプーンを取って首元に迫る鞘にそっと添えた。そして同時に下の影から出てくる狼に、靴底を鼻に当てて動きを遮る。その動作はまるで、それをするのは初めてじゃないかのようだった。
本気ではないといえ、剣を受け止められたヘリオスは嬉しそうに笑った。
「長殿、やはり俺の目に狂いは無かったようだな!」
『この内に眠る魔力…我らにも引けをとらないぞ。この女は何者だ?』
2人はそう言って下にいるグレイに視線を向けたが、グレイは震えるような殺気を2人に放っていた。実際、アクアや姫は涙目になっている。
「…今すぐシルヴィアから離れろ。土に還すぞ?」
「うむ、悪かった!ただ実力を見たかったんだ!」
2人は一瞬で席に戻り、シルヴィアは何事もなかったかのように紅茶を机に並べた。
「この茶も美味いな!長殿、彼女は本当に受付嬢なのか?」
「…制服着てるずら…」
『上手に隠しているが体の奥…いや、腕と脚か?莫大な魔力が垣間見える』
全員の視線がシルヴィアに集中したが、彼女は何も言わず見慣れた無表情を保っている。
紅茶を飲んだグレイは、小さくため息をついて代わりに口を開いた。
「彼女は受付嬢のシルヴィアだ。一応冒険者でもあるが、ランクは上から4番目のC。ヘリオスは木天聖にしたいらしいが、ランクの都合上無理だな」
「だが、彼女は俺たちと互角とも言える実力を持っているように見える!数年空いた木天聖を埋めるには、ちょうど良いではないか!」
「…まぁ他にも色々理由があるんだ。頼むから今日は、この話は無かったことにしてくれ」
グレイはそう言って全員に頭を下げた。ギルドの長がするその行動に全員何も言えなくなるが、ヘリオスは鼓膜が破れそうな高笑いをした。
「長殿にそこまでされたら、引き下がるしかないな!シルヴィア殿、Sランクになったらその時は頼んだぞ!」
「了解しました」
その会話でその日に集会は終わり、少ない人数にも関わらず派手な宴が始まった。
酒で温まった身体を夜風で冷ますように、グレイは1人夜道を歩いていた。そこらの女性店員などが甘い声で囁いてくるが、適当にあしらって商店街を進んでいく。
そして目当ての店に着いた所で、ノックもせずに扉を開いた。相変わらずカーテンが閉められ中は真っ暗だったが、カウンターの方は魔石ランプの明かりが灯されている。
「あら、泥棒さんかしら」
「だったら今すぐにでも閉店しときな。どうせ客も来てないんだろ?」
グレイはそう言いながら、薄暗い店内を眺めた。棚や床には埃がたまり、もう長い間客が来ていない事を伺わせる。
皮肉を言われたヴィオラは特に怒ったりはせず、煙管の煙をふかしながら妖艶に笑った。
「そんな事ないわよ?この前は、あなたの所の可愛い受付嬢ちゃんが来てくれたんだから」
「そうだったな」
グレイはカウンターの向かいにある椅子に腰掛け、自身もたばこに火をつけた。
「ねぇ知ってる?このお店、禁煙なんだけど」
「は…?お前、自分が今口に何咥えてるか分かって言ってる?」
「私は店主だからいいのよ。早く消さないと……どうしようかしら」
「そういうのは考えてから言えよ…」
呆れながらも律儀に火を消す彼を見て、ヴィオラは頬が緩むのを感じた。
「それより、今日はなんでここに来たの?デートのお誘い?」
「んなわけあるか。この前、珍しく来た客の代金を渡しに来ただけだ」
グレイは懐から魔義眼の代金が入った袋を出し、カウンターの上に置いた。ヴィオラは一瞬だけ袋に視線を向けたが、手をつけようとしない。
「どうした?足りなかったか?」
「むしろ多いくらいよ。それより、1つ聞いてもいいかしら?」
「何だ?」
「あの娘は…あなたの何?」
その質問に、グレイは一瞬目を見開いたがすぐにいつもの気怠げな顔つきに戻る。
「それを聞いてお前はどうする?」
「どうもしないわ。ただ、あと3年で三十路を迎える女が、ここで愛しい男を待ってますよって事を言いたいだけ」
妖しい笑みのせいで真偽がわからないが、ヴィオラは煙をグレイにそっと吹きかけた。その煙を顔に受け、グレイはゲホゲホと咳き込む。
「何、すんだよ…」
「ふふっ、私の香りを覚えてくれたかしら?」
「そんな事しなくても、お前の事を忘れるわけねぇだろ」
何気なく放たれた言葉に、ヴィオラはハッとなり頬が赤く染まった。昼間だったらバレていたかもしれないが、夜で良かったと1人安堵する。
「そ、それよりさっきの質問の答えは?」
少し顔を俯かせるヴィオラの向かいで、グレイはボーっと天井を眺めた。表情が確認できないが、何となく少し悲しそうなのはわかる。
「あいつは…」
『ねぇ見てグレイ、これで私も木天聖だよ!お揃いだね!』
『見ればわかるよ。それより、二日酔いで頭に響くから声量をー』
『改めるなら何がいいかな?木の聖?そのまんますぎるかな…』
『人の話聞いてる?俺今めちゃくちゃ頭がー』
『あ、決めた!じゃあ今日から私はー』
「ただの…パーティーメンバーだよ」
いつもと変わらないその声は、とても寂しく、今にも泣き出したくなるような声だった。
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