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2.モテ男のとなり
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眞田理央という男は、モテ要素をこれでもかと持っている――ただし、それが完全に開花したのは大学に入ってからだ。
同郷から同じ大学へ進学した俺たちは、二年次に入っても行動を共にすることが多かった。それでも高校の頃のように二人きりということは減り、バランスの取れた体格の理央は目立つようで、自主的に動かずとも周りに人が集まってきた。
花のような、といった甘い顔貌ではないけれど、黒髪と白い肌が整然として、一見した印象は「お高そう」といった顔立ちだった。
明らかに安物ではない腕時計や靴を普段使いにし、成績も悪くない。聴講中にノートを取ることさえほとんどしないのに、むしろ良い。
そんな理央にかかる誘いは多く、意外にもそれを柔軟に受け入れる。ただし、原則として俺を巻き込む。
「今日、何にする?」
夏の長期休み前の時期でも、空調の効いた講堂は涼しい。
午前の講義が終わったざわつきの中で、理央が隣の席に声をかける。話題は昼食のメニューについてだ。
「マーボー丼」
構内にあるカフェ風食堂の一番安いメニューを言う。
「また、それか。たまには豆腐じゃなくて、肉も食えよ?」
言いながら歩き出す理央を呼び止める声。
「さーなーだぁ、食堂だろ? 行こうぜ」
同じ講義を受けていた同期が集まってきて、そのうちの一人が理央の肩に腕を回し前へ押し出した。
出会ったころの理央が、現在の完成形だったら、正直今ほどにつるめていたとは思えない。そう思うことも珍しくはなかったので、理央に近寄ってこようとする奴らには素直に感心した。見習いたい気持ちもある。が、横にいる俺に邪魔と言わんばかりの視線を投げてくるのは、イヤなやつらだなとも思う。
高校時代から、理央は一人暮らしをしていた。
たまたま理央と立ち話していたときに通りかかった俺の母親が、痩せた姿に「栄養が足りないんじゃないか」と夕飯に招くようになって――。
高校を卒業するころには、理央は一端の男を感じさせる変化を遂げていた。母親からも「どうして同じものを食べているはずなのに、うちの子は理央君のように成長しないのかしら」と残念そうに言われ、「遺伝子の差だよ」とぶうたれたこともあった。
今こうして、人気者の理央とつるむことで方々に顔を覚えられたり声をかけられたり――恩恵と言えるなら、半分ぐらいは母親の餌付けのおかげだ。
「朔」
人垣の向こうから理央が手招きする。
「何にする?」
「だからマーボー丼」
「頑固か。俺、カツカレーにするから、カツ、食べる?」
「なんでだよ」
「唐揚げの方がよければ、唐揚げ定食にするけど」
「唐揚げ定食から唐揚げ取ったら、キャベツしか残らないじゃん。ってか、券売機の前であんま悩むな、後ろが詰まる」
少し急かせば、カツカレーに決めたらしい。チケットを取り出しながら、
「今日の夕飯どうする?」
「昼飯喰いながら夕飯の話? まあ、なんか適当に自炊」
「うちに来いよ。夕飯食べたあと、レポート一緒にやろうぜ」
相変わらずの他愛のない応酬をしながら、空いている席に横並びで座る。
「え、理央。たまには俺たちとも遊ぼうよ。高木君? とばかりつるんでないさ。高木君は、午後の講義あるん?」
向かいの席に座った男が口を挟む。
「俺も朔も午後の講義あるから。後期も朔と取ってる単位、全部同じだし」
「え、マジで? ちょっと仲良すぎてキモい」
爆笑が起こる。向いの席だけでなく理央を挟んだ反対隣の男女からも、クスクスと笑い声が上がった。
「ってか、俺らも理央んち、行ってみたいんだけど!」
「呼ばない。部屋に入れるのは、よほど親しい奴か身内ぐらいだし」
淡々と答えた理央の硬質な声に、浮わついた空気が少し冷える。以前の理央なら、もっと穏やかに対応していた。
「ちょっ。冷たすぎない? だってさー、気になるじゃん、どんなとこに住んでんのか。大企業の御曹司だとかって噂もあるしさ。マジな話なら、就職のコネとか頼みたいわ」
果敢に、鈍感を装って場の空気を和ませようとしたソイツの勇気は尊敬に値する。
「デマだな。大体もし仮に本当だとしても、そういうのは受け付けないよ、面倒くさい」
台詞の選択が微妙なせいか、”御曹司なのは本当なんだ?!”的な、どっちつかずの空気が流れた。
否定するなら、もっと積極的に否定しとかないと不味くないか。
「朔は、でも別枠」
心配する俺に、にんまりと理央が笑った。
「俺、めっちゃ朔のこと好きだからね。もうちょい気軽に利用してよ。俺、結構イイ金蔓だよ」
わざとらしい台詞。
最近の理央は、他者や物事に対する好悪の感情を顕示することを厭わなくなった。そのこと自体を悪いことだとは思わないけど。
「俺も愛してるよ、理央のこと。ゾッコンダカラー」
多分、理央はちょっと怒ってる、俺を疎外しようとする奴らに対して。ありがたいと思う気持ちはあるが、空気と視線が少し痛い。
笑ってやり過ごせる程度ではあるけれど、確実に、俺だけが余分だという圧だった。
それでも午後からの誘いを「講義があるから」と断った理央に、今度は別のグループから夕方のコンパの声がかかった。
当然のように、理央に襟首を引っ掴まれた俺もそのまま巻き添えだ。
これが俺の、当たり前だった。
同郷から同じ大学へ進学した俺たちは、二年次に入っても行動を共にすることが多かった。それでも高校の頃のように二人きりということは減り、バランスの取れた体格の理央は目立つようで、自主的に動かずとも周りに人が集まってきた。
花のような、といった甘い顔貌ではないけれど、黒髪と白い肌が整然として、一見した印象は「お高そう」といった顔立ちだった。
明らかに安物ではない腕時計や靴を普段使いにし、成績も悪くない。聴講中にノートを取ることさえほとんどしないのに、むしろ良い。
そんな理央にかかる誘いは多く、意外にもそれを柔軟に受け入れる。ただし、原則として俺を巻き込む。
「今日、何にする?」
夏の長期休み前の時期でも、空調の効いた講堂は涼しい。
午前の講義が終わったざわつきの中で、理央が隣の席に声をかける。話題は昼食のメニューについてだ。
「マーボー丼」
構内にあるカフェ風食堂の一番安いメニューを言う。
「また、それか。たまには豆腐じゃなくて、肉も食えよ?」
言いながら歩き出す理央を呼び止める声。
「さーなーだぁ、食堂だろ? 行こうぜ」
同じ講義を受けていた同期が集まってきて、そのうちの一人が理央の肩に腕を回し前へ押し出した。
出会ったころの理央が、現在の完成形だったら、正直今ほどにつるめていたとは思えない。そう思うことも珍しくはなかったので、理央に近寄ってこようとする奴らには素直に感心した。見習いたい気持ちもある。が、横にいる俺に邪魔と言わんばかりの視線を投げてくるのは、イヤなやつらだなとも思う。
高校時代から、理央は一人暮らしをしていた。
たまたま理央と立ち話していたときに通りかかった俺の母親が、痩せた姿に「栄養が足りないんじゃないか」と夕飯に招くようになって――。
高校を卒業するころには、理央は一端の男を感じさせる変化を遂げていた。母親からも「どうして同じものを食べているはずなのに、うちの子は理央君のように成長しないのかしら」と残念そうに言われ、「遺伝子の差だよ」とぶうたれたこともあった。
今こうして、人気者の理央とつるむことで方々に顔を覚えられたり声をかけられたり――恩恵と言えるなら、半分ぐらいは母親の餌付けのおかげだ。
「朔」
人垣の向こうから理央が手招きする。
「何にする?」
「だからマーボー丼」
「頑固か。俺、カツカレーにするから、カツ、食べる?」
「なんでだよ」
「唐揚げの方がよければ、唐揚げ定食にするけど」
「唐揚げ定食から唐揚げ取ったら、キャベツしか残らないじゃん。ってか、券売機の前であんま悩むな、後ろが詰まる」
少し急かせば、カツカレーに決めたらしい。チケットを取り出しながら、
「今日の夕飯どうする?」
「昼飯喰いながら夕飯の話? まあ、なんか適当に自炊」
「うちに来いよ。夕飯食べたあと、レポート一緒にやろうぜ」
相変わらずの他愛のない応酬をしながら、空いている席に横並びで座る。
「え、理央。たまには俺たちとも遊ぼうよ。高木君? とばかりつるんでないさ。高木君は、午後の講義あるん?」
向かいの席に座った男が口を挟む。
「俺も朔も午後の講義あるから。後期も朔と取ってる単位、全部同じだし」
「え、マジで? ちょっと仲良すぎてキモい」
爆笑が起こる。向いの席だけでなく理央を挟んだ反対隣の男女からも、クスクスと笑い声が上がった。
「ってか、俺らも理央んち、行ってみたいんだけど!」
「呼ばない。部屋に入れるのは、よほど親しい奴か身内ぐらいだし」
淡々と答えた理央の硬質な声に、浮わついた空気が少し冷える。以前の理央なら、もっと穏やかに対応していた。
「ちょっ。冷たすぎない? だってさー、気になるじゃん、どんなとこに住んでんのか。大企業の御曹司だとかって噂もあるしさ。マジな話なら、就職のコネとか頼みたいわ」
果敢に、鈍感を装って場の空気を和ませようとしたソイツの勇気は尊敬に値する。
「デマだな。大体もし仮に本当だとしても、そういうのは受け付けないよ、面倒くさい」
台詞の選択が微妙なせいか、”御曹司なのは本当なんだ?!”的な、どっちつかずの空気が流れた。
否定するなら、もっと積極的に否定しとかないと不味くないか。
「朔は、でも別枠」
心配する俺に、にんまりと理央が笑った。
「俺、めっちゃ朔のこと好きだからね。もうちょい気軽に利用してよ。俺、結構イイ金蔓だよ」
わざとらしい台詞。
最近の理央は、他者や物事に対する好悪の感情を顕示することを厭わなくなった。そのこと自体を悪いことだとは思わないけど。
「俺も愛してるよ、理央のこと。ゾッコンダカラー」
多分、理央はちょっと怒ってる、俺を疎外しようとする奴らに対して。ありがたいと思う気持ちはあるが、空気と視線が少し痛い。
笑ってやり過ごせる程度ではあるけれど、確実に、俺だけが余分だという圧だった。
それでも午後からの誘いを「講義があるから」と断った理央に、今度は別のグループから夕方のコンパの声がかかった。
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これが俺の、当たり前だった。
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