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第一章・望まない形で
3・有り得ない人物
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黒髪に碧眼、そしていつか見たような端正な横顔。こ、この人はもしかして…義弟?
スチワート・ロウレンはエズラの実弟。私達が結婚していた二年間の間に、一度だけ会ったことがある。由緒あるロウレン侯爵家の次男で、この帝国にとって有益な人物。一度だけ会ったというのはエズラとの結婚式の時。それを最後に顔を合わせることはなかった。スチワートには不思議な能力があり、普段は帝国の重要機関に所属している。
『錬金術師』と呼ばれるほんの一握りの人達は国によって保護され、普段は共同生活を送っている。何不自由なく暮らせるようだけど、管理されているという見方もある。そこで生活に便利な道具を作ったり、表立っては言えないような物を生み出したりすると、まことしやかに囁かれている。能力が見つかり幼くしてロウレン家を離れていた為に、兄のエズラでさえも一年に一度程度しか会うことが出来ないと聞いた。そして義理とはいえ家族の私でも、何をやっているのか…普段どうして過ごしているのかも知らされずに。そんな人が…何故ここに?
「す、すみません!受け止めていただいてありがとうございます。お助けいただいて恐縮ですが、急ぎますのでこれで…」
今度は私がしどろもどろになる番。今の時点では私など知らないスチワートに、無難な言葉を掛けて早くここから去ろうとする。助けてもらって申し訳ないと思うけど、関わり合いになりたくないというのが本音だから。
「失礼します…」
そう蚊の鳴くような声を出して、一歩二歩と踏み出した。すると後ろから…
「あの…落し物ですよ?」
これまで知らなかったけど、兄のエズラと似た声で心が跳ねる!それとはほん少しだけ高い声。兄弟だから当たり前だと無理矢理心を落ち付け振り向いた。見ると…その美しい瞳に一瞬で囚われる。
エズラとは少し違う鮮やかな瞳。今空に広がる青空のように…黒い髪は同じだけど、二人はこんなに違っていたのね。一度しか会ってなかったとはいえ、二年もロウレン家の人間だったのにまるで知らなかったことに申し訳なく思う。
「あの…ご令嬢、こちらを落とされましたよ。あなたの物ですよね?」
その手を見ると、見覚えのあるブローチが!それからある筈だった自分の胸元を確認すると…ない!落とした?
「あ、ありがとうございます!これ、母の形見で…」
一転泣き出しそうになっている私の手のひらに、そっとブローチを置いてくれるスチワート。必要以上に触れないように気遣いながら…
母の髪と同じ色合いのパパラチアサファイアを花びらに見立てて、精巧に蘭の花を模したブローチ。今私に残っている母の形見はこれだけ…だからとっても大切にしていた。
「ああ、良かった…無くさずに済んで」
心からそう言って頭を下げる。すると…
「それなら良かったです。どうぞこれからはお気を付け下さいね」
想像以上の優しい声に驚く。失礼だけとそんな特殊な人だから変わっているのだと思い込んでいた。なのに?
駄目だと思いながらもその顔を見上げる。すると初めて目が合う。吸い込まれそうな碧い瞳…そしてエズラよりは幾分線の細い輪郭。だけどスッとした端正な顔立ちは、明らかにロウレン侯爵家のもの。だけどまるで違うのは優しい笑顔…あの人もこんなふうに笑う人だったのかしら?私には一切見せてはくれなかったけど…
「わ、分かりました。何度もお助けいただいてありがとうございます。失礼でなかったら何かお礼を…」
流石に何もなかったように去って行く訳にはいかないと、お礼をすることを提案する。早く帰りたい気持ちが大きいけど、そのまま別れては余りにも礼儀知らずだと思う。すると…
「いえ、大丈夫です。それよりも今、お急ぎなんでしょう?」
「えっ…でも」
礼をやんわりと断られ、それで咄嗟に鞄の中を探る。お金を渡しては失礼なのは分かっているけど、そうなるとそれしか考えが浮かばない。どうしよう?それこそ失礼かしら。そんなことを考え倦ねていると…
「おーい、スチワート」
息が止まりそうになる!その声を聞いて。これこそ聞き間違えることのない声。エ、エズラ…あの人なの?
そういえばあの時…エズラが引ったくり犯人を捕まえた時、もしかしてスチワートも一緒にいたのかも?なかなか会えないといっても二人は兄弟…知らなかっただけで、そうだったとしても不思議ではないから。失敗したわ…やはり早く帰るべきだった!それで咄嗟に…
「すみません、スチワート様…お礼はこの次に。急ぎますのでこれで!」
私はその場から駆け出した。名前を名乗り合ってもいないのに、言ってしまったことにも気付かずに。貴族家の令嬢とは思えないほど精一杯走る。本当は後ろを振り向きたい!ひと目だけでも…全てを諦めた私なのに、何故だかそんな思いに駆られる。
「どうした?スチワート。あのご令嬢は」
「ああ、兄さん!それが…」
困惑した様子の二人のやり取りが背中越しに聞こえる。愚かにも後ろ髪を引かれた私は、絶対に駄目だと自分に言い聞かせながら走り続ける。やがて声も聞こえなくなり、ノートン家の馬車が見えて来たことでやっとホッとする。
「私一人で先に帰ることになったの。三人は後で一緒に帰るわ」
御者にそう伝えて馬車に乗り込んだ。そして静かに馬車は動き始め、そして大通りに出た。先程までいたブティックが遠くに見え始めた時、車窓に映る景色に目を疑う。
三人が店から出て来て、その建物の死角には怪しい男。その男の格好には見覚えがあった…引ったくりの犯人?
父一人が馬車止めの方に歩いて行き、私がいないことで今回は兄とシンシアが店の前に立っている。それを目掛けて助走を付けながら近付く男。すると…シンシアの持っている鞄が引ったくられた!
「あっ…」
思わずそんな声が出てしまう。すると丁度そこに現れたのは先程別れたエズラとスチワートの兄弟。前と同じくあっという間に犯人を倒し、取り返した鞄をシンシアの元に持って行く。そして微笑み合う二人が…
──待って!これって…
同じ場面だけど同じじゃない。そしてどうしてか大きな違和感を感じる。
──微笑み合う二人?これは前もあったような気がする。鞄を取られたのは私だったけど、受け取ったのは前もシンシアだったわ。
私はあの時、突然のことに動揺していて、おまけに勇敢なエズラに一目惚れしてしまっていた。だから…何を見ていた?
馬車はそんな二人の前を通り過ぎ、どんどん遠ざかって行く。胸に芽生えた疑惑はどんどん私の中で大きくなっていくのに…
エズラが見初めたと言ったのは、本当に私だったのだろうか?もしもそれが、シンシアだったなら…
「それが私の、不幸の始まりだったということ?まさか…」
スチワート・ロウレンはエズラの実弟。私達が結婚していた二年間の間に、一度だけ会ったことがある。由緒あるロウレン侯爵家の次男で、この帝国にとって有益な人物。一度だけ会ったというのはエズラとの結婚式の時。それを最後に顔を合わせることはなかった。スチワートには不思議な能力があり、普段は帝国の重要機関に所属している。
『錬金術師』と呼ばれるほんの一握りの人達は国によって保護され、普段は共同生活を送っている。何不自由なく暮らせるようだけど、管理されているという見方もある。そこで生活に便利な道具を作ったり、表立っては言えないような物を生み出したりすると、まことしやかに囁かれている。能力が見つかり幼くしてロウレン家を離れていた為に、兄のエズラでさえも一年に一度程度しか会うことが出来ないと聞いた。そして義理とはいえ家族の私でも、何をやっているのか…普段どうして過ごしているのかも知らされずに。そんな人が…何故ここに?
「す、すみません!受け止めていただいてありがとうございます。お助けいただいて恐縮ですが、急ぎますのでこれで…」
今度は私がしどろもどろになる番。今の時点では私など知らないスチワートに、無難な言葉を掛けて早くここから去ろうとする。助けてもらって申し訳ないと思うけど、関わり合いになりたくないというのが本音だから。
「失礼します…」
そう蚊の鳴くような声を出して、一歩二歩と踏み出した。すると後ろから…
「あの…落し物ですよ?」
これまで知らなかったけど、兄のエズラと似た声で心が跳ねる!それとはほん少しだけ高い声。兄弟だから当たり前だと無理矢理心を落ち付け振り向いた。見ると…その美しい瞳に一瞬で囚われる。
エズラとは少し違う鮮やかな瞳。今空に広がる青空のように…黒い髪は同じだけど、二人はこんなに違っていたのね。一度しか会ってなかったとはいえ、二年もロウレン家の人間だったのにまるで知らなかったことに申し訳なく思う。
「あの…ご令嬢、こちらを落とされましたよ。あなたの物ですよね?」
その手を見ると、見覚えのあるブローチが!それからある筈だった自分の胸元を確認すると…ない!落とした?
「あ、ありがとうございます!これ、母の形見で…」
一転泣き出しそうになっている私の手のひらに、そっとブローチを置いてくれるスチワート。必要以上に触れないように気遣いながら…
母の髪と同じ色合いのパパラチアサファイアを花びらに見立てて、精巧に蘭の花を模したブローチ。今私に残っている母の形見はこれだけ…だからとっても大切にしていた。
「ああ、良かった…無くさずに済んで」
心からそう言って頭を下げる。すると…
「それなら良かったです。どうぞこれからはお気を付け下さいね」
想像以上の優しい声に驚く。失礼だけとそんな特殊な人だから変わっているのだと思い込んでいた。なのに?
駄目だと思いながらもその顔を見上げる。すると初めて目が合う。吸い込まれそうな碧い瞳…そしてエズラよりは幾分線の細い輪郭。だけどスッとした端正な顔立ちは、明らかにロウレン侯爵家のもの。だけどまるで違うのは優しい笑顔…あの人もこんなふうに笑う人だったのかしら?私には一切見せてはくれなかったけど…
「わ、分かりました。何度もお助けいただいてありがとうございます。失礼でなかったら何かお礼を…」
流石に何もなかったように去って行く訳にはいかないと、お礼をすることを提案する。早く帰りたい気持ちが大きいけど、そのまま別れては余りにも礼儀知らずだと思う。すると…
「いえ、大丈夫です。それよりも今、お急ぎなんでしょう?」
「えっ…でも」
礼をやんわりと断られ、それで咄嗟に鞄の中を探る。お金を渡しては失礼なのは分かっているけど、そうなるとそれしか考えが浮かばない。どうしよう?それこそ失礼かしら。そんなことを考え倦ねていると…
「おーい、スチワート」
息が止まりそうになる!その声を聞いて。これこそ聞き間違えることのない声。エ、エズラ…あの人なの?
そういえばあの時…エズラが引ったくり犯人を捕まえた時、もしかしてスチワートも一緒にいたのかも?なかなか会えないといっても二人は兄弟…知らなかっただけで、そうだったとしても不思議ではないから。失敗したわ…やはり早く帰るべきだった!それで咄嗟に…
「すみません、スチワート様…お礼はこの次に。急ぎますのでこれで!」
私はその場から駆け出した。名前を名乗り合ってもいないのに、言ってしまったことにも気付かずに。貴族家の令嬢とは思えないほど精一杯走る。本当は後ろを振り向きたい!ひと目だけでも…全てを諦めた私なのに、何故だかそんな思いに駆られる。
「どうした?スチワート。あのご令嬢は」
「ああ、兄さん!それが…」
困惑した様子の二人のやり取りが背中越しに聞こえる。愚かにも後ろ髪を引かれた私は、絶対に駄目だと自分に言い聞かせながら走り続ける。やがて声も聞こえなくなり、ノートン家の馬車が見えて来たことでやっとホッとする。
「私一人で先に帰ることになったの。三人は後で一緒に帰るわ」
御者にそう伝えて馬車に乗り込んだ。そして静かに馬車は動き始め、そして大通りに出た。先程までいたブティックが遠くに見え始めた時、車窓に映る景色に目を疑う。
三人が店から出て来て、その建物の死角には怪しい男。その男の格好には見覚えがあった…引ったくりの犯人?
父一人が馬車止めの方に歩いて行き、私がいないことで今回は兄とシンシアが店の前に立っている。それを目掛けて助走を付けながら近付く男。すると…シンシアの持っている鞄が引ったくられた!
「あっ…」
思わずそんな声が出てしまう。すると丁度そこに現れたのは先程別れたエズラとスチワートの兄弟。前と同じくあっという間に犯人を倒し、取り返した鞄をシンシアの元に持って行く。そして微笑み合う二人が…
──待って!これって…
同じ場面だけど同じじゃない。そしてどうしてか大きな違和感を感じる。
──微笑み合う二人?これは前もあったような気がする。鞄を取られたのは私だったけど、受け取ったのは前もシンシアだったわ。
私はあの時、突然のことに動揺していて、おまけに勇敢なエズラに一目惚れしてしまっていた。だから…何を見ていた?
馬車はそんな二人の前を通り過ぎ、どんどん遠ざかって行く。胸に芽生えた疑惑はどんどん私の中で大きくなっていくのに…
エズラが見初めたと言ったのは、本当に私だったのだろうか?もしもそれが、シンシアだったなら…
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