私が一人で死んだ夜。だからあなたを、捨てることにしますね?

MEIKO

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第一章・望まない形で

6・ノートン家の女主人

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 私が本来受けるべき正当な権利。これまでの私は、それを放棄してきたに近い。使用人達にも馬鹿にされている自分を恥じて、また自分がそれを務められるとも思えずにいた。
 だけど…今の私は図らずも、二年間ロウレン侯爵家の夫人として家門を采配してきたという自負がある。だからきっと大丈夫…私の権利を取り戻させてもらうことにします。

 「これより私は当然の権利として、ノートン伯爵家の女主人としての地位を要求させていただきます。ですから今後、屋敷内の全てのことを私を通してから決めていきます。そしてこれは例外は認めません…だから使用人のみなさんもそのつもりで」

 毅然として主張する私に、この場は騒然とする。まさかと驚く使用人達は一様に困惑し、そしてこれまでの己の行動により顔色が悪くなる者も現れる。そしてもちろんこの二人も…

 「な、何を言ってる?そんなの認められる訳ないだろうが!どんな権利がお前にあるって言うんだ」

 「そうです、お姉様。そんなのは無謀ではないですか。失礼ですがお姉様には荷が重いと思いますよ?」

 そんな反応は想定済み。二人は思った通りの言動を取り、そしてお父様だけは相変わらず何を考えているのか黙ったままでいる。きっと私が何を言わんとしているのかを知っているからね…

 「権利もない?おまけに荷が重いって…いいえ!私には国に認められた正当な権利があるわ。何故ならノートン家の女主人だったお母様が亡くなり、長い間その座は空席だった。だけど…デビュタントはまだとはいえ私は既に十九。だからとっくにこの家を任されるという権利があるの。これまではそれを、うやむやにしていただけ。これを機にそのことをハッキリさせます」

 私は確固たる態度でそう言い放った。そしてこれはきっと、お父様だってご存知なこと。これまで言って来なかったのが不思議なくらい。きっと私では、任せるのは難しいと思っていたに違いない。そんなお父様はどうでる?認めてくれるのか、それとも…

 「それならシンシアだって出来るんじゃないか?お前にその権利があるのなら、シンシアにだってある筈だ。だからお前が勝手に決めることじゃない!」

 驚くことに、更にお兄様は食い下がってくる。どれだけ私のことを嫌いなの?そんなに嫌われることをしたのかしら…
 そんなことで少し物悲しくなったけれど、これで引き下がるくらいなら、始めからこんなことをやったりなんかしない!

 「お兄様は、どれだけ愚かなのですか?シンシアは養女…元は男爵家の娘です。いくら伯爵家の養女となっても、そんな権利は認められやしません。この帝国では生まれた時の身分が重要視されます。だからシンシアには多少恩恵はあっても、あくまで国に認められている身分は男爵令嬢なのです。だから努々、そんなことを口に出さないようになさって下さい。馬鹿にされますよ?」

 「な、何だと!?」

 このことには本当に呆れる。それと同時にどこまでシンシアが可愛いのだろうとも思う。このほんの少しでも私に向けてくれていたら…捨てようとまでは思っていなかったわね。

 「そんな言い方、酷いわ!お姉様は結局、私を妹だと認めてはくださっていないのね?私を差別するだなんて…」

 私は事実を言っただけ。そしてシンシアはいつもの柔和な顔を引っ込め、口元を歪ませ頬に貼り付けている。そんな表情を見るのは、恐らく初めて…私の戦利品とも言える。これまでどんな理不尽なことで陥れられても、黙って我慢してきた。それには理由があった…お父様とお兄様がシンシアの悪い面を知ることで、今度こそ立ち直れないほどの心に傷を負うことを憂虞してきた。お母様を病気で亡くした時は、後を追いかねないとさえ思ったから…

 だけどこれは何?そんな私の真心を知ろうともせず、おまけに私の成長を喜ぶこともしない。そんなの家族といえるのかしら?どこかで私は、まだほんの少し期待していた。私が女主人として行動することを認めてくれたとしたら…そんなことをまだ思っていた。だけど結局は夢のまた夢。私って、どれだけ裏切られたら懲りるのかしらね?

 「だけどお兄様、今後ご結婚されることがあれば、喜んでお相手の方に立場をお譲りします。ですから心配なさらなくても大丈夫ですよ?」

 一転して朗らかにそう伝えると、ぐうの音も出ないお兄様。だけどそれは本音…いつまでもこの家に、齧りついているつもりはない。何の思い入れもなく、あるとすればお母様の思い出と執事のカイのことくらい。おまけに本当は二年も離れていたことで、尚更そんな気持ちが大きくなっていた。そう感じていると…

 「もういい!それは少し言い過ぎだ、フレデリカ。だが、お前の主張は認めよう。これよりは女主人としてこの家を守ることに専念しなさい。皆もそのつもりでいるんだ」
 
 父からのそんな言葉に心底驚く。認められるにはもっと時間がかかると思っていた。その為には決定打が必要かもと…だから密かに、そのことも視野に入れていた。それは意外にも使うことがなかったよう…

 
 それからは私の、女主人としての奮闘が始まった。これまでまるで意思表示が取れていなかった相手。人を使うのは、これほど大変なのかと身に沁みる。
 だけど私には、そんなのは経験済みで通用しない。少しずつだけどノートン家と私への待遇を変えていく。
 お兄様とシンシアは相変わらず気に入らないようだったけど、それでも大きく反発するようなことはなかった。二人に割り当てられるお金も、私が管理しているからでしょうね。それでも一人だけは…

 「お姉様、お願いです!ロリーを許してはいただけませんか?私を可哀想に思っての行動なんです。ロリーの母親は私の母とは親友で、まるで本当の姉のように共に育ちました。ですから…どうか追い出すような真似だけはなさらないで下さい」

 やっと軌道に乗ってきた女主人としての立場。それを一人だけぶち壊す行動を取る者が。他の者を巻き込んで、私に重大な過失を負わせようと企んでいた。事前にそれに気付いたから良かったけど、家の中のこととはいえ罪に問われることだってあったかも知れない。それで…とうとうクビにすることを告げた。

 「今回だけ許してやって欲しい。こんなにシンシアが頼んでいるんだ!そうだろ?」

 珍しく神妙な面持ちでお兄様が頼み、気持ちがちょっと揺れ動く。許すのは二度目よ?そう言いたかったけど、一理あることでもあったから。姉妹同然だと言われてしまうと、まだ燻ぶり続けるシンシア派を黙らす為にも、そうした方がいい気がしてくる。もう二度と逆らわないと念書を書かせて、もう一度だけ許そうかと思っていた。そんな時…

 「あんた、何にも知らないんだね?知らないのはあんただけ!大きな顔をしていられるのも今だけさっ」

 始終俯いたままだったロリーが、急に顔を上げて豹変する。そして私目掛けて、有り得ないことを言ってくる。だけど…私だけが知らないこと?

 「やめなさいロリー…そんな態度なら今すぐ出て行ってー!」

 今まで見たこともないシンシアの剣幕に、この場にいる者全員が驚愕する。流石のお兄様も、シンシアを信じられないといった顔で見つめている。

 ──今シンシアは、ロリーの言うことを遮ったの?これ以上言わせまいと。

 ということは、私の知らない何かがあるということかしら。私だけが知らないこと?それは何なの!
 
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