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第一章・望まない形で
5・諦めるということ
私が間違っていたのでしょうか?愛する人と結ばれて浮かれきっていた。夫が自分と同じ気持ちだって信じて疑うこともなく…
だけどそれを誰が責められるの?一年遅らせたとはいえ、私はまだデビュタントを終えたばかりの十代で、誰かに恋したのだって初めてだった。
そんな私が自分に都合の良い解釈をしたって、どうしてそれを疑うことが出来るって言うのかしら。私はただ、エズラを愛しただけ。そのことで自分の命を、削ることになったとしても…
──ドンドン!ドン!ドドン!
大きな音にパチッと目を開く。一瞬何が起こっているのか理解出来ずに、呆然と身動きもせずにいた。
「ここは…私の部屋?ああ、帰って来たんだったわ」
そうポツリと呟いて、辺りを見渡す。ここは懐かしい幼い頃から使っていた部屋…結婚して出てからは物置のようになっていたけどね。そんな状況だったのに、どうして顔を見せろだなんて言えたのかしら?思い出すのは死ぬ前に聞いたお兄様の言葉…思わず苦笑いしてしまう。そんなの帰るなと言っているのも同じなのに…
「おい!起きているんだろう?フレデリカ、話がある…今直ぐリビングに降りてこいよ!」
噂をすれば何とやら…のお兄様。相当に激高している様子。そしてリビングに行けばきっと、泣きじゃくっているシンシアに難しい顔をしたお父様も待っているんでしょうね。いいわ…私も話をしたいと思っていたから。
ベッドから出た私は、慣れた調子で身支度をする。伯爵令嬢なのに自分でそれをするなんて、どれだけ同じ人がいるのかしら?カイが何度も注意してくれていたけど、根本的な心待ちが変わらなければ何を言っても同じ…私の手伝いをしたい使用人など、悲しいけれどいないってこと。その原因はやはり…それを今から正しに行こうと思っている。
「お待たせしました」
そう言いながらリビングに入ると、家族達はもとより側に控えていた使用人達も一斉に目を向ける。その中にはもちろん、シンシア付きメイドのロリーの姿もあった。やはりね…
「遅すぎだぞ!呼びに行ってからどれだけ時間が経っていると思っているんだ?お前に割く時間などそれほど無い」
当然といった感じでお兄様から叱責される。だけど私は、平然とした態度で空いているソファに腰掛ける。それから前に視線を向けると…思っていた通りの顔。怒り心頭のお兄様に、仏頂面のお父様。そしてシンシアは…涙は乾いてしまったのね?それは残念だったわねと、心の中で密かに笑う。
「アルベルトの言った通りだ…なぜ早くに来ない。みんなが待っていることを聞いていただろう?」
お父様からのお小言を聞き、それこそが私の目的だったと気持ちの上だけ前のめりになる。早く身支度しようと思えばいくらでも出来た…当たり前に慣れているから。だけどそうしなかったことには理由がある。そしてここにいるなかで執事のカイだけが心配そうに私を見ていた…そのことが指し示すのは事実だけ。
「…です。……から、…なもので」
わざと小さな声を出した…一度でサラリと伝えてしまうには、ことが重大過ぎるから。私がこれまでに味わった理不尽な行為を、少しでも多く知って欲しいと。そんな思いが伝わらなければ…この人達は本当の家族だと言えるの?
「どうされたのですか、お姉様。もしや私を嫌って…更に意地悪をしようと?」
意地悪…そうシンシアから言われて、昨日のことをそう捉えていることが分かる。それはきっと、他の人達も…
「私の身支度を手伝おうとする使用人など、一人もいないのだということです。それも今始まったことではなくこれまでずっと…。なのに早く来ることなど出来るとお思いですか?」
「な、何だと!」
これには使用人達はマズイ…という顔をする。流石にお父様達も驚いていて、カイを側に呼び寄せ真実なのかを聞き出そうとしているよう。
「私の力が及ばず申し訳ありません!何度も注意をしていたのですが…まさか今もそうだったとは」
カイは恐縮し、深々と頭を下げる。だけどカイだけが悪いのではない…私も恥ずかしさと自分自身がそれを招いたという申し訳なさで、それを伝えるのを躊躇していたから。だけど…本当に私が悪かったの?いいえ、今となってはそうは思えない。娘のことにどこまでも無関心だったあの人の責任だったのだと、今の私なら分かる。
「カイを責めるのはお止め下さい。だってそもそも、家長であるお父様の無関心が招いたことではないですか。私をほんの少しでも気遣っていてくれたとしたら…分かる筈ですわよね?」
そんな私の指摘にこの場がシン…と静まり返る。同時に私は心底呆れていた…反応から本当に気付いていなかったのだと。
「そ、それは…お姉様がお気の毒には思いますが、それは言い過ぎではありませんか。それに私のメイドを勝手に解雇しようとした件もそうです…お姉様は結局、私達を嫌っておいでなのでしょう?でなければ子供の頃から私に仕えてくれているメイドに、あんなことを言うなんて考えられません!お姉様に一生懸命好かれようとしている私に…ひ、酷いです!」
「そうだ…被害妄想も大概にしろ!ああ、シンシア…可哀想に」
思っていた通りの展開になる。シンシアはどれだけ自分が可哀想なのか力説し、それに実の妹の私を貶しながらシンシアだけを庇うというお兄様の構図が。お父様だけは何を考えているのか黙ったまま。本当にどこまでも茶番だわ…
そして静かに、あることすると決める。本来なら私の正当な権利…それを遠慮して訴え続けなかったことで起こったことでもある。そして私の心は決まっていた。もう…あなた達を捨てますね?
だけどそれを誰が責められるの?一年遅らせたとはいえ、私はまだデビュタントを終えたばかりの十代で、誰かに恋したのだって初めてだった。
そんな私が自分に都合の良い解釈をしたって、どうしてそれを疑うことが出来るって言うのかしら。私はただ、エズラを愛しただけ。そのことで自分の命を、削ることになったとしても…
──ドンドン!ドン!ドドン!
大きな音にパチッと目を開く。一瞬何が起こっているのか理解出来ずに、呆然と身動きもせずにいた。
「ここは…私の部屋?ああ、帰って来たんだったわ」
そうポツリと呟いて、辺りを見渡す。ここは懐かしい幼い頃から使っていた部屋…結婚して出てからは物置のようになっていたけどね。そんな状況だったのに、どうして顔を見せろだなんて言えたのかしら?思い出すのは死ぬ前に聞いたお兄様の言葉…思わず苦笑いしてしまう。そんなの帰るなと言っているのも同じなのに…
「おい!起きているんだろう?フレデリカ、話がある…今直ぐリビングに降りてこいよ!」
噂をすれば何とやら…のお兄様。相当に激高している様子。そしてリビングに行けばきっと、泣きじゃくっているシンシアに難しい顔をしたお父様も待っているんでしょうね。いいわ…私も話をしたいと思っていたから。
ベッドから出た私は、慣れた調子で身支度をする。伯爵令嬢なのに自分でそれをするなんて、どれだけ同じ人がいるのかしら?カイが何度も注意してくれていたけど、根本的な心待ちが変わらなければ何を言っても同じ…私の手伝いをしたい使用人など、悲しいけれどいないってこと。その原因はやはり…それを今から正しに行こうと思っている。
「お待たせしました」
そう言いながらリビングに入ると、家族達はもとより側に控えていた使用人達も一斉に目を向ける。その中にはもちろん、シンシア付きメイドのロリーの姿もあった。やはりね…
「遅すぎだぞ!呼びに行ってからどれだけ時間が経っていると思っているんだ?お前に割く時間などそれほど無い」
当然といった感じでお兄様から叱責される。だけど私は、平然とした態度で空いているソファに腰掛ける。それから前に視線を向けると…思っていた通りの顔。怒り心頭のお兄様に、仏頂面のお父様。そしてシンシアは…涙は乾いてしまったのね?それは残念だったわねと、心の中で密かに笑う。
「アルベルトの言った通りだ…なぜ早くに来ない。みんなが待っていることを聞いていただろう?」
お父様からのお小言を聞き、それこそが私の目的だったと気持ちの上だけ前のめりになる。早く身支度しようと思えばいくらでも出来た…当たり前に慣れているから。だけどそうしなかったことには理由がある。そしてここにいるなかで執事のカイだけが心配そうに私を見ていた…そのことが指し示すのは事実だけ。
「…です。……から、…なもので」
わざと小さな声を出した…一度でサラリと伝えてしまうには、ことが重大過ぎるから。私がこれまでに味わった理不尽な行為を、少しでも多く知って欲しいと。そんな思いが伝わらなければ…この人達は本当の家族だと言えるの?
「どうされたのですか、お姉様。もしや私を嫌って…更に意地悪をしようと?」
意地悪…そうシンシアから言われて、昨日のことをそう捉えていることが分かる。それはきっと、他の人達も…
「私の身支度を手伝おうとする使用人など、一人もいないのだということです。それも今始まったことではなくこれまでずっと…。なのに早く来ることなど出来るとお思いですか?」
「な、何だと!」
これには使用人達はマズイ…という顔をする。流石にお父様達も驚いていて、カイを側に呼び寄せ真実なのかを聞き出そうとしているよう。
「私の力が及ばず申し訳ありません!何度も注意をしていたのですが…まさか今もそうだったとは」
カイは恐縮し、深々と頭を下げる。だけどカイだけが悪いのではない…私も恥ずかしさと自分自身がそれを招いたという申し訳なさで、それを伝えるのを躊躇していたから。だけど…本当に私が悪かったの?いいえ、今となってはそうは思えない。娘のことにどこまでも無関心だったあの人の責任だったのだと、今の私なら分かる。
「カイを責めるのはお止め下さい。だってそもそも、家長であるお父様の無関心が招いたことではないですか。私をほんの少しでも気遣っていてくれたとしたら…分かる筈ですわよね?」
そんな私の指摘にこの場がシン…と静まり返る。同時に私は心底呆れていた…反応から本当に気付いていなかったのだと。
「そ、それは…お姉様がお気の毒には思いますが、それは言い過ぎではありませんか。それに私のメイドを勝手に解雇しようとした件もそうです…お姉様は結局、私達を嫌っておいでなのでしょう?でなければ子供の頃から私に仕えてくれているメイドに、あんなことを言うなんて考えられません!お姉様に一生懸命好かれようとしている私に…ひ、酷いです!」
「そうだ…被害妄想も大概にしろ!ああ、シンシア…可哀想に」
思っていた通りの展開になる。シンシアはどれだけ自分が可哀想なのか力説し、それに実の妹の私を貶しながらシンシアだけを庇うというお兄様の構図が。お父様だけは何を考えているのか黙ったまま。本当にどこまでも茶番だわ…
そして静かに、あることすると決める。本来なら私の正当な権利…それを遠慮して訴え続けなかったことで起こったことでもある。そして私の心は決まっていた。もう…あなた達を捨てますね?
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