Good day ! 2

葉月 まい

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ガールズトーク

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「久しぶりー!恵真」
「こずえちゃーん!元気だった?」
「うん!元気元気ー」

二人ともオフの日に、恵真は久しぶりにこずえとランチをすることになった。

電話でいつも近況は話しているが、やはりこうやって会って話すのが一番いい。

注文を済ませると、早速二人はおしゃべりに花を咲かせる。

「恵真、相変わらず幸せオーラがハンパないねえ。それに引き換え伊沢ときたら…」
「ん?伊沢くんがどうかしたの?」
「もう、恵真からも言ってやって!あいつ、人のことばっかりなんだから。乗客の女性に一目惚れしたキャプテンの相談に乗ったり、恵真に言い寄るキャプテンに悩んだり…。で、上手く事が治まったら、まるで自分のことみたいに喜んじゃって。なんなの?一体」

こ、こずえちゃん?と、恵真は苦笑いする。

「えっと、どうしてそんなにご立腹なの?」
「だってそうでしょ?私はね、あいつを励ましてきたの。それなのに、いっこうに自分から幸せになろうとしなくて。あんな男いる?なんかさ、子犬みたいなのよ。お目々キラキラさせて喜んだり、落ち込んで涙目で擦り寄ってきたり。でさ、冷たくあしらうと、悲しそうに背中丸めてちっちゃくなっちゃうような。もう!私、捨てられた子犬は放っておけない性格なのよ?どうしてくれんのよ!」

恵真は苦笑いを浮かべたまま、首をかしげる。

詳しい事は分からないが、どうやらこずえと伊沢の間には色々あるらしかった。

「こずえちゃんがそこまで熱くなるなんて。伊沢くんのこと、そんなに気になるの?」
「は?気になる?!」

恵真の言葉にこずえは目を見開く。

「気になるも何も、あいつがいちいち電話してくるの!で、何度言っても私の言葉を理解しないのよね。もう、ほんとに頭にくるー!」

グビッとグラスの水を飲むこずえを、恵真は不思議な気持ちで見つめる。

「なんか、珍しいね。こずえちゃんって、いつも大人の余裕があって、どんな時も落ち着いてアドバイスしてくれるのに」
「え?そうかな…」
「そうだよ。何でもお見通しって感じで、冷静に諭してくれるのに。今はもう、自分の気持ちが分からないーって感じ」
「分からないのは自分の気持ちじゃないの。伊沢の気持ちよ。まったく、あいつこの先どうするつもりなんだろ?」

恵真は、んーと首をかしげる。

「じゃあこずえちゃんは、どうしてこんなに伊沢くんのことが気になるのかが分からないって感じ?」

そう言うと、え…とこずえは言葉を失う。

「やっぱりそうだよ。こずえちゃん、伊沢くんのことが妙に気になっちゃうんでしょう?」
「それは、だって。捨てられた子犬に見つめられたら、誰だって気になっちゃうでしょ?」

恵真は、ふふっと笑ってこずえに顔を寄せる。

「こずえちゃん。伊沢くんは確かに無邪気だけど、子犬じゃないよ。立派な男の人だよ」
「なっ、何を言ってんの?恵真ったら」
「だって、こずえちゃんがいつまで経っても認めないんだもん」
「…何を?」
「伊沢くんのことが気になって仕方ないって。子犬としてじゃないよ?ちゃんと男の人として」
「…え、恵真?!」

こずえはもはや絶句して、ひたすら視線を泳がせる。

「こずえちゃんは伊沢くんが電話してくる度にヤキモキするんでしょ?冷静になれないくらいに。それって、どうしてなんだろうねえ」

恵真がそう言った時、お待たせしましたー!と料理が運ばれてきた。

「わー、美味しそう!ね、食べよう」
「う、うん。そうだね」
「いただきまーす!」

恵真は嬉しそうに、グリルチキンサンドを頬張る。

「んー、美味しい!ね?こずえちゃん」
「うん、そうだね」

頷きながら、こずえは恵真の言葉を思い返していた。

伊沢のことが気になる、それってどうして?

こんなにも自分の気持ちが分からなくなるのは、こずえにとって初めてのことだった。



伊沢の様子とこずえの様子、どちらも気にかけながら過ごしていた恵真は、ある日意外な人物から電話を受けた。

「彩乃さん?どうかしましたか?」
「こんにちは、恵真さん。実は明後日、出張から羽田に帰ってくるんだけど。その日、恵真さんはお仕事?」
「ええ。でも夕方の5時には上がれます」
「本当?私、ちょうど5時前に到着する便なの。良かったらお茶でもおつき合い頂けないかしら?」
「ええ。もちろん!」

そして2日後、空港ターミナルビルのカフェで一緒にお茶を飲むことになった。

滑走路を見下ろしながら、二人でカウンターに並んで座る。

「お仕事でお疲れのところ、ごめんなさいね、恵真さん」
「いいえ。彩乃さんもお疲れ様です。いつもJWAをご利用頂きありがとうございます」
「うふふ。こちらこそ、いつも快適なフライトをありがとうございます」

二人で笑い合う。

「結婚式の準備はいかがですか?」
「色々決めているところなんだけどね。式は都内のホテルで、身内だけで挙げることになったの。挙式後そのままそのホテルで食事会をして、披露宴は別の日にしようかって話していて…」
「そうなんですか?」
「ええ。式は日曜日だけど、披露宴は真一さんも私も平日の方がお客様をお呼びしやすくて」
「なるほど」
「だけどやっぱり、真一さんのお呼びしたい人、皆様のご都合が合う日なんて無理でしょう?」
「まあ、そうですね。飛行機は毎日飛んでいますから、パイロット全員が休める日なんてありませんし」
「そうなの。だからまだ日程が決められなくて…。そろそろ決めないとって話しているんだけどね」

そう言って彩乃は紅茶を飲む。

恵真はふと窓の外の滑走路に目をやった。

とその時、ある事を思い出して彩乃に顔を向ける。

「彩乃さん。私、ちょっと思いついた事があるんです!」
「え?なあに?」

恵真は早速、彩乃に話し始めた。



「うわー、なんて素敵なの!」

大きな窓から見える滑走路に、彩乃は感激して口元に手をやる。

「こちらの窓は、横に全長30mございます。飛行機の離発着や綺麗な夜景も、広くゆったりとご覧頂けます」

スーツを着た男性スタッフの説明に、彩乃はますますうっとりと外を眺めた。

ここは空港ターミナルビルの最上階にあるバンケットホール。

会議やパーティーなどでも使用されるが、結婚式も行われている事を、恵真はふと思い出したのだった。

「彩乃さん。ここならその日に勤務がある人も、休憩時間に立ち寄る事が出来ます。エレベーターですぐですから」
「ええ、それはとっても素敵なアイデアね!」

野中と彩乃の披露宴の日は仕事で休めなくても、ここなら空き時間に気軽に来られる。

ひと目だけでも、野中と彩乃の幸せな姿を見てもらえるだろうと、恵真は彩乃に提案したのだった。

それに飛行機をバックにウェディングフォトも撮れる。
二人には打って付けの会場だろう。

彩乃は目を輝かせて頷き、恵真はパンフレットだけでももらえたらと、早速相談カウンターに彩乃と行ってみた。

するとたまたま今はホールが空いているとの事で、スタッフは二人にホールの下見をさせてくれた。

「こちらのイメージアルバムもどうぞご覧ください。お花の装飾やテーブルコーディネートなど、ご希望も出来る限り承ります」

分厚いアルバムをめくって、実際の会場装飾や、ケーキカット、キャンドルサービスなどの演出の写真も見せてくれる。

「まあ!とっても素敵だわ。ねえ、恵真さん」
「本当に。お花やテーブルクロスの印象だけでも、こんなに変わるんですね。どれもきれい。ケーキカットのケーキもゴージャスだし、キャンドルサービスの写真もうっとりしちゃう」
「私、もうここ以外は考えられなくなっちゃった」
「本当ですか?!でも私もここは、お二人にピッタリの会場だと思います」
「そうよね。早速真一さんと相談してみる。ありがとう!恵真さん」

にっこり笑う彩乃に、恵真も嬉しくなって微笑んだ。
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