めぐり逢い 憧れてのち 恋となる

葉月 まい

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大切な場所で

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「花穂、今日は来てくれてありがとう。大地も」

パーティーはお開きとなり、織江と笹本がゲストに小さなギフトを手渡してお見送りする。

「こちらこそ、お招きありがとうございました。とても素敵なパーティーでした。織江さん、笹本さん、おめでとうございます。どうぞお幸せに」
「ありがとう。今度は二人で新居に遊びに来てね」
「はい!」

笹本と大地もなにやら言葉を交わしたあと、笑顔で別れる。

大森とあゆに「またね」と声をかけてから、大地と花穂はタクシーに乗った。

「花穂、バーで夕食を食べていかないか?」
「うん!」

頷く花穂に、大地は優しく微笑む。

そのままタクシーでバーに向かった。

「いらっしゃいませ。おや、これはなんともお美しい。お二人ともお似合いの美男美女ですね」

マスターが二人を見て目を細める。

「こんはんは。友人の結婚パーティーがあったので」
「そうでしたか。おめでたい日にここにもお立ち寄りいただいて光栄です。どうぞ、お好きな席へ」

促されて、いつもの窓際の席に着いた。

「花穂、今日はコース料理にしようか」
「え、そんなのあるの?」
「ああ。メニューには載ってない特別なコースなんだ」
「そうなのね。うん、食べてみたい」
「よし。お酒はワインでいいか?」
「はい」

大地がマスターに「コース料理を」とオーダーすると、ほんの少し驚いたように動きを止めてから、マスターはにっこり笑って頷いた。

「かしこまりました」

マスターの後ろ姿を見送りながら、コース料理ってお得意様だけの珍しいオーダーなのかな、と花穂はぼんやり考える。

しばらくして運ばれてきたのは、パンやスープ、前菜からして、一流フレンチレストランかと思うほど手の込んだ本格的な料理だった。

「美味しい! はあ、もう、うっとりしちゃう。こんなに綺麗な夜景を眺めながら美味しいお料理を味わえるなんて」
「それはよかった」

微笑みながら伏し目がちにワイングラスを揺らす大地に、花穂は思わず見とれる。

「ん? どうかしたか」
「大地さんが、すごくかっこ良くて」

頬を赤らめてうつむくと、大地は更に目を細めた。

「ははっ、それはそれは。いわゆる夜景マジックだな。あと、アルコールマジックとお店の雰囲気マジック」
「ううん、大地さんは殺風景な部屋でシラフの時でもかっこいいよ」
「そうか。でも花穂、今夜はマジックにかかっててくれ」
「うん、分かった」
「じゃあ……、花穂にこれを」

そう言うと大地は、ふいに両手を花穂の前に差し出した。
そして手の中のケースを開いて見せる。

何気なく目をやった花穂は、ハッと息を呑んだ。

(こ、これって……)

胸元に贈られたネックレスより、更にまばゆく輝くダイヤモンドの指輪。

「これも、マジック……?」
「違う、俺の花穂への愛の証だ」

見開いた花穂の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

「花穂」

大地は優しく花穂の名を呼んだ。

懸命に涙をこらえて顔を上げると、大地は優しく、愛おしそうに花穂を見つめる。

「花穂、俺と出逢ってくれてありがとう。俺なんかに憧れて、チェレスタに入ってくれてありがとう。4年間もずっと思い出を大切にしてくれてありがとう。花穂のおかげで、俺は本来の自分を取り戻すことができた。今こうして花穂と一緒に、やりたい仕事に打ち込めることに感謝している。俺の心を救ってくれた花穂を、俺は一生大切にする。だから花穂、どうかそばにいてほしい。俺と結婚してくれ」

なにも言葉が出てこない。
ただ止めどなく溢れる涙に、花穂は唇を震わせる。

「花穂?」

大地が少し心配そうに顔を覗き込んできた。

「返事はゆっくりでいいから……」

言われて花穂は首を振る。
涙で潤む瞳で大地を見つめ、込み上げる想いを口にした。

「私の方こそ、ありがとう。大地さんのおかげで今の私があります。出逢ってくれて、優しく声をかけてくれて、ありがとう。ずっとずっと、あなたは私の憧れでした。その背中を追いかけて、あなたを目標にして、私はチェレスタに入ることができました。自信が持てなかった私を励まして、悩んだ時には抱きしめて、私の心を守ってくれてありがとう。憧れの存在だったあなたが、いつの間にか大好きな人になりました。私を好きになってくれて、本当にありがとうございます。ずっとずっと、あなたのそばにいさせてください」
「花穂……」
「大地さん。私と、結婚してください」

喜びと愛おしさと切なさが入り混じった表情で、大地は花穂に頷く。

「必ず幸せにしてみせる。結婚しよう、花穂」
「はい」

リングケースから取り出した指輪を、大地は花穂の左手薬指にゆっくりとはめた。

「……綺麗」
「ああ、よく似合ってる。ネックレスとお揃いなんだ」
「そうなのね。ありがとう、大地さん」

胸元のネックレスに右手を添えながら、左手の指輪に微笑む花穂を、大地も優しく見つめていた。

その時「デザートでございます」とマスターがケーキを運んできた。

小ぶりのホールケーキに筆記体で書かれていたのは
『Congratulations on your engagement』

二人で、えっ!と驚いた。

「すみません。いつでも出せるように準備して、ずっと様子をうかがっておりました」

申し訳なさそうに詫びるマスターにポカンとしてから、花穂と大地は顔を見合わせて笑う。

「さすがはマスター。なんでもお見通しですね」
「いえ。お二人の大切な瞬間に立ち会えて、大変嬉しく思います。浅倉様、当店をプロポーズの場所に選んでいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで雰囲気に酔わせてOKをもらえました」
「なにをおっしゃいますやら。ねえ、花穂さん」

花穂は、ふふっと笑みをもらす。

「はい。大地さんなら、たとえどんなシチュエーションでもイエスと答えます。だけどこの場所でプロポーズされたのがなにより嬉しくて。ここは私たちにとって、大切な思い出の場所だから」

マスターは神妙な顔で頭を下げた。

「ありがとうございます。ただお酒を飲む場所にすぎない当店を、そんなふうに大切にしてくださるなんて。そんな時間をご提供できたことをとても光栄に思います」
「また記念日ごとに寄らせてください」
「もちろんでございます。いつでもお待ちしております」

最後にマスターは「改めて、ご婚約誠におめでとうございます。どうぞ末永くお幸せに」と笑って頭を下げた。
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