19 / 20
大切な場所で
しおりを挟む
「花穂、今日は来てくれてありがとう。大地も」
パーティーはお開きとなり、織江と笹本がゲストに小さなギフトを手渡してお見送りする。
「こちらこそ、お招きありがとうございました。とても素敵なパーティーでした。織江さん、笹本さん、おめでとうございます。どうぞお幸せに」
「ありがとう。今度は二人で新居に遊びに来てね」
「はい!」
笹本と大地もなにやら言葉を交わしたあと、笑顔で別れる。
大森とあゆに「またね」と声をかけてから、大地と花穂はタクシーに乗った。
「花穂、バーで夕食を食べていかないか?」
「うん!」
頷く花穂に、大地は優しく微笑む。
そのままタクシーでバーに向かった。
「いらっしゃいませ。おや、これはなんともお美しい。お二人ともお似合いの美男美女ですね」
マスターが二人を見て目を細める。
「こんはんは。友人の結婚パーティーがあったので」
「そうでしたか。おめでたい日にここにもお立ち寄りいただいて光栄です。どうぞ、お好きな席へ」
促されて、いつもの窓際の席に着いた。
「花穂、今日はコース料理にしようか」
「え、そんなのあるの?」
「ああ。メニューには載ってない特別なコースなんだ」
「そうなのね。うん、食べてみたい」
「よし。お酒はワインでいいか?」
「はい」
大地がマスターに「コース料理を」とオーダーすると、ほんの少し驚いたように動きを止めてから、マスターはにっこり笑って頷いた。
「かしこまりました」
マスターの後ろ姿を見送りながら、コース料理ってお得意様だけの珍しいオーダーなのかな、と花穂はぼんやり考える。
しばらくして運ばれてきたのは、パンやスープ、前菜からして、一流フレンチレストランかと思うほど手の込んだ本格的な料理だった。
「美味しい! はあ、もう、うっとりしちゃう。こんなに綺麗な夜景を眺めながら美味しいお料理を味わえるなんて」
「それはよかった」
微笑みながら伏し目がちにワイングラスを揺らす大地に、花穂は思わず見とれる。
「ん? どうかしたか」
「大地さんが、すごくかっこ良くて」
頬を赤らめてうつむくと、大地は更に目を細めた。
「ははっ、それはそれは。いわゆる夜景マジックだな。あと、アルコールマジックとお店の雰囲気マジック」
「ううん、大地さんは殺風景な部屋でシラフの時でもかっこいいよ」
「そうか。でも花穂、今夜はマジックにかかっててくれ」
「うん、分かった」
「じゃあ……、花穂にこれを」
そう言うと大地は、ふいに両手を花穂の前に差し出した。
そして手の中のケースを開いて見せる。
何気なく目をやった花穂は、ハッと息を呑んだ。
(こ、これって……)
胸元に贈られたネックレスより、更にまばゆく輝くダイヤモンドの指輪。
「これも、マジック……?」
「違う、俺の花穂への愛の証だ」
見開いた花穂の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「花穂」
大地は優しく花穂の名を呼んだ。
懸命に涙をこらえて顔を上げると、大地は優しく、愛おしそうに花穂を見つめる。
「花穂、俺と出逢ってくれてありがとう。俺なんかに憧れて、チェレスタに入ってくれてありがとう。4年間もずっと思い出を大切にしてくれてありがとう。花穂のおかげで、俺は本来の自分を取り戻すことができた。今こうして花穂と一緒に、やりたい仕事に打ち込めることに感謝している。俺の心を救ってくれた花穂を、俺は一生大切にする。だから花穂、どうかそばにいてほしい。俺と結婚してくれ」
なにも言葉が出てこない。
ただ止めどなく溢れる涙に、花穂は唇を震わせる。
「花穂?」
大地が少し心配そうに顔を覗き込んできた。
「返事はゆっくりでいいから……」
言われて花穂は首を振る。
涙で潤む瞳で大地を見つめ、込み上げる想いを口にした。
「私の方こそ、ありがとう。大地さんのおかげで今の私があります。出逢ってくれて、優しく声をかけてくれて、ありがとう。ずっとずっと、あなたは私の憧れでした。その背中を追いかけて、あなたを目標にして、私はチェレスタに入ることができました。自信が持てなかった私を励まして、悩んだ時には抱きしめて、私の心を守ってくれてありがとう。憧れの存在だったあなたが、いつの間にか大好きな人になりました。私を好きになってくれて、本当にありがとうございます。ずっとずっと、あなたのそばにいさせてください」
「花穂……」
「大地さん。私と、結婚してください」
喜びと愛おしさと切なさが入り混じった表情で、大地は花穂に頷く。
「必ず幸せにしてみせる。結婚しよう、花穂」
「はい」
リングケースから取り出した指輪を、大地は花穂の左手薬指にゆっくりとはめた。
「……綺麗」
「ああ、よく似合ってる。ネックレスとお揃いなんだ」
「そうなのね。ありがとう、大地さん」
胸元のネックレスに右手を添えながら、左手の指輪に微笑む花穂を、大地も優しく見つめていた。
その時「デザートでございます」とマスターがケーキを運んできた。
小ぶりのホールケーキに筆記体で書かれていたのは
『Congratulations on your engagement』
二人で、えっ!と驚いた。
「すみません。いつでも出せるように準備して、ずっと様子をうかがっておりました」
申し訳なさそうに詫びるマスターにポカンとしてから、花穂と大地は顔を見合わせて笑う。
「さすがはマスター。なんでもお見通しですね」
「いえ。お二人の大切な瞬間に立ち会えて、大変嬉しく思います。浅倉様、当店をプロポーズの場所に選んでいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで雰囲気に酔わせてOKをもらえました」
「なにをおっしゃいますやら。ねえ、花穂さん」
花穂は、ふふっと笑みをもらす。
「はい。大地さんなら、たとえどんなシチュエーションでもイエスと答えます。だけどこの場所でプロポーズされたのがなにより嬉しくて。ここは私たちにとって、大切な思い出の場所だから」
マスターは神妙な顔で頭を下げた。
「ありがとうございます。ただお酒を飲む場所にすぎない当店を、そんなふうに大切にしてくださるなんて。そんな時間をご提供できたことをとても光栄に思います」
「また記念日ごとに寄らせてください」
「もちろんでございます。いつでもお待ちしております」
最後にマスターは「改めて、ご婚約誠におめでとうございます。どうぞ末永くお幸せに」と笑って頭を下げた。
パーティーはお開きとなり、織江と笹本がゲストに小さなギフトを手渡してお見送りする。
「こちらこそ、お招きありがとうございました。とても素敵なパーティーでした。織江さん、笹本さん、おめでとうございます。どうぞお幸せに」
「ありがとう。今度は二人で新居に遊びに来てね」
「はい!」
笹本と大地もなにやら言葉を交わしたあと、笑顔で別れる。
大森とあゆに「またね」と声をかけてから、大地と花穂はタクシーに乗った。
「花穂、バーで夕食を食べていかないか?」
「うん!」
頷く花穂に、大地は優しく微笑む。
そのままタクシーでバーに向かった。
「いらっしゃいませ。おや、これはなんともお美しい。お二人ともお似合いの美男美女ですね」
マスターが二人を見て目を細める。
「こんはんは。友人の結婚パーティーがあったので」
「そうでしたか。おめでたい日にここにもお立ち寄りいただいて光栄です。どうぞ、お好きな席へ」
促されて、いつもの窓際の席に着いた。
「花穂、今日はコース料理にしようか」
「え、そんなのあるの?」
「ああ。メニューには載ってない特別なコースなんだ」
「そうなのね。うん、食べてみたい」
「よし。お酒はワインでいいか?」
「はい」
大地がマスターに「コース料理を」とオーダーすると、ほんの少し驚いたように動きを止めてから、マスターはにっこり笑って頷いた。
「かしこまりました」
マスターの後ろ姿を見送りながら、コース料理ってお得意様だけの珍しいオーダーなのかな、と花穂はぼんやり考える。
しばらくして運ばれてきたのは、パンやスープ、前菜からして、一流フレンチレストランかと思うほど手の込んだ本格的な料理だった。
「美味しい! はあ、もう、うっとりしちゃう。こんなに綺麗な夜景を眺めながら美味しいお料理を味わえるなんて」
「それはよかった」
微笑みながら伏し目がちにワイングラスを揺らす大地に、花穂は思わず見とれる。
「ん? どうかしたか」
「大地さんが、すごくかっこ良くて」
頬を赤らめてうつむくと、大地は更に目を細めた。
「ははっ、それはそれは。いわゆる夜景マジックだな。あと、アルコールマジックとお店の雰囲気マジック」
「ううん、大地さんは殺風景な部屋でシラフの時でもかっこいいよ」
「そうか。でも花穂、今夜はマジックにかかっててくれ」
「うん、分かった」
「じゃあ……、花穂にこれを」
そう言うと大地は、ふいに両手を花穂の前に差し出した。
そして手の中のケースを開いて見せる。
何気なく目をやった花穂は、ハッと息を呑んだ。
(こ、これって……)
胸元に贈られたネックレスより、更にまばゆく輝くダイヤモンドの指輪。
「これも、マジック……?」
「違う、俺の花穂への愛の証だ」
見開いた花穂の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「花穂」
大地は優しく花穂の名を呼んだ。
懸命に涙をこらえて顔を上げると、大地は優しく、愛おしそうに花穂を見つめる。
「花穂、俺と出逢ってくれてありがとう。俺なんかに憧れて、チェレスタに入ってくれてありがとう。4年間もずっと思い出を大切にしてくれてありがとう。花穂のおかげで、俺は本来の自分を取り戻すことができた。今こうして花穂と一緒に、やりたい仕事に打ち込めることに感謝している。俺の心を救ってくれた花穂を、俺は一生大切にする。だから花穂、どうかそばにいてほしい。俺と結婚してくれ」
なにも言葉が出てこない。
ただ止めどなく溢れる涙に、花穂は唇を震わせる。
「花穂?」
大地が少し心配そうに顔を覗き込んできた。
「返事はゆっくりでいいから……」
言われて花穂は首を振る。
涙で潤む瞳で大地を見つめ、込み上げる想いを口にした。
「私の方こそ、ありがとう。大地さんのおかげで今の私があります。出逢ってくれて、優しく声をかけてくれて、ありがとう。ずっとずっと、あなたは私の憧れでした。その背中を追いかけて、あなたを目標にして、私はチェレスタに入ることができました。自信が持てなかった私を励まして、悩んだ時には抱きしめて、私の心を守ってくれてありがとう。憧れの存在だったあなたが、いつの間にか大好きな人になりました。私を好きになってくれて、本当にありがとうございます。ずっとずっと、あなたのそばにいさせてください」
「花穂……」
「大地さん。私と、結婚してください」
喜びと愛おしさと切なさが入り混じった表情で、大地は花穂に頷く。
「必ず幸せにしてみせる。結婚しよう、花穂」
「はい」
リングケースから取り出した指輪を、大地は花穂の左手薬指にゆっくりとはめた。
「……綺麗」
「ああ、よく似合ってる。ネックレスとお揃いなんだ」
「そうなのね。ありがとう、大地さん」
胸元のネックレスに右手を添えながら、左手の指輪に微笑む花穂を、大地も優しく見つめていた。
その時「デザートでございます」とマスターがケーキを運んできた。
小ぶりのホールケーキに筆記体で書かれていたのは
『Congratulations on your engagement』
二人で、えっ!と驚いた。
「すみません。いつでも出せるように準備して、ずっと様子をうかがっておりました」
申し訳なさそうに詫びるマスターにポカンとしてから、花穂と大地は顔を見合わせて笑う。
「さすがはマスター。なんでもお見通しですね」
「いえ。お二人の大切な瞬間に立ち会えて、大変嬉しく思います。浅倉様、当店をプロポーズの場所に選んでいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで雰囲気に酔わせてOKをもらえました」
「なにをおっしゃいますやら。ねえ、花穂さん」
花穂は、ふふっと笑みをもらす。
「はい。大地さんなら、たとえどんなシチュエーションでもイエスと答えます。だけどこの場所でプロポーズされたのがなにより嬉しくて。ここは私たちにとって、大切な思い出の場所だから」
マスターは神妙な顔で頭を下げた。
「ありがとうございます。ただお酒を飲む場所にすぎない当店を、そんなふうに大切にしてくださるなんて。そんな時間をご提供できたことをとても光栄に思います」
「また記念日ごとに寄らせてください」
「もちろんでございます。いつでもお待ちしております」
最後にマスターは「改めて、ご婚約誠におめでとうございます。どうぞ末永くお幸せに」と笑って頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる