めぐり逢い 憧れてのち 恋となる

葉月 まい

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結婚パーティー

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コンペで勝ち抜いた美術館の仕事に取りかかりつつ、ホテル フィオーレと銀座のジュエリーショップの仕事にも追われる。

花穂は連日、大地や大森と会議室で打ち合わせを重ねた。

美術館のアンティークジュエリー展は7月の下旬から8月末まで。

逆算して6月中には演出を完成させてOKをもらわなければなない。

大地と大森はその映像やプログラミングに集中し、花穂が主にホテル フィオーレとジュエリーショップの季節のイベント装飾を担当した。

忙しい日々の中、織江と笹本の結婚パーティーの日がやって来る。

花穂は朝から自分のマンションで支度をしていた。

大地に選んでもらったパーティードレスに着替えると、髪を巻いてハーフアップにする。

メイクも普段より華やかに整えた。

パーティーバッグにハンカチやリップなどを入れて、玄関にヒールの高いストラップシューズを用意する。

(そろそろ大地さん、来てくれる頃かな)

ちょうど時計を確認した時、ピンポンとインターホンが鳴った。

「大地さん!」

花穂は満面の笑みで玄関のドアを開ける。

「わあ、かっこいい」

スリーピースのオーダーメイドのスーツに身を包み、水色のネクタイを締めた大地は髪もフォーマルにセットしていた。

思わず見とれていると、大地はクスッと笑って玄関のドアを閉める。

「花穂も。とびきり綺麗だ」

そう言って花穂の頬に手を添え、優しくキスをする。

チュッとついばむように大地の唇が離れると、花穂は目を潤ませて大地を見上げた。

クッと大地がこらえるような表情を浮かべる。

「花穂、今はだめだ」
「なにが?」
「そんなに可愛い顔するな。そそられる」

そう言うと再び大地は花穂の唇を奪った。

さっきよりも、もっと深く、もっと熱く。

「んっ、だめ」

花穂は大地の胸を両手で押し返した。

「パーティーに遅れちゃうから。ね?」
「仕方ない、我慢するか。花穂、鏡見て来い。色っぽすぎる」

は?と眉根を寄せてから、廊下の姿見を覗き込み、花穂は自分の姿に驚く。

リップはキスで拭われ、頬はピンクに色づき、潤んだ目はトロンととろけきっていた。

(やだ! 恥ずかしい。私ってこんな顔してたんだ)

別の意味でまた頬を紅潮させながら、バッグからリップを取り出して綺麗に塗り直す。

すると背後から大地が声をかけてきた。

「花穂、そのままじっとしてて」
「え?」

なんだろうと思いながら鏡の中の大地を見つめていると、大地は後ろから両手を回し、花穂の首にネックレスを着けた。

「えっ、大地さん、これって?」

胸元に輝くひと粒ダイヤのネックレス。
その輝きはまばゆく、美しい。

「銀座のジュエリーショップの店長イチオシ。花穂に似合うだろうって」
「そうなの。なんて綺麗……」

存在感のある大粒のダイヤモンドは、きっと品質も最高級。
セッティングやチェーンの種類も、こだわって選び抜かれている気がした。

「大地さん、まさかこれを、私に?」
「もちろん。花穂、アクセサリー持ってないだろう? 俺が最初にプレゼントしたかった」
「そんな、こんなに高価なものを?」
「野暮な話はするな。俺の花穂への愛を形にしたらこうなった」

その言い方に花穂は笑いが込み上げてきた。

「大地さんの愛って、こんなに綺麗なのね」
「そりゃあもう、キラッキラ」
「ふふ、嬉しい! ありがとう、大地さん」

花穂は腕を伸ばしてギュッと大地に抱きつく。

「……花穂、これ以上はだめだ。夜まで我慢な。続きは」
「Webで?」
「ベッドで!」

ふふっと笑い、花穂は大地と腕を組んで玄関を出た。



「素敵なところですね」
「ああ。さすがは織江と笹本が選んだだけある。センスがいいな」

パーティー会場は、貸し切りのゲストハウスだった。

外にはガーデンやプールもあり、天気の良い今日はテラスへの扉が大きく解放されている。

二人のこだわりが感じられる受付のウェルカムボードや、テーブルの装花とネイビーブルーのクロス。

どの場面も写真に収めたくなるほど絵になった。

席札の置かれた席に着こうとした時、やあやあと陽気な声で片手を挙げながら大森が現れる。

「大地、花穂ちゃん、ごきげんよう」
「誰だよ、お前」
「なんてことを! みんなのアイドル、ヒロくんですよー」
「近寄るな、バカが移る」

けんもほろろな大地の腕を引き、花穂が小声で焦ったように言う。

「だ、大地さん、見て」
「ん、なんだ?」
「大森さんのお隣に……」

大森と腕を組んだ20歳そこそこの女の子が、大森の背中に半分隠れるようにしながら、はにかんだ笑みでうつむいていた。

「紹介するよ。妻のあゆ」
「はっ!?」

大地と花穂は同時に声をうわずらせた。

「ちなみにあゆのお腹の中にはベビーがいる」 
「えっ!?」

ペタンコのバレエシューズを履き、ふんわりとしたシルエットのワンピースを着たあゆが、ペコリと頭を下げる。

「初めまして、チェレスタで受付をしている大森 あゆと申します」
「大森って! あ、こちらこそ。初めまして、クリエイティブの青山です」
「もちろん存じ上げてます。プロデューサーの浅倉さんとデザイナーの青山さんのことは、いつもカウンターから拝見していました。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

アイドルのように可愛らしい顔立ちのあゆに丁寧に挨拶され、しばしポカンとしてしまう。

大地が念を押すようにあゆに尋ねた。

「あの、ほんとに大森と結婚したの?」
「はい」
「大丈夫なの? こいつで」
「もちろんです。とても優しくてかっこいいですから」
「かっこいい!?」

真顔で驚く大地に、大森が「おい!」とツッコむ。

「人の好みはそれぞれだよー? 大地くん。あゆから見たら、誰よりも俺がかっこいいんだって」
「え、視力はいくつ?」
「おい! いるんだよ、まれに美的センスが人と違う子が」

言い合う二人の横で、花穂はそっとあゆに話しかけた。

「体調は大丈夫?」
「はい。つわりも軽いし、ヒロくんがいつも気遣ってくれるので」
「そう。くれぐれも無理せず、お大事にね」
「ありがとうございます。仕事もギリギリまで続けるつもりですので、職場でもよろしくお願いします」
「こちらこそ。いつでも声かけてね」
「はい!」

可愛らしい笑顔に、花穂もメロメロになる。

「いいなー、大森さん。こんな可愛い子を捕まえるなんて、うらやましい」
「ふふっ、私も彼に捕まえてもらって幸せです」
「ひゃー、可愛すぎる!」

両手を頬に当てて悶絶していると、パーティーの開始時間になった。

4人は丸テーブルの席に着き、入場口に注目する。

照明が落とされ、バラードのラブソングが流れる中、スポットライトに二人の姿が浮かび上がった。

「織江さん、なんて綺麗なの」

花穂は感激の面持ちで拍手を贈る。

ワンショルダーのマーメイドラインのウェディングドレスを身にまとい、髪をサイドでゆるくひとつに編んだ織江が、幸せそうに笹本と腕を組んで歩いて来た。

「織江さん、笹本さん、おめでとうございます。とっても綺麗!」
「ありがとう。花穂も素敵よ」

笑顔で言葉を交わし、織江はまた別のテーブルのゲストに声をかけられながら、メインテーブルへと向かう。

笹本のエスコートで高砂に上がると、二人並んで深々とお辞儀をした。

会場は祝福の拍手が響き渡る。

親しい友人を招いてのパーティーで、固い挨拶はなく、笹本が皆への感謝の言葉を伝えて乾杯となった。

「織江さん、写真撮らせてください」

歓談の時間になると、二人はゲストに囲まれる。
花穂も笑顔の織江たちを何枚も撮影した。

「あゆちゃんも一緒に撮ろうか。足元大丈夫?」
「はい」

花穂はあゆの手を引いて織江のもとへ行く。

「織江さん、大森さんの奥様のあゆちゃんです」
「あら、なんて可愛らしい。大森ったら、人生の幸運を使い果たしたわね」

真顔の織江に、あゆはふふっと笑う。

「そしたらこれからは、私がヒロくんを幸せにします」
「ひゃー! こんな可愛い子にこんな健気なセリフを言わせるなんて。大森、一生大事にしないとバチが当たるわよ」

近づいて来た大森はそれを聞き、「もちろん」とあゆの肩を抱き寄せた。

「この先の俺の人生は、あゆとこの子の為に捧げるよ」

そう言ってあゆのお腹にそっと手を当てる。

「うひゃ、もうラブラブ。えっと、メインテーブル座ります?」

立ち上がって席を譲ろうとする織江に、あゆは「やだ! まさか。織江さんったら」と可憐に笑った。



食事のあとのケーキカットは、ガーデンで行うことになった。

プールサイドにはバーがあり、思い思いにお酒を手にしたゲストに見守られ、織江は笹本と手を重ねてケーキにナイフを入れる。

お決まりのファーストバイトでは、大きな口でパクッと一気に頬張ってみせた。

そしてブーケトス。

「あゆちゃん、行かないの?」

織江の後ろに集まった女の子たちを見ながら、花穂が声をかける。

「はい。私はもう結婚してるし、お腹の赤ちゃんが押されたらいけないので」
「しっかりしてるのね、あゆちゃん」
「いえ。花穂さんこそ行って来てください」
「えー、もうあんなにたくさん集まってるから、今から行ってもね」

女の子たちのはしゃいだ様子を遠目に眺めていると、「行きまーす!」と言って織江が大きく後ろにブーケを投げた。

「うわ、高い」

予想よりも遥かに高く投げ上げられたブーケは、綺麗な放物線を描いて落ちてくる。

「……え?」

気づくと花穂の手にブーケがポスッと収まっていた。

「きゃー! やった、花穂さん。おめでとうございます」
「え? あ、ありがとう。これ、私がもらってもいいのかな?」
「もちろんですよ。次は花穂さんが結婚する番ですね」
「それは、どうでしょう」

顔を上げると、織江が「ナイスキャッチ!」と親指を立ててみせた。



(大地さん、どこに行ったんだろう)

ブーケトスが終わって女の子たちが散らばると、花穂も大地の姿を探して辺りを見渡した。

(あ、いた!)

プールサイドのバーカウンターに座り、大地は笹本とお酒を飲みながら談笑している。

(お邪魔かな)

そう思ってしばらくその場から見つめていると、ふと大地が顔を上げた。

「花穂、おいで」
「はい」

呼ばれて花穂は、おずおずと近づく。

大地は待ちきれないとばかりに手を伸ばし、花穂のウエストを抱き寄せた。

「花穂さん、ナイスキャッチ。織江もなかなかいい腕してたな」

花穂が胸に抱えたブーケに目をやりながら、笹本が笑う。

「あ、ええ。素敵なブーケをありがとうございます」
「どういたしまして。花穂さんに受け取ってもらえて、俺も嬉しいです。浅倉さん、おめでたいお知らせを首を長くしてお待ちしていますね。それでは」

にっこり微笑んで笹本は織江のもとへと歩いて行く。
見送っていると、グッと大地が花穂を抱き寄せた。

「花穂、俺のそばを離れるなよ。声をかけようとしてるやつらがいる」
「ええ? どこに?」
「プールの反対側。まだ諦めてないな、まったく」

そう言うと、大地はいきなり花穂の耳元にキスをした。

「ちょ、大地さん! こんなところでなにを……」

花穂は真っ赤になって耳を押さえる。

「虫除け」
「え、虫飛んでる?」

宙に目をやる花穂に、大地は吹き出して笑う。

「ははっ、飛んでる飛んでる。ほらまた」

そう言って今度は左頬にキスをした。

「大地さん! 虫はパチンって叩かないと」
「花穂の可愛いほっぺたを叩ける訳ないだろ。あ、また」

大地は楽しそうに、花穂の右の頬にもチュッとキスをする。

「大地さん!」

花穂はブーケを持った手で頬を押さえてガードする。
すると大地がその手を上から握りしめた。

「え?」

顔を上げると、大地が切なそうに花穂を見つめている。

「大地さん……」

ブーケで隠しながら、大地は花穂の頬を手のひらで包み、その唇に優しくそっとキスをした。
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