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190 去る者と生まれいずる者
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それから数日が経った。
レイラことエイリーンの取り調べは続いているが、聞いた事もない様な単語が沢山飛び出すので、なかなか話が進まないそうだ。
案の定と言うべきか、『転生』とか『乙女ゲーム』とか、私としてはあまり歓迎出来ない単語も頻出しているみたい。
だが、療養施設にいたという事実も手伝って『やっぱりこの女、頭おかしいよね?』と思われており、彼女が真剣に訴えれば訴えるほど、ヤバい奴認定されているらしい。
「きっとあの女は、自分の頭の中にあるお伽噺の世界で生きているんだろうな」
取り調べの状況を報告してくれた時、アイザックは苦笑いでそう言った。
ある意味その通りだと思う。
彼女は今でも、ここが現実の世界だと認める事が出来ず、前世の乙女ゲームに囚われたままで生きている。
取り調べが進まないせいで、処罰が決まるのにも少し時間がかかりそうだとの事。
まあ、王宮の牢から逃げ出すなんて不可能だから、心配は要らないだろう。
アイザックが次の報告をしてくれるのを、のんびりと待とうと思う。
そして、卒業によって漸く禊を終えたクリスティアンとプリシラの進路も決まった。
プリシラの父は、約束通り、彼女の卒業後に爵位返上の手続きをした。
男爵邸は引き払い、自領だった場所の片隅にある小さな邸を買って、そちらに家族で移り住んだ。
これからは細々と家業を守りつつ、慎ましく暮らす意向であるという。
肝心のプリシラは、家族に甘え過ぎてはいけないと、自ら家を出る決意をした。
しかし、家族の目が全く届かない環境では、学生時代の二の舞になるかもしれないと考え、実家と同じ領内にある孤児院に住み込みで勤めて、連絡だけは頻繁に取る事にしたらしい。
勤めとは言っても給金は無く、代わりに最低限の衣食住が保障されているのだと聞く。
ほぼボランティアというか……、やり甲斐搾取みたいな気もするが、それも彼女が選んだ償いなのかもしれない。
まあ、在学中に強行した炊き出しなどに比べれば、遥かに有益だろうと思う。
クリスティアンの愛も、聖女の力も、そして男爵令嬢という肩書きさえも失った彼女。
ゲームで言えば、完全にバッドエンドである。
しかも半年もの間、悪意に晒され続けながら、孤立無縁状態の学園生活を耐えるハメになった。
これまで不自由のない生活をしていたプリシラにとっては、想像した事もないくらいに辛い日々だっただろう。
そんな日々の中で、多少改心したみたいではあるが……、やっぱり私はプリシラを好きにはなれなかった。
けれど、若い頃の失敗は誰にでもあるし、どん底に落ちた姿を見たら、ある程度気が済んでしまったのも事実だ。
これから反省の心を持ち続けて再起するのも、自分を憐れんで更に堕ちていくのも、彼女の生き方次第だ。
おそらく、私がそれを確認する機会は無いと思うけれど、いつかは小さな幸せを掴んでくれたら良いと思っている。
意外だったのはクリスティアンである。
「クリスティアンはフェネリー伯爵が引き取る事になった」
「はぁ?」
アイザックの言葉に、私は思わず淑女らしくない声を上げた。
「ああ、養子とかそういう意味じゃないよ?
平民の騎士見習いとしてだ」
フェネリー伯爵家は生粋の武門家系であり、王宮騎士として勤めるだけじゃなく、一貴族家が持つには規模の大きい騎士団を所有したり、騎士の養成学校を運営したりしている。
領地を持っていない代わりに、他家に護衛騎士を紹介したり、魔獣討伐の際などに人員を派遣したりして収入を得ているのだ。
その騎士団に、見習いとしてクリスティアンを放り込むって事らしい。
「ニコラスが護衛兼側近候補だったのに、クリスティアンの暴走を止められなかったから、フェネリー伯爵は責任を感じているらしい。
ニコラスも一緒に鍛え直して、二人共どんどん魔獣討伐とかに派遣するって言ってるんだって。
僕としては、ちょっと耳が痛い話だけどね」
アイザックはクリスティアンの矯正を諦めて、早々に側近を降りてしまったから、少し罪悪感を持ってるのかな?
でも、そもそも子供の教育は親の義務だと思うのよ。
クリスティアンと同じ年齢のアイザックとニコラスに、そこまで求めるのは酷でしょう。
それにしても、私の中ではクリスティアンって、生っ白い優男のイメージなんだけど……。
「……クリスティアン殿下は剣術が得意なのですか?」
「全然。僕でも負けた事ない」
普通科でも男子生徒には剣術の授業があったが、クリスティアンの成績なんて興味無かったから知らない。
アイザックは普通科の中だけで上の下くらいだった気がするから、その下って事は真ん中くらいの成績だったのかな?
当然だが、騎士科と普通科は比べ物にならない。
騎士科の最下位が、普通科の上位くらいである。
「その実力で騎士になるって、大丈夫なんですかね?」
「しっかり鍛えてからじゃないと前線には出さないから、大丈夫だろう」
「そうですか」
ホッと安堵の溜息をついた。
もしかしたら、『討伐中に名誉の死』っていう筋書きなんじゃないかと邪推してしまったよ。
サディアス殿下ならやり兼ねない気がして……。
「まあ、フェネリー伯爵の鍛錬は、王宮騎士団の連中からも『死んだ方がマシ』って言われてるくらいだから、かなりキツいと思うけどね」
それは……、ご愁傷様です。
クリスティアンも市井での生活を学んでいるらしいが、急に放り出しても適応するのは難しいだろうし、騎士団の寮とかに入れるならその方が良いのかもね。
因みに、また変な女に籠絡されるとマズいので、薬によって子種を殺す処置をする予定だそうだ。
本人も同意しているとの事。
ベアトリスが希望している制裁については、王子のままだと少々憚りがあるので、平民になってからの方が良いだろうと言われているらしい。
なかなか実行されないから、立ち消えになったのかと思っていたけど、そうじゃなかった。
クリスティアンが王宮を去る直前に、マーガレット妃殿下が産気づいた。
予定日を過ぎていたせいか、かなりの難産で、周囲をヤキモキさせた。
特にサディアス殿下は、ずっと妃殿下の手を握りながらオロオロしていたらしく、『ウザいっっ!!』と怒鳴られて追い出されたそうだ。
生まれたのは、元気な男の子だった。
厳重警戒の中ではあるが、クリスティアンも、産まれたばかりの王子との面会を許された。
小さな手をそっと握って、『可愛い』と涙ぐんだらしい。
叔父と言えども平民になれば王子に会う事など出来ないから、これが甥っ子と触れ合う最初で最後の機会になるだろう。
レイラことエイリーンの取り調べは続いているが、聞いた事もない様な単語が沢山飛び出すので、なかなか話が進まないそうだ。
案の定と言うべきか、『転生』とか『乙女ゲーム』とか、私としてはあまり歓迎出来ない単語も頻出しているみたい。
だが、療養施設にいたという事実も手伝って『やっぱりこの女、頭おかしいよね?』と思われており、彼女が真剣に訴えれば訴えるほど、ヤバい奴認定されているらしい。
「きっとあの女は、自分の頭の中にあるお伽噺の世界で生きているんだろうな」
取り調べの状況を報告してくれた時、アイザックは苦笑いでそう言った。
ある意味その通りだと思う。
彼女は今でも、ここが現実の世界だと認める事が出来ず、前世の乙女ゲームに囚われたままで生きている。
取り調べが進まないせいで、処罰が決まるのにも少し時間がかかりそうだとの事。
まあ、王宮の牢から逃げ出すなんて不可能だから、心配は要らないだろう。
アイザックが次の報告をしてくれるのを、のんびりと待とうと思う。
そして、卒業によって漸く禊を終えたクリスティアンとプリシラの進路も決まった。
プリシラの父は、約束通り、彼女の卒業後に爵位返上の手続きをした。
男爵邸は引き払い、自領だった場所の片隅にある小さな邸を買って、そちらに家族で移り住んだ。
これからは細々と家業を守りつつ、慎ましく暮らす意向であるという。
肝心のプリシラは、家族に甘え過ぎてはいけないと、自ら家を出る決意をした。
しかし、家族の目が全く届かない環境では、学生時代の二の舞になるかもしれないと考え、実家と同じ領内にある孤児院に住み込みで勤めて、連絡だけは頻繁に取る事にしたらしい。
勤めとは言っても給金は無く、代わりに最低限の衣食住が保障されているのだと聞く。
ほぼボランティアというか……、やり甲斐搾取みたいな気もするが、それも彼女が選んだ償いなのかもしれない。
まあ、在学中に強行した炊き出しなどに比べれば、遥かに有益だろうと思う。
クリスティアンの愛も、聖女の力も、そして男爵令嬢という肩書きさえも失った彼女。
ゲームで言えば、完全にバッドエンドである。
しかも半年もの間、悪意に晒され続けながら、孤立無縁状態の学園生活を耐えるハメになった。
これまで不自由のない生活をしていたプリシラにとっては、想像した事もないくらいに辛い日々だっただろう。
そんな日々の中で、多少改心したみたいではあるが……、やっぱり私はプリシラを好きにはなれなかった。
けれど、若い頃の失敗は誰にでもあるし、どん底に落ちた姿を見たら、ある程度気が済んでしまったのも事実だ。
これから反省の心を持ち続けて再起するのも、自分を憐れんで更に堕ちていくのも、彼女の生き方次第だ。
おそらく、私がそれを確認する機会は無いと思うけれど、いつかは小さな幸せを掴んでくれたら良いと思っている。
意外だったのはクリスティアンである。
「クリスティアンはフェネリー伯爵が引き取る事になった」
「はぁ?」
アイザックの言葉に、私は思わず淑女らしくない声を上げた。
「ああ、養子とかそういう意味じゃないよ?
平民の騎士見習いとしてだ」
フェネリー伯爵家は生粋の武門家系であり、王宮騎士として勤めるだけじゃなく、一貴族家が持つには規模の大きい騎士団を所有したり、騎士の養成学校を運営したりしている。
領地を持っていない代わりに、他家に護衛騎士を紹介したり、魔獣討伐の際などに人員を派遣したりして収入を得ているのだ。
その騎士団に、見習いとしてクリスティアンを放り込むって事らしい。
「ニコラスが護衛兼側近候補だったのに、クリスティアンの暴走を止められなかったから、フェネリー伯爵は責任を感じているらしい。
ニコラスも一緒に鍛え直して、二人共どんどん魔獣討伐とかに派遣するって言ってるんだって。
僕としては、ちょっと耳が痛い話だけどね」
アイザックはクリスティアンの矯正を諦めて、早々に側近を降りてしまったから、少し罪悪感を持ってるのかな?
でも、そもそも子供の教育は親の義務だと思うのよ。
クリスティアンと同じ年齢のアイザックとニコラスに、そこまで求めるのは酷でしょう。
それにしても、私の中ではクリスティアンって、生っ白い優男のイメージなんだけど……。
「……クリスティアン殿下は剣術が得意なのですか?」
「全然。僕でも負けた事ない」
普通科でも男子生徒には剣術の授業があったが、クリスティアンの成績なんて興味無かったから知らない。
アイザックは普通科の中だけで上の下くらいだった気がするから、その下って事は真ん中くらいの成績だったのかな?
当然だが、騎士科と普通科は比べ物にならない。
騎士科の最下位が、普通科の上位くらいである。
「その実力で騎士になるって、大丈夫なんですかね?」
「しっかり鍛えてからじゃないと前線には出さないから、大丈夫だろう」
「そうですか」
ホッと安堵の溜息をついた。
もしかしたら、『討伐中に名誉の死』っていう筋書きなんじゃないかと邪推してしまったよ。
サディアス殿下ならやり兼ねない気がして……。
「まあ、フェネリー伯爵の鍛錬は、王宮騎士団の連中からも『死んだ方がマシ』って言われてるくらいだから、かなりキツいと思うけどね」
それは……、ご愁傷様です。
クリスティアンも市井での生活を学んでいるらしいが、急に放り出しても適応するのは難しいだろうし、騎士団の寮とかに入れるならその方が良いのかもね。
因みに、また変な女に籠絡されるとマズいので、薬によって子種を殺す処置をする予定だそうだ。
本人も同意しているとの事。
ベアトリスが希望している制裁については、王子のままだと少々憚りがあるので、平民になってからの方が良いだろうと言われているらしい。
なかなか実行されないから、立ち消えになったのかと思っていたけど、そうじゃなかった。
クリスティアンが王宮を去る直前に、マーガレット妃殿下が産気づいた。
予定日を過ぎていたせいか、かなりの難産で、周囲をヤキモキさせた。
特にサディアス殿下は、ずっと妃殿下の手を握りながらオロオロしていたらしく、『ウザいっっ!!』と怒鳴られて追い出されたそうだ。
生まれたのは、元気な男の子だった。
厳重警戒の中ではあるが、クリスティアンも、産まれたばかりの王子との面会を許された。
小さな手をそっと握って、『可愛い』と涙ぐんだらしい。
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