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191 不気味な女《サディアス》
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取り調べ室の奥には、素っぴんでパサパサ髪のエイリーン・ブリンドルが座っている。
簡素なテーブルを挟んで向かい側には担当取り調べ官が、そしてその隣にはサディアスが座り、二人の遣り取りを無言で眺めていた。
化粧を落とした状態の目の前の女は、前マドック男爵夫人と共に描かれていた姿絵の女の面影が確かにあった。
但し、逃亡資金が足りなくなってきていたせいか、かなり痩せているけれど。
これ以上逃亡を続ける事が難しくなってきたからこそ、オフィーリア達への逆恨みを募らせていたのかもしれない。
エイリーンは基本的には素直に供述に応じている。
もう逃げられないと観念して、開き直っているのだろう。
逃亡生活で人との会話に飢えていたのか、要らない事までペラペラと喋るので、取り調べ官は辟易していた。
しかも彼女の話の中には意味の分からない言葉がたくさん出てきて、取り調べ官達を困惑させた。
最初はそういう作戦なのかと身構えたが、どうやら考え無しに喋っているだけらしい。
不思議なのは、その話の中に時折、あの『預言者からの手紙』で防がれた事件などの内容が混じっていた事である。
「大体、おかしいと思ったのよねぇ。
だって全然イベントが起きてないみたいなんだもん。
国王陛下のアレルギーの話も聞かないし、どっかの隣国が攻めてくるって話だって、事前に防がれちゃったって新聞で読んだしさぁ……。
イベントさえ起これば、プリシラのレベル上げが出来たのに」
国の一大事に対して『イベント』などと不謹慎な表現をし、あまつさえそれが防がれた事を残念がる様な発言をするエイリーンに、サディアスは眉を顰めた。
取り調べ官の顔も、俄に険しさを増す。
「それを何処で知った?
国王陛下のアレルギーは秘匿事項だ」
「だからぁ、前世の記憶だって言ってるじゃん!
もう、話が通じないなぁ」
取り調べ官は『その言葉をそっくりそのまま返したい』と言いた気な顔をして、深く溜息をついた。
サディアスは他言無用との条件で、アイザックから、オフィーリアが幼い頃予知夢を見ていたという話を聞いていた。
但し、今は全く見なくなったから、これから先に有用な情報を提供する事は出来ないとの事だった。
もしも、エイリーンがオフィーリアと同じ様な予知の力を持っているなら……と、少しだけ期待したのだが。
(……どう考えても、この狂った女を利用するのは無理そうだな。
万が一予知能力があるとしても、メリットよりデメリットの方が大き過ぎる)
「オフィーリア・エヴァレット嬢に執着しているのは何故だ?」
「は? オフィーリアなんかどうでも良いのよ。
必要なのはアイザックの方!
乙女ゲームではね、クリスティアンにベタベタし過ぎるとアイザックから嫌われて、側近候補を降りられちゃうの。
そうなると、なんでか知らないけど王太子が失脚しなくって、ヒロインが王太子妃になれないのよ。
だから、プリシラにはクリスティアンと適切な距離で接する様にアドバイスしたんだけど、『既にオフィーリアのせいで、アイザックは側近を降りてる』って言われて……。
オフィーリアは異常に嫉妬深いから、念の為引き離しておこうと思ったのよ」
サディアスはズキズキと痛むこめかみを抑えながら、エイリーンの今の発言を考察した。
婚約者がいるクリスティアンが他の令嬢とベタベタしていて、忠告しても聞かなかったとしたら、アイザックがブチ切れて側近を降りるという結果を招く可能性は充分に考えられる。
まあ、実際はそうなるよりもずっと前に、愚弟は見切りを付けられていたのだが。
そして、姫に薬を盛るという教皇の企みを阻止したのはアイザックであるから、彼がクリスティアン側にいたならば現状が違っていた可能性もある。
だが、オフィーリアが異常に嫉妬深いという言葉には違和感しかない。逆なら分かるが……。
それから、エイリーンの話に度々出てくる『乙女ゲーム』という言葉が気になる。
『乙女』という言葉と『ゲーム』という言葉の意味は分かるが、それが合体すると何のことやらサッパリである。
なんとなく淫靡な印象を受けるのは、『未経験の女性』という意味の隠語として、『乙女』という言葉が使われるせいだろうか?
そんな想像をするのはサディアスが健全な若い男性である証拠であって、決して、一般男子よりも低俗な思考を持っている訳ではない。
……という事にしておいて欲しい。
以前聞いたエイリーンの説明によれば、『見目麗しい男性を誘惑して成り上がるゲーム』なのだとか。
それは、恋愛の駆け引きをゲーム感覚で楽しんでいるって事なのだろうか?
だとすれば、控え目に言って最低なのだが?
しかし、エイリーンに言わせればそれは違うらしい。
聞けば聞くほど謎が深まるので、取り調べ官も最近は知らない言葉が出てもあまり深掘りしなくなっている。
「エヴァレット嬢の馬に細工をしたのはお前か?
何故そんな真似をした?」
「だってさぁ、オフィーリアが大きな怪我をすれば、アイザックの婚約者を降りる事になるでしょ?
そうなったらクリスティアン経由で、オフィーリアの代わりに新しい婚約者を紹介してあげれば良いと思ったの。
アイザックの好みのタイプなら良く知ってるから。
場合によっては、プリシラが治癒をしてあげて、恩を売る事だって出来るかもしれないし」
アイザックの好みのタイプ?
この女、何か盛大な勘違いをしているんだろう。
アイザックにとって女性は大きく二種類に分類される。
『オフィーリア』と『それ以外』である。
もしも仮にオフィーリアを失ったとしても、他の女に心を移すとは到底思えない。
「最初は誰かに頼んで石をぶつけるとかも考えたんだけど、走ってる馬に命中させるのって難しそうだし、実行犯が捕まれば私の事を喋るかもしれないじゃない?
そう考えてたら、ふと前世で動物園に行った時、馬にチョコ菓子を食べさせようとして怒られた事を思い出したの。
我ながら良い考えだと思ったんだけどなぁ……」
「伯爵令嬢が死ぬ所だったんだぞ!」
思わず取り調べ官が声を荒げるが、エイリーンはキョトンとした顔で首を傾げた。
「……だってしょうがないじゃない。
ハッピーエンドの為だもの」
無邪気に微笑みながらそう言った女に、サディアスはなんとも言えない気味の悪さを感じた。
簡素なテーブルを挟んで向かい側には担当取り調べ官が、そしてその隣にはサディアスが座り、二人の遣り取りを無言で眺めていた。
化粧を落とした状態の目の前の女は、前マドック男爵夫人と共に描かれていた姿絵の女の面影が確かにあった。
但し、逃亡資金が足りなくなってきていたせいか、かなり痩せているけれど。
これ以上逃亡を続ける事が難しくなってきたからこそ、オフィーリア達への逆恨みを募らせていたのかもしれない。
エイリーンは基本的には素直に供述に応じている。
もう逃げられないと観念して、開き直っているのだろう。
逃亡生活で人との会話に飢えていたのか、要らない事までペラペラと喋るので、取り調べ官は辟易していた。
しかも彼女の話の中には意味の分からない言葉がたくさん出てきて、取り調べ官達を困惑させた。
最初はそういう作戦なのかと身構えたが、どうやら考え無しに喋っているだけらしい。
不思議なのは、その話の中に時折、あの『預言者からの手紙』で防がれた事件などの内容が混じっていた事である。
「大体、おかしいと思ったのよねぇ。
だって全然イベントが起きてないみたいなんだもん。
国王陛下のアレルギーの話も聞かないし、どっかの隣国が攻めてくるって話だって、事前に防がれちゃったって新聞で読んだしさぁ……。
イベントさえ起これば、プリシラのレベル上げが出来たのに」
国の一大事に対して『イベント』などと不謹慎な表現をし、あまつさえそれが防がれた事を残念がる様な発言をするエイリーンに、サディアスは眉を顰めた。
取り調べ官の顔も、俄に険しさを増す。
「それを何処で知った?
国王陛下のアレルギーは秘匿事項だ」
「だからぁ、前世の記憶だって言ってるじゃん!
もう、話が通じないなぁ」
取り調べ官は『その言葉をそっくりそのまま返したい』と言いた気な顔をして、深く溜息をついた。
サディアスは他言無用との条件で、アイザックから、オフィーリアが幼い頃予知夢を見ていたという話を聞いていた。
但し、今は全く見なくなったから、これから先に有用な情報を提供する事は出来ないとの事だった。
もしも、エイリーンがオフィーリアと同じ様な予知の力を持っているなら……と、少しだけ期待したのだが。
(……どう考えても、この狂った女を利用するのは無理そうだな。
万が一予知能力があるとしても、メリットよりデメリットの方が大き過ぎる)
「オフィーリア・エヴァレット嬢に執着しているのは何故だ?」
「は? オフィーリアなんかどうでも良いのよ。
必要なのはアイザックの方!
乙女ゲームではね、クリスティアンにベタベタし過ぎるとアイザックから嫌われて、側近候補を降りられちゃうの。
そうなると、なんでか知らないけど王太子が失脚しなくって、ヒロインが王太子妃になれないのよ。
だから、プリシラにはクリスティアンと適切な距離で接する様にアドバイスしたんだけど、『既にオフィーリアのせいで、アイザックは側近を降りてる』って言われて……。
オフィーリアは異常に嫉妬深いから、念の為引き離しておこうと思ったのよ」
サディアスはズキズキと痛むこめかみを抑えながら、エイリーンの今の発言を考察した。
婚約者がいるクリスティアンが他の令嬢とベタベタしていて、忠告しても聞かなかったとしたら、アイザックがブチ切れて側近を降りるという結果を招く可能性は充分に考えられる。
まあ、実際はそうなるよりもずっと前に、愚弟は見切りを付けられていたのだが。
そして、姫に薬を盛るという教皇の企みを阻止したのはアイザックであるから、彼がクリスティアン側にいたならば現状が違っていた可能性もある。
だが、オフィーリアが異常に嫉妬深いという言葉には違和感しかない。逆なら分かるが……。
それから、エイリーンの話に度々出てくる『乙女ゲーム』という言葉が気になる。
『乙女』という言葉と『ゲーム』という言葉の意味は分かるが、それが合体すると何のことやらサッパリである。
なんとなく淫靡な印象を受けるのは、『未経験の女性』という意味の隠語として、『乙女』という言葉が使われるせいだろうか?
そんな想像をするのはサディアスが健全な若い男性である証拠であって、決して、一般男子よりも低俗な思考を持っている訳ではない。
……という事にしておいて欲しい。
以前聞いたエイリーンの説明によれば、『見目麗しい男性を誘惑して成り上がるゲーム』なのだとか。
それは、恋愛の駆け引きをゲーム感覚で楽しんでいるって事なのだろうか?
だとすれば、控え目に言って最低なのだが?
しかし、エイリーンに言わせればそれは違うらしい。
聞けば聞くほど謎が深まるので、取り調べ官も最近は知らない言葉が出てもあまり深掘りしなくなっている。
「エヴァレット嬢の馬に細工をしたのはお前か?
何故そんな真似をした?」
「だってさぁ、オフィーリアが大きな怪我をすれば、アイザックの婚約者を降りる事になるでしょ?
そうなったらクリスティアン経由で、オフィーリアの代わりに新しい婚約者を紹介してあげれば良いと思ったの。
アイザックの好みのタイプなら良く知ってるから。
場合によっては、プリシラが治癒をしてあげて、恩を売る事だって出来るかもしれないし」
アイザックの好みのタイプ?
この女、何か盛大な勘違いをしているんだろう。
アイザックにとって女性は大きく二種類に分類される。
『オフィーリア』と『それ以外』である。
もしも仮にオフィーリアを失ったとしても、他の女に心を移すとは到底思えない。
「最初は誰かに頼んで石をぶつけるとかも考えたんだけど、走ってる馬に命中させるのって難しそうだし、実行犯が捕まれば私の事を喋るかもしれないじゃない?
そう考えてたら、ふと前世で動物園に行った時、馬にチョコ菓子を食べさせようとして怒られた事を思い出したの。
我ながら良い考えだと思ったんだけどなぁ……」
「伯爵令嬢が死ぬ所だったんだぞ!」
思わず取り調べ官が声を荒げるが、エイリーンはキョトンとした顔で首を傾げた。
「……だってしょうがないじゃない。
ハッピーエンドの為だもの」
無邪気に微笑みながらそう言った女に、サディアスはなんとも言えない気味の悪さを感じた。
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