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1 突然の求婚
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「なぁ、ソフィー。
俺と結婚してくれないか?」
静寂に包まれた王宮図書館の個室で、その場に似つかわしく無い話題を突然切り出されて、呆気に取られる。
「はぁっ?何の冗談ですの?
ウィリアム・レミントン」
急に何を言い出すのか、この男は?
私は、騒ぐ心臓に気付かれないように、無表情で彼を見た。
淑女教育が、こんな場面で役に立つとは思わなかった。
彼、レミントン伯爵家の次男、ウィリアムは、私と同期の王宮魔術師だ。
入団して2年目の新人ながら、王宮魔術師団の中でも一二を争う魔力量を持ち、将来有望と大いに期待されているらしい。
対する私、ソフィア・ロブソンは、ロブソン侯爵家の一人娘。
魔術師の家系である、ロブソン侯爵家に生まれながらも、魔力量に関しては平均値。
その代わり、幼い頃から魔術に関する事柄に強い興味を持ち、多数の論文を発表するなど、研究者として既に名を馳せている。
魔術師団にも、そちらの才能を買ってもらい入団する事が出来た。
「だってお前の所の侯爵家は、家格を問わず〝才能がある魔術師の婿〟を探してるって言ってたじゃん」
「そりゃ、言いましたけど・・・。
何?侯爵位が欲しいのかしら?
ウィリアムはそういうタイプじゃないと思ってたのに」
「いや、まぁ爵位とかは割とどうでもいいんだけどさぁ、俺もそろそろ婚約くらいしろって親に煩く言われてるんだよね。
名門のロブソン侯爵家に婿入りするなんて、魔術師としてはちょっと憧れるし。
俺じゃダメなの?」
そんな捨て犬みたいな目で見ないで欲しい。
ダメな訳無いじゃないか。
将来有望な魔術師だし。
ウチの両親も、きっと泣いて喜ぶだろう。
───それに、私は密かに彼に好意を持っているのだから・・・
「・・・・・・ダメでは、無いですが」
「じゃあ、決まりだな!!
ちゃんとロブソン侯爵家にも、正式に婚約の打診をしておくから。
絶対、断るなよ!
侯爵に反対されても、一緒に説得してくれよ!」
ついさっきまで、捨て犬だった癖に、急にパッと表情を輝かせて、彼は悠然と去って行った。
「何なの?本当に」
誰にともなく呟いて、手元の書きかけの論文に視線を戻した。
だが、動揺が続いている私は全く集中出来ず、執筆は進まないのだった。
「ソフィア!でかしたぞ!
いや~、お前全然婿候補連れてこないから、どうしようかと思って、見合いも検討してたんだが、ついに大物を捕まえたな。
ウィリアム・レミントンと言えば、今一番注目の若手有望株じゃないか。
お手柄、お手柄」
上機嫌に笑うお父様にバシバシと力強く肩を叩かれ、半目になる。
珍しく執務室に呼ばれた時から、嫌な予感はしたのだ。
アイツ、本当に婚約打診しやがった。
図書館の片隅で、テキトーに告げられた求婚が、まさか本気だなんて思わないじゃないか。
お父様がこんなに乗り気になっている以上、もうこれは決定事項だ。
私は深い溜息を吐く。
片想いの相手との政略結婚は、嬉しくもあり、虚しくもあるのだ。
俺と結婚してくれないか?」
静寂に包まれた王宮図書館の個室で、その場に似つかわしく無い話題を突然切り出されて、呆気に取られる。
「はぁっ?何の冗談ですの?
ウィリアム・レミントン」
急に何を言い出すのか、この男は?
私は、騒ぐ心臓に気付かれないように、無表情で彼を見た。
淑女教育が、こんな場面で役に立つとは思わなかった。
彼、レミントン伯爵家の次男、ウィリアムは、私と同期の王宮魔術師だ。
入団して2年目の新人ながら、王宮魔術師団の中でも一二を争う魔力量を持ち、将来有望と大いに期待されているらしい。
対する私、ソフィア・ロブソンは、ロブソン侯爵家の一人娘。
魔術師の家系である、ロブソン侯爵家に生まれながらも、魔力量に関しては平均値。
その代わり、幼い頃から魔術に関する事柄に強い興味を持ち、多数の論文を発表するなど、研究者として既に名を馳せている。
魔術師団にも、そちらの才能を買ってもらい入団する事が出来た。
「だってお前の所の侯爵家は、家格を問わず〝才能がある魔術師の婿〟を探してるって言ってたじゃん」
「そりゃ、言いましたけど・・・。
何?侯爵位が欲しいのかしら?
ウィリアムはそういうタイプじゃないと思ってたのに」
「いや、まぁ爵位とかは割とどうでもいいんだけどさぁ、俺もそろそろ婚約くらいしろって親に煩く言われてるんだよね。
名門のロブソン侯爵家に婿入りするなんて、魔術師としてはちょっと憧れるし。
俺じゃダメなの?」
そんな捨て犬みたいな目で見ないで欲しい。
ダメな訳無いじゃないか。
将来有望な魔術師だし。
ウチの両親も、きっと泣いて喜ぶだろう。
───それに、私は密かに彼に好意を持っているのだから・・・
「・・・・・・ダメでは、無いですが」
「じゃあ、決まりだな!!
ちゃんとロブソン侯爵家にも、正式に婚約の打診をしておくから。
絶対、断るなよ!
侯爵に反対されても、一緒に説得してくれよ!」
ついさっきまで、捨て犬だった癖に、急にパッと表情を輝かせて、彼は悠然と去って行った。
「何なの?本当に」
誰にともなく呟いて、手元の書きかけの論文に視線を戻した。
だが、動揺が続いている私は全く集中出来ず、執筆は進まないのだった。
「ソフィア!でかしたぞ!
いや~、お前全然婿候補連れてこないから、どうしようかと思って、見合いも検討してたんだが、ついに大物を捕まえたな。
ウィリアム・レミントンと言えば、今一番注目の若手有望株じゃないか。
お手柄、お手柄」
上機嫌に笑うお父様にバシバシと力強く肩を叩かれ、半目になる。
珍しく執務室に呼ばれた時から、嫌な予感はしたのだ。
アイツ、本当に婚約打診しやがった。
図書館の片隅で、テキトーに告げられた求婚が、まさか本気だなんて思わないじゃないか。
お父様がこんなに乗り気になっている以上、もうこれは決定事項だ。
私は深い溜息を吐く。
片想いの相手との政略結婚は、嬉しくもあり、虚しくもあるのだ。
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