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2 職場の反応

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私達の婚約の噂は、瞬く間に広がった。
若手有望株と、魔術の名門侯爵家の婚約だ。話題になって当然である。

「ウィリアム、お前上手くやったな」

「逆玉じゃないか」

「良いよなー。ソフィア嬢、俺も狙ってたのに・・・」

「ウィリアムが、未来の侯爵様かよ。
想像つかねーな」

ウィリアムは同僚の男性陣に小突き回されている。
私はそれを横目で見ながら、ため息を一つ吐き、書類を纏めて抱えた。
その書類を他部署へ届ける為、魔術師塔の外へ出る。

「あ、ほら、噂をすれば、ソフィア様だわ」

「魔術の名門家とか言われてるけど、彼女自身は、大して魔力強くないんでしょう?」

「ねぇ。家柄しか取り柄が無い癖に、ウィリアム様の婚約者だなんて、よく恥ずかしくないわよね」

ウィリアムは、赤髪に黄金色の瞳を持つ美丈夫だ。
伯爵家の次男で、爵位継承の予定は無いものの、将来は魔術師団長も夢じゃないと言われる程の実力者。
魔術師団長ともなれば、ヘタな爵位持ちよりも、良い生活が出来る。
王宮の侍女や、女性魔術師に絶大な人気を誇るのも、必然であった。

しかし、家柄しか取り柄が無いって・・・。
私、過去の研究論文で博士号取ってるのだけれど。
まぁ、侍女のお嬢さん達には、論文なんかよりも、魔力量の方がわかり易いんだろうけど。
ちょっと心外だわ。

そう思いながらも、聞こえないフリをして、彼女達の横を通り抜けようとした時・・・・・・

「きゃ・・・・・・っ!」

彼女達の内の一人が、私の足を引っ掛けた。

「っ痛ぁっ・・・」

馬鹿なのだろうか!?
馬鹿なんだろうな。
この女、確か伯爵家の令嬢だ。
家柄しかないと馬鹿にしていたが、その家柄が貴族社会においてどれほど重要視されるか、全く理解出来ていないようだ。
私より家格が低い彼女が、私に危害を加えてタダで済むとでも思っているのか?

「おい。何の騒ぎだ」

突然、男性に声を掛けられた彼女達は、顔色を無くして肩を震わせた。

「わ、私達は何も。
ソフィア様が、ご自分で・・・・・・あの、失礼します」

言い訳をしようとするが、私が睨み付けると、そそくさと逃げて行った。
証拠もない事だし、私が勝手に転んだだけだと言い訳すれば、通るとでも思ったのだろうか?
私は、自分に攻撃してくる相手を見逃してやるほど優しくはない。
家の力だろうが何だろうが、使える物は使って反撃するのが私の流儀だ。
きちんと家を通じて抗議する。
もう王宮で、あの女の姿を見ることなどないだろう。

「大丈夫か?」

「ええ。有り難うございます。
アーロン様」

手を差し伸べてくれたのは、アーロン・ブラッドリー侯爵令息。
確か、王宮騎士団に所属している。

同じ侯爵家だが、魔術師の家系と騎士の家系。
あまり接点は無く、挨拶くらいしかした事がなかった。
彼は親切に、散らばった書類を拾い集めながら、世間話を続ける。

「・・・ソフィア嬢、婚約したそうだね。おめでとう。
さっきのは、もしかして・・・・・・」

「ソフィー」

アーロン様の話を遮るように、ウィリアムのいつもより低い声が私を呼ぶ。

「何してるの?」

「あー・・・ちょっと・・・」

ウィリアムは私とアーロン様を視界に収めると、微かに目を細めた。

「行くよ。ソフィー」

私が持っている書類の束を半分奪うと、黒いローブを翻して、目的の部署の方へサッサと歩き出してしまった。

「ちょ・・・待って。
・・・あ、アーロン様、後日また改めてお礼を・・・」

「気にしないで」

ヒラヒラ片手を振ったアーロン様に、きちんと挨拶する暇も無く、ペコリと頭を下げると、早足でウィリアムを追いかけた。
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