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8 彼女の好みの男(ミゲル視点)
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学園に入学して、少し経った頃。
お互い勉強や友達付き合いなどに忙しく、ナディアと交流する機会が少し減っているのを、僕は不満に思っていた。
「これ、お前にやるから、ナディア嬢を誘って行って来たらどうだ?」
そう言って、タイミング良く父上が差し出したのは、観劇のチケットだった。
父上の友人が出資している劇団の新しい公演のチケットを、付き合いで購入したらしい。
丁度、劇場の近くのカフェレストランを、二ヶ月前から予約してあった。
ナディアの好物のチーズケーキが絶品だと話題になっていたからだ。
レストランに行く日に、舞台も観に行けば、なかなか良いデートコースになりそうだ。
見れば、演目もナディアの気を引きそうな内容。
誘ってみたら、二つ返事でOKしてくれた。
最近はたまにお互いの邸でお茶をするくらいで、全然一緒に出掛けられていなかった。
久し振りのデートに僕もテンションが上がる。
ナディアの好みの花束を用意して、迎えに行った。
「ありがとう。可愛らしい花束ね」
「ナディアの愛らしさには敵わないけどね」
「寝言は寝てから言って」
「・・・・・・」
結構勇気を出して言ってみたのだが・・・。
相変わらず手厳しい。
昼時なので、まずはカフェレストランに案内する。
「よく予約が取れたわね」
「たまたまキャンセルが出たみたいで、ラッキーだったよ」
ナディアを連れて来たくて、二ヶ月も前から予約していたなんて、〝重い〟と思われそうな気がして言えなかった。
ナディアは予想通り、チーズケーキが気に入ったみたいで「お腹いっぱい」と言っていた割には、ペロリと平らげた。
だけど、公演が始まってすぐに、僕はナディアを誘った事を後悔した。
ヒーロー役の役者は赤みがかった髪色で、どことなくリカルド・サムディオを思い出させる。
その役者を、頬を染めながら潤んだ瞳で見つめる彼女。
自分が誘っておいて、こんな気持ちになるのは身勝手だとわかっているが、なぜ、婚約者が自分以外の男を見つめて、恋する乙女の様な表情になっているのを見なければいけないのか?
この状況を楽しめる程、僕は心が広く無い。
しかし、観劇後の彼女の満足そうな顔を見れば、やはり連れて来て良かったと思ってしまうのだ。
気分の浮き沈みが激し過ぎて、自分でも呆れてしまう。
デートから数日経った、剣術大会の朝。
いつもは、僕のファンを自称する令嬢達に睨まれるのが面倒だと言って、あまり寄り付かないナディアが、僕の教室にやって来た。
「オレンジピールのクッキーを焼いたんだけど」
前にも作ってくれた事があるそのクッキーは、僕のお気に入りだった。
「あ、それ大好き」
「知ってる。はいどうぞ」
紙袋を開けると、バターの香りと柑橘の爽やかな香りが食欲を刺激する。
一枚頬張ると、口の中でホロリと崩れる。
甘さ控えめで、何枚でも食べられそうだ。
「うん。ナディアのクッキーは、相変わらず美味しい」
思わず笑みが溢れる。
ふと見ると、彼女の鞄の中には、綺麗にラッピングされたひと回り小さな包みがもう一つ。
「それは何?」
「差し入れに、リカルド様にも渡そうと思って」
僕に渡した包みの方が大きかったのは、婚約者へのせめてもの誠意だったのだろうか。
彼女が好きな男に渡す為に作った物だと分かると、先程までの嬉しかった気持ちが急激に萎んだ。
お互い勉強や友達付き合いなどに忙しく、ナディアと交流する機会が少し減っているのを、僕は不満に思っていた。
「これ、お前にやるから、ナディア嬢を誘って行って来たらどうだ?」
そう言って、タイミング良く父上が差し出したのは、観劇のチケットだった。
父上の友人が出資している劇団の新しい公演のチケットを、付き合いで購入したらしい。
丁度、劇場の近くのカフェレストランを、二ヶ月前から予約してあった。
ナディアの好物のチーズケーキが絶品だと話題になっていたからだ。
レストランに行く日に、舞台も観に行けば、なかなか良いデートコースになりそうだ。
見れば、演目もナディアの気を引きそうな内容。
誘ってみたら、二つ返事でOKしてくれた。
最近はたまにお互いの邸でお茶をするくらいで、全然一緒に出掛けられていなかった。
久し振りのデートに僕もテンションが上がる。
ナディアの好みの花束を用意して、迎えに行った。
「ありがとう。可愛らしい花束ね」
「ナディアの愛らしさには敵わないけどね」
「寝言は寝てから言って」
「・・・・・・」
結構勇気を出して言ってみたのだが・・・。
相変わらず手厳しい。
昼時なので、まずはカフェレストランに案内する。
「よく予約が取れたわね」
「たまたまキャンセルが出たみたいで、ラッキーだったよ」
ナディアを連れて来たくて、二ヶ月も前から予約していたなんて、〝重い〟と思われそうな気がして言えなかった。
ナディアは予想通り、チーズケーキが気に入ったみたいで「お腹いっぱい」と言っていた割には、ペロリと平らげた。
だけど、公演が始まってすぐに、僕はナディアを誘った事を後悔した。
ヒーロー役の役者は赤みがかった髪色で、どことなくリカルド・サムディオを思い出させる。
その役者を、頬を染めながら潤んだ瞳で見つめる彼女。
自分が誘っておいて、こんな気持ちになるのは身勝手だとわかっているが、なぜ、婚約者が自分以外の男を見つめて、恋する乙女の様な表情になっているのを見なければいけないのか?
この状況を楽しめる程、僕は心が広く無い。
しかし、観劇後の彼女の満足そうな顔を見れば、やはり連れて来て良かったと思ってしまうのだ。
気分の浮き沈みが激し過ぎて、自分でも呆れてしまう。
デートから数日経った、剣術大会の朝。
いつもは、僕のファンを自称する令嬢達に睨まれるのが面倒だと言って、あまり寄り付かないナディアが、僕の教室にやって来た。
「オレンジピールのクッキーを焼いたんだけど」
前にも作ってくれた事があるそのクッキーは、僕のお気に入りだった。
「あ、それ大好き」
「知ってる。はいどうぞ」
紙袋を開けると、バターの香りと柑橘の爽やかな香りが食欲を刺激する。
一枚頬張ると、口の中でホロリと崩れる。
甘さ控えめで、何枚でも食べられそうだ。
「うん。ナディアのクッキーは、相変わらず美味しい」
思わず笑みが溢れる。
ふと見ると、彼女の鞄の中には、綺麗にラッピングされたひと回り小さな包みがもう一つ。
「それは何?」
「差し入れに、リカルド様にも渡そうと思って」
僕に渡した包みの方が大きかったのは、婚約者へのせめてもの誠意だったのだろうか。
彼女が好きな男に渡す為に作った物だと分かると、先程までの嬉しかった気持ちが急激に萎んだ。
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