【完結】理想の人に恋をするとは限らない

miniko

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7 クッキーは誰の為?

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近頃、女子生徒達がソワソワしている。
おそらく原因は、来週行われる予定の剣術大会だろう。

この国では、騎士は給料も高く、能力によっては名声も得られる、人気の職業だ。
当然、女性にもモテる。
ウチの学園の騎士科の生徒は、美丈夫が多いから尚更だ。

「ねぇ、今度の騎士科の剣術大会、ナディアも、リカルド様の応援に行くでしょう?」

マリソルに聞かれて、大きく頷く。

「ええ。勿論よ」

「何か差し入れとか、用意しないの?」

差し入れかー・・・。
考えていなかったけど、憧れの人の応援に行くなら、差し入れくらいは用意した方が自然かも知れない。

私は貴族令嬢には珍しく、お菓子作りが得意だ。
以前はミゲルにも何度か食べさせた事がある。
リカルド様は、ファンからの手作りのお菓子など口にしないだろうけど、別に彼に食べてもらいたい訳じゃ無いから関係ない。

私がリカルド様に憧れている様に見えれば、それで良いのだ。


ミゲルを好きになってしまった事を、本人に悟られる訳にはいかない。
優しい彼は、私の気持ちを知ったら、きっと思い悩むだろう。
クリスティナ様を想う彼の負担にはなりたく無い。
それに、私達はもしも関係が悪化したとしても、政略上のパートナーとして結婚しなければならない可能性が高いのだ。
ギクシャクした状態で一生を共に過ごさねばならないのは、きっととても辛いだろう。


だから、今日も私はリカルド様を追いかける。




結局、私は剣術大会の前夜に、ミゲルの好物だった、オレンジピールを練り込んだクッキーを作る事にした。

オーブンの扉を開けると、クッキーが焼ける香ばしい匂いが部屋中に漂う。

ミゲルにも渡そうと、沢山焼いた。
・・・と言うか、ぶっちゃけミゲルに渡すのがメインだ。

リカルド様の分は、三枚だけ、小さな紙袋に入れて、プレゼントっぽく見える様に丁寧にラッピングした。
他にも沢山差し入れを貰うだろうから、負担にならない様に、わざと少ない量にしたのだ。

ミゲルの方は少し大きめの袋にたっぷり入れて、こちらも可愛いリボンをかける。



「ミゲル」

剣術大会の朝、ミゲルの教室に行き声を掛ける。
彼のファンのご令嬢達の視線が若干痛い。

「オレンジピールのクッキーを焼いたんだけど」

用件を伝えると、彼の目が嬉しそうに輝いた。

「あ、それ大好き」

「知ってる。はいどうぞ」

今日は授業は午前中のみで、午後が剣術大会になる。
騎士科の生徒以外は、午後の応援は自由参加だ。
ミゲルは興味ないだろうから、午前中で帰ってしまうだろうと思い、朝の内に渡しに来た。

ミゲルはすぐにガサガサと袋を開き、クッキーを頬張る。

「うん。ナディアのクッキーは、相変わらず美味しい」

「でしょ?」

この幸せそうな顔が見たくて、オレンジピール入りを作ったのだ。

「・・・それは何?」

ミゲルが、私の鞄の中から顔を覗かせているもう一つの小さな包みに目を止めた。

「ああ、午後の剣術大会の差し入れに、リカルド様にも渡そうと思って」

「ふーん。・・・・・・まぁ、程々にしときなね」

ミゲルが微かに眉根を寄せる。

「あはは。分かってるわ。
ちょっと騒いで楽しんでるだけよ」

全く恋愛感情のない婚約者であっても、他の男性に憧れている姿を見るのは嫌な物なのだろうか?
少しくらい嫉妬してくれているのなら、嬉しい気もするけれど。

いつの間にか、二人で一緒に居るのが当たり前になって、私達はそれなりに上手く行っている気がする。
ミゲルも私に何らかの好意は持っているのだろう。
しかし、そもそも私とミゲルでは、「好き」の気持ちの種類が違うのだから、あまり期待しない様に気を付けなければ。



「リカルド様、剣術大会頑張って下さいね。
これ、差し入れです」

ファンの子達に囲まれ、次々にプレゼントを受け取るリカルド様。
それに混じって、私もクッキーを渡した。
リカルド様は、一人一人にきちんとお礼を言って差し入れを受け取る。

私のクッキーも、その場で開封して、一枚食べてくれた。

「美味しいね。もしかして手作りかな?」

「ええ。お菓子作りが趣味なんです」

ニコニコと感想を述べてくれる。
神対応だね。
だからファンが多いんだろうな。
ちょっとチャラいけど。
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