【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

文字の大きさ
25 / 26

25 《番外編》犬も食わない・前

しおりを挟む
「おかーさまー」

ドレスのスカートをくいっと引っ張られて、視線を下に向ける。

「あの おみせの、チョコチップのクッキーを、みんなの おみやげに かいましょう?」

夫と同じ青紫色の大きな瞳をキラキラと輝かせた天使が、ニコニコと微笑みながら私に強請った。
王都で最近大人気のクッキー専門店。
特にチョコチップ入りが、彼女のお気に入りだ。

「それは、皆んなへのお土産と言うより、オリビアが食べたいからでは無いの?」

「あ、バレましたかぁ?」

えへへ。と笑う、私の天使が死ぬ程あざと可愛い。
天使なのか小悪魔なのか、どっちだろう?
将来、男性を手の平でコロコロ転がす様になりそうで、今から心配である。

「ああいうのって、何処で覚えてくるのかしらね?
私もちょっと伝授して欲しいわ」

「奥様には無理ですよ」

(え~?無理なの!?
確かに、私はオリビアみたいに可愛らしいキャラでは無いけどさぁ・・・)

マリベルの辛辣な意見に、ちょっと拗ねていると、慌てて否定される。

「そういう意味じゃなく、使用する機会が無いから、習得しても意味が無いって事です」

「?」

「だって、坊ちゃんに使ったら、余計に面倒な人になりますでしょ?
態々そんな技を使わなくても、奥様のお願いなら大抵叶えて下さいますし。
それに、他の男性の前でうっかり使ってしまったら、確実に死人が出ますよ」

ふむ・・・。それも一理ある。
仕方ない、あざと可愛いを目指すのは諦めよう。

「なんの おはなしですかぁ?」

「オリビアお嬢様は、と~っても可愛いですねってお話ですよ」

「うふふ。ありがとぉ」


今日は、マリベルに付き添って貰い、三歳になった愛娘のオリビアの手を引いて、街にお買い物に来ている。
一週間後に迫った結婚記念日に、ダンに贈る為のプレゼントを探しに来たのだ。

オリビアの作戦通りに、チョコチップクッキーを使用人の皆んなの分まで大量に買い込んで、馬車に戻る途中、見慣れた後ろ姿が視界の端を掠めた。

───ダン?

思わず立ち止まって、遠くに佇むその男性をじっと見詰める。
チラリと見えた横顔は、確かにダンだった。
彼は丁度カフェから出て来た所らしく、その隣には、私と同年代くらいの美しい女性が並んでいた。
彼が、その女性に、親しい人間にしか見せない笑みで話しかけるのを見て、目の前が一瞬真っ暗になる。

誰?
私の知らない女性・・・・・・

心臓が耳の横に移動したみたいに、ドクンドクンと脈打つ音が大きく聞こえる。
背中に冷たい汗が伝った。

「奥様?どうなさいますか?」

眉根を寄せたマリベルが、気遣わし気に私に問う。
その様子を見るに、おそらくマリベルにも見覚えの無い女性なのだろう。
マリベルはいつの間にか立ち位置を変えて、オリビアの視界を塞いでいた。
私は動揺していて、そこまで気が回らなかったわ・・・。
父親が大好きなオリビアが、家族以外の女性にあの様な笑顔を向けるダンの姿を見ていたら、傷付いてしまったかも知れない。
出来る侍女の素晴らしい心遣いに、深く感謝した。

「・・・帰りましょう。
今は、オリビアも居るから」

「かしこまりました。
大丈夫ですよ、奥様。
きっと、旦那様にも、何かご事情があるのでしょう」

「そう、ね・・・・・・」

背を撫でて励まそうとするマリベルに、ちゃんと笑顔を返せているか分からなかった。



邸に戻った私は、昼間見た光景を悶々と思い出しながら過ごした。

しかし、その日はダンの帰りがいつもより遅く、オリビアの就寝時間になっても帰って来ない。
夜の闇が深まる毎に、どんどん不安が大きくなっていく。


「いーやーだー!!
おかーさまぁ、ねるまえに えほんを よんでくれるって、やくそくしたじゃないー!!」

「お嬢様、今日はマリベルが読んで差し上げますから、我慢して下さい。
奥様は旦那様に大事なお話があるのですよ」

「うぇーーん。
いやぁーーーだあぁーー!」

こんな日に限って、いつもは聞き分けの良いオリビアがぐずり出した。
子供なりに母親の心の揺らぎを、なんとなく察知しているのだろうか。
オリビアも不安を感じているのかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちになった。

「ほら、おいで。抱っこしてあげるから」

仕方なく抱き上げて、ポンポンと背を叩きながら、体を軽く揺らす。
どの位の時間、そうしていただろうか。
しゃくり上げる声が段々と小さくなっていき、暫くしてすぅすぅと寝息を立て始める。
泣き疲れて眠ってしまったのだろう。
ベッドにそっと寝かせて、頬の涙の跡を拭った。

「心配させてごめんね、オリビア・・・。
・・・マリベル、オリビアの事をよろしくね」

「お任せください、奥様。
坊っちゃんを取っちめてやって下さいませ!」

冗談めかして激励してくれる侍女に娘を任せて、再び夫の帰りを待った。

窓の外に輝く月が、いつもより大きく見えた。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

処理中です...