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第十九話 大切な人とのんびりと
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会計を済ませて店を出た私は、今後の事を考えながら、うーんと唸った。
結構ゆっくりしたつもりだったけど、まだお日様は高く昇っている。せっかく何も考えずに、ラルフと二人でお出かけ出来るのだから、もう少し楽しみたい。
でも、何をすればいいのかわからないというのが現状だ。この前みたいに図書館に行ってもいいけど、図書館だとラルフとおしゃべりが出来ないのが難点だし……。
「お父さん、今日はいっぱい釣れたね!」
「そうだな! 帰ったら母さんと腹いっぱい食べような!」
「うん! お母さんに、僕の釣った一番大きいのを食べてもらうんだ!」
どうすればいいか頭を悩ませていると、近くを楽しそうに歩く親子の会話が聞こえてきた。
手に持っているのは、釣り竿かな? お父さんと二人で釣りをしてきたみたいだね。余程楽しかったのか、男の子は満面の笑みだ。
……釣りかぁ……やったことがないな……ちょっとやってみたいかも!
「ねえラルフ、もう少しだけ私に付き合ってくれる?」
「もう少しと言わず、一生お傍に置いていただけると幸いです」
「も、もうまたそうやって! えっとね、釣りをしてみたいの!」
「釣りでございますか。ご経験はおありなのですか?」
「ううん。だから、やってみたくて!」
「なるほど。私はもちろんお付き合いたしますが、道具はお持ちですか?」
「…………」
ラルフに至極真っ当な意見をされた私は、言葉を詰まらせた。
そ、そうだよね……釣りをするには釣り竿が必要だよね……やってみたいって気持ちが先行して、すっかり頭から抜け落ちていたよ。
仕方がない、今日は諦めよう。はぁ……ラルフと一緒に釣りを楽しみたかったな……。
「そんな悲しそうな顔をされないでくださいませ。すぐに準備いたしますので、釣りがしたいと強く思ってください」
そう言うと、ラルフは目を閉じて意識を集中させる。それから間もなく、ラルフの手には、釣り竿が握られていた。
「そっか、ラルフの魔法! さすがラルフ、頭良い!」
「お褒めにあずかり光栄にございます。しかしこれは、私一人の力ではございません。シエル様が釣りがしたいと、心で願ったから成し得たのです」
私に気を使って、自分一人の手柄にしないようにしているのが伝わってくる。別にそんなに気にしなくても良いと思うんだけどね。
「よーし、これでたくさん釣るぞー!」
「お待ちくださいませ、シエル様。釣りをするには、餌がないといけません」
「…………あ、そうだよね! それくらいわかってたよ! えっへん!」
「さすがシエル様です」
……釣りの初体験に浮かれて、餌が必要なのも忘れていたなんて、恥ずかしすぎて言えない……!
「ではすぐに餌を買ってくるので、先に行っていてください」
「うん、わかった!」
一旦ラルフと別れた私は、手ごろな堤防にやってきた。私がここに始めて来た時は漁師によって賑わっていたけど、今はその姿はあまり確認できない。
漁って、朝だけにやるものなのかな? それに、海で堤防っていわれる場所は、湖だとなんていうんだろう? まだまだ知らないことがたくさんあるなぁ。
「お待たせいたしました」
「全然待ってないよ。買ってきてくれてありがとう。それで、餌って何を使うの?」
「この辺りの魚は、これがとてもよく釣れるんです」
そういって差し出された袋の中には、ミミズに似た虫が入っていた。しかも、まだ生きているのか、ウネウネと動いている。
「ぎゃあぁぁぁぁ! 虫ぃぃぃぃ!!」
「ゴカイと呼ばれる虫です。毒は無いのでご安心を」
「わ、私……虫は苦手なんだよ~!」
「ふふっ……存じております」
「なんで笑ってるのよ!?」
「失礼いたしました。怖がっているシエル様が、とても可愛らしくて」
「ら、ラルフのイジワル~!」
クスっと笑いながらも、私への愛情を忘れないラルフとは対照的に、私は涙目になっていた。
本当に虫って苦手で……ウネウネしてたり、ブンブンしてたり、変な色をしてたり……と、とにかく昔から苦手なの!
「針につけるのは、私にお任せください」
ラルフは手慣れた手つきで、釣り竿の針にゴカイをつけてくれた。
もしかして、ラルフは釣りの経験があるのかな? 今の一連の動作に、全く迷いが感じられなかった。
「あ、ありがとう。それで、どうすればいいの?」
「私が見本をお見せします」
ラルフは釣り竿を勢いよく湖に向かって振ると、綺麗な弧を描いてゴカイが湖の中に入っていった。
「あそこに、丸いものが浮いているのが見えますか?」
「うん、見えるよ!」
「あれはウキです。魚が食いつくと、あのウキが動くので、それに合わせて釣り竿を上げるんです」
「へぇ……! ラルフって、釣りにも詳しいんだね!」
「姉上と何度かやったことがあるんですよ」
ナディア様とかぁ……小舟に乗った経験を聞いた時も感じたけど、改めて姉弟の中が良いんだなっていうのがわかったよ。
私も、そんな仲の良いお姉様とか妹がいたら、人生が変わってたかもしれないね。
「ご覧ください、シエル様。今、少しだけウキが動いたのがわかりますか?」
「本当だ! 引っ張らなきゃ!」
「焦ってはいけません。今はまだ完全に食いついてはおりません。ゆっくりとそのタイミングを……」
ちょんちょんっと動いていたウキが、湖の中に引っ張られた。その瞬間を狙っていたのか、ラルフは思い切り竿を引っ張り上げた。
「わわっ、竿が凄いしなってる!」
「これは結構大きそうですね……むっ」
引っ張られていた竿が、急にその勢いを無くしてしまった。もしかして、逃げられちゃったのかな。
「残念ながら、逃げられてしまったようです」
「やっぱりそうなんだね。でも次があるよ!」
「ええ、その通りでございます。今度はシエル様の番ですよ」
「わかった! よーっし、大きいのを釣る……あっ」
意気込もうとした直後、釣る前に最大の難関があることを思いだして、言葉を詰まらせた。
それは、ゴカイを針につけることだ。ラルフがやってくれると言ってくれていたけど、自分からやりたいといったことで、甘えてちゃいけないもんね。
「こ、怖くない……怖くない……」
「シエル様、ご無理はされない方がよろしいかと。私がつけて差し上げますので」
「だ、だいじょうびゅ! 私にもできりゅはずだから!」
虫に対する緊張と恐怖で、呂律が回っていないけど、そんなのを気にする余裕は私には無かった。
「よし……えいっ!!」
意を決してゴカイを一匹指でつまむと、何とも言えない変な感触が指に伝わってきた。
うわぁぁぁ……き、気持ち悪い! 逃げようと必死にウネウネしてるのも不気味だよ! と、鳥肌が収まらない~! でも負けてたまるもんか!
「こうやってつけるんだよね……」
さっきラルフが見せてくれた通りに、ゴカイを針につける。もっと苦戦するかと思っていたけど、結構簡単につけることが出来たのは、不幸中の幸いだね。
「ラルフ、これでいいか見てくれないかな?」
「はい、大丈夫です。苦手な物を一つ克服できましたね。このラルフ、感服いたしました。今日はご馳走を用意させましょう」
「お、大げさだよ! それに克服は出来てないし!」
今はなんとか耐えきれたけど、虫自体は相変わらず苦手だ。実際に、ゴカイが沢山入っている袋を見ると、無意識に体が強張っちゃうもん。
とにかく、準備は出来たんだから、あとはお魚を釣るだけだ。
「待ってろお魚達ー! 私が釣って、ラルフと一緒においしくいただくからね!」
意気揚々と釣り竿を振り、初めての釣りを開始する――が、中々お魚は餌に食いついてくれなかった。
「やっぱり初めてだと、うまくいかないね」
「最初はそんなものですよ。私も姉上も、初めての時は釣れませんでした」
「そうなんだね。でも、ラルフとこうしてのんびりと釣りをしているだけでも、凄く楽しいよ!」
誰の目も気にせず、ただ大切な人とのんびり過ごす。他の人からしたら、当たり前のことなのかもしれないけど、私にはその時間がとてもかけがえのない一時に感じる。
「私も、シエル様と過ごせて幸せです」
「それならよかった! こんな平和な時間が、ずっと続くといいなぁ……」
「きっと続きますよ。いえ、私があなたに幸せをもたらしてみせます」
「さすがラルフ、大きく出たね。私もしてもらってばかりは嫌だから、一緒に頑張って幸せになろう!」
「それは、ある意味告白ではございませんか?」
「そっ、そうなの!?」
わ、私ってば……まだ恋心がどんなものなのかもわからないうちに、ラルフに告白しちゃったの!? 私ってば本当にバカなんだから!
「……シエル様、ウキをご覧くださいませ」
「ウキ? あれ、動いてる?」
バカな自分に頭を痛ませていると、ついにウキがピクピクと動きを見せていた。それから間もなく、ウキは勢いよく湖に飲み込まれた。
これは来たよね! ここで釣り竿を引っ張る!!
「えっ……!?」
勢いよく引っ張ったのは良かったものの、お魚の力が想像以上に強かった。そのせいで、私は前のめりにバランスを崩してしまった。
――これはマズい、このままだと湖に落ちる。わ、私……泳げないのに……!!
結構ゆっくりしたつもりだったけど、まだお日様は高く昇っている。せっかく何も考えずに、ラルフと二人でお出かけ出来るのだから、もう少し楽しみたい。
でも、何をすればいいのかわからないというのが現状だ。この前みたいに図書館に行ってもいいけど、図書館だとラルフとおしゃべりが出来ないのが難点だし……。
「お父さん、今日はいっぱい釣れたね!」
「そうだな! 帰ったら母さんと腹いっぱい食べような!」
「うん! お母さんに、僕の釣った一番大きいのを食べてもらうんだ!」
どうすればいいか頭を悩ませていると、近くを楽しそうに歩く親子の会話が聞こえてきた。
手に持っているのは、釣り竿かな? お父さんと二人で釣りをしてきたみたいだね。余程楽しかったのか、男の子は満面の笑みだ。
……釣りかぁ……やったことがないな……ちょっとやってみたいかも!
「ねえラルフ、もう少しだけ私に付き合ってくれる?」
「もう少しと言わず、一生お傍に置いていただけると幸いです」
「も、もうまたそうやって! えっとね、釣りをしてみたいの!」
「釣りでございますか。ご経験はおありなのですか?」
「ううん。だから、やってみたくて!」
「なるほど。私はもちろんお付き合いたしますが、道具はお持ちですか?」
「…………」
ラルフに至極真っ当な意見をされた私は、言葉を詰まらせた。
そ、そうだよね……釣りをするには釣り竿が必要だよね……やってみたいって気持ちが先行して、すっかり頭から抜け落ちていたよ。
仕方がない、今日は諦めよう。はぁ……ラルフと一緒に釣りを楽しみたかったな……。
「そんな悲しそうな顔をされないでくださいませ。すぐに準備いたしますので、釣りがしたいと強く思ってください」
そう言うと、ラルフは目を閉じて意識を集中させる。それから間もなく、ラルフの手には、釣り竿が握られていた。
「そっか、ラルフの魔法! さすがラルフ、頭良い!」
「お褒めにあずかり光栄にございます。しかしこれは、私一人の力ではございません。シエル様が釣りがしたいと、心で願ったから成し得たのです」
私に気を使って、自分一人の手柄にしないようにしているのが伝わってくる。別にそんなに気にしなくても良いと思うんだけどね。
「よーし、これでたくさん釣るぞー!」
「お待ちくださいませ、シエル様。釣りをするには、餌がないといけません」
「…………あ、そうだよね! それくらいわかってたよ! えっへん!」
「さすがシエル様です」
……釣りの初体験に浮かれて、餌が必要なのも忘れていたなんて、恥ずかしすぎて言えない……!
「ではすぐに餌を買ってくるので、先に行っていてください」
「うん、わかった!」
一旦ラルフと別れた私は、手ごろな堤防にやってきた。私がここに始めて来た時は漁師によって賑わっていたけど、今はその姿はあまり確認できない。
漁って、朝だけにやるものなのかな? それに、海で堤防っていわれる場所は、湖だとなんていうんだろう? まだまだ知らないことがたくさんあるなぁ。
「お待たせいたしました」
「全然待ってないよ。買ってきてくれてありがとう。それで、餌って何を使うの?」
「この辺りの魚は、これがとてもよく釣れるんです」
そういって差し出された袋の中には、ミミズに似た虫が入っていた。しかも、まだ生きているのか、ウネウネと動いている。
「ぎゃあぁぁぁぁ! 虫ぃぃぃぃ!!」
「ゴカイと呼ばれる虫です。毒は無いのでご安心を」
「わ、私……虫は苦手なんだよ~!」
「ふふっ……存じております」
「なんで笑ってるのよ!?」
「失礼いたしました。怖がっているシエル様が、とても可愛らしくて」
「ら、ラルフのイジワル~!」
クスっと笑いながらも、私への愛情を忘れないラルフとは対照的に、私は涙目になっていた。
本当に虫って苦手で……ウネウネしてたり、ブンブンしてたり、変な色をしてたり……と、とにかく昔から苦手なの!
「針につけるのは、私にお任せください」
ラルフは手慣れた手つきで、釣り竿の針にゴカイをつけてくれた。
もしかして、ラルフは釣りの経験があるのかな? 今の一連の動作に、全く迷いが感じられなかった。
「あ、ありがとう。それで、どうすればいいの?」
「私が見本をお見せします」
ラルフは釣り竿を勢いよく湖に向かって振ると、綺麗な弧を描いてゴカイが湖の中に入っていった。
「あそこに、丸いものが浮いているのが見えますか?」
「うん、見えるよ!」
「あれはウキです。魚が食いつくと、あのウキが動くので、それに合わせて釣り竿を上げるんです」
「へぇ……! ラルフって、釣りにも詳しいんだね!」
「姉上と何度かやったことがあるんですよ」
ナディア様とかぁ……小舟に乗った経験を聞いた時も感じたけど、改めて姉弟の中が良いんだなっていうのがわかったよ。
私も、そんな仲の良いお姉様とか妹がいたら、人生が変わってたかもしれないね。
「ご覧ください、シエル様。今、少しだけウキが動いたのがわかりますか?」
「本当だ! 引っ張らなきゃ!」
「焦ってはいけません。今はまだ完全に食いついてはおりません。ゆっくりとそのタイミングを……」
ちょんちょんっと動いていたウキが、湖の中に引っ張られた。その瞬間を狙っていたのか、ラルフは思い切り竿を引っ張り上げた。
「わわっ、竿が凄いしなってる!」
「これは結構大きそうですね……むっ」
引っ張られていた竿が、急にその勢いを無くしてしまった。もしかして、逃げられちゃったのかな。
「残念ながら、逃げられてしまったようです」
「やっぱりそうなんだね。でも次があるよ!」
「ええ、その通りでございます。今度はシエル様の番ですよ」
「わかった! よーっし、大きいのを釣る……あっ」
意気込もうとした直後、釣る前に最大の難関があることを思いだして、言葉を詰まらせた。
それは、ゴカイを針につけることだ。ラルフがやってくれると言ってくれていたけど、自分からやりたいといったことで、甘えてちゃいけないもんね。
「こ、怖くない……怖くない……」
「シエル様、ご無理はされない方がよろしいかと。私がつけて差し上げますので」
「だ、だいじょうびゅ! 私にもできりゅはずだから!」
虫に対する緊張と恐怖で、呂律が回っていないけど、そんなのを気にする余裕は私には無かった。
「よし……えいっ!!」
意を決してゴカイを一匹指でつまむと、何とも言えない変な感触が指に伝わってきた。
うわぁぁぁ……き、気持ち悪い! 逃げようと必死にウネウネしてるのも不気味だよ! と、鳥肌が収まらない~! でも負けてたまるもんか!
「こうやってつけるんだよね……」
さっきラルフが見せてくれた通りに、ゴカイを針につける。もっと苦戦するかと思っていたけど、結構簡単につけることが出来たのは、不幸中の幸いだね。
「ラルフ、これでいいか見てくれないかな?」
「はい、大丈夫です。苦手な物を一つ克服できましたね。このラルフ、感服いたしました。今日はご馳走を用意させましょう」
「お、大げさだよ! それに克服は出来てないし!」
今はなんとか耐えきれたけど、虫自体は相変わらず苦手だ。実際に、ゴカイが沢山入っている袋を見ると、無意識に体が強張っちゃうもん。
とにかく、準備は出来たんだから、あとはお魚を釣るだけだ。
「待ってろお魚達ー! 私が釣って、ラルフと一緒においしくいただくからね!」
意気揚々と釣り竿を振り、初めての釣りを開始する――が、中々お魚は餌に食いついてくれなかった。
「やっぱり初めてだと、うまくいかないね」
「最初はそんなものですよ。私も姉上も、初めての時は釣れませんでした」
「そうなんだね。でも、ラルフとこうしてのんびりと釣りをしているだけでも、凄く楽しいよ!」
誰の目も気にせず、ただ大切な人とのんびり過ごす。他の人からしたら、当たり前のことなのかもしれないけど、私にはその時間がとてもかけがえのない一時に感じる。
「私も、シエル様と過ごせて幸せです」
「それならよかった! こんな平和な時間が、ずっと続くといいなぁ……」
「きっと続きますよ。いえ、私があなたに幸せをもたらしてみせます」
「さすがラルフ、大きく出たね。私もしてもらってばかりは嫌だから、一緒に頑張って幸せになろう!」
「それは、ある意味告白ではございませんか?」
「そっ、そうなの!?」
わ、私ってば……まだ恋心がどんなものなのかもわからないうちに、ラルフに告白しちゃったの!? 私ってば本当にバカなんだから!
「……シエル様、ウキをご覧くださいませ」
「ウキ? あれ、動いてる?」
バカな自分に頭を痛ませていると、ついにウキがピクピクと動きを見せていた。それから間もなく、ウキは勢いよく湖に飲み込まれた。
これは来たよね! ここで釣り竿を引っ張る!!
「えっ……!?」
勢いよく引っ張ったのは良かったものの、お魚の力が想像以上に強かった。そのせいで、私は前のめりにバランスを崩してしまった。
――これはマズい、このままだと湖に落ちる。わ、私……泳げないのに……!!
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