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第十八話 甘い一時
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「うわぁ~! おいしそう~!」
しばらくラルフとおしゃべりを楽しんでいると、注文した品がズラッと並べられた。
私が注文したのは、モンブラン三つに、ショートケーキ、チーズケーキ、ティラミスを一つずつ。それに加えて紅茶も頼んだ。ちなみにラルフは、ショートケーキとコーヒーだ。
どれもこれもおいしそう……えへへ、ラルフのお気に入りのお店に、こうして二人で来られるなんて、夢のようだ。
幼い頃は勉強と習い事の毎日で、見捨てられてからは家の評判を下げないために、基本的に家にいさせられていた。そんな過去の私が今の私を見たら、きっと驚くだろうね。
「シエル様、勧めた張本人がお伝えするのはなんですが……そんなにお召し上がりになられて大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だよ!」
ジトーッとした目で見つめてくるラルフに、少し言葉を詰まらせながら答える。
こんなに食べたら太っちゃうかな……でも、ラルフのおススメを紹介されたんだから、たくさん食べたいんだよね……えーい、食べちゃえ!
「もぐもぐ……うん、おいしい!」
まずはショートケーキから食べてみる。すると、生クリームの甘さとスポンジの間に挟まれたイチゴの酸味が、口いっぱいに広がった。
次に紅茶を……うん、おいしい。でも、クリスティア様が淹れてくれた紅茶の方が、私は好みかな?
「では私もいただきます……うん?」
「どうかしたの?」
自分の分のショートケーキを食べたラルフは、眉の間にシワを刻んでいた。
「いえ……私が以前食べた時と、少々味が変わっていると思いまして」
「そうなの?」
……この感じだと、前に食べた方がおいしかったのかな?
私には、ラルフが前に食べた味がどういうものなのかわからない。でも、私は普通においしいと思うし、なによりもラルフと来れたことが嬉しいから、何も問題は無い。
「こっちのモンブランはどうかな? ラルフ、味見してみていいよ!」
「シエル様の分が減ってしまいますよ?」
「たくさんあるから大丈夫! せっかく思い出のお店に来て、微妙な感じで終わるなんて悲しいじゃない? だから、ここで名誉返上のチャンスだよ!」
「ふふっ、名誉は挽回するものですよ」
「あ、あれー? そうだったっけ?」
わざと間違えて場の雰囲気を和やかにする大作戦は、見事に成功してラルフを笑顔にすることができた。
あとは、どうすればラルフにおいしいって思ってもらえるかだけど……何か良い方法はないかな……。
「……あっ」
「どうかされましたか?」
「い、いや! なんでもないよ!」
少し考えた結果、一つだけ方法が思い浮かんだ。でも、その方法はちょっと恥ずかしいというか……勇気がいる。
その恥ずかしくて勇気がいる方法とは……。
「ラルフ……あ、ああ、あーん……」
「…………」
私は体中を真っ赤にさせながら、モンブランの食べやすいサイズにカットしたものを、ラルフの口元に持っていった。
これぞ、あーん大作戦! この前読んだ恋愛小説に、付き合い始めた主人公とそのお相手がやっていて、これをされていたキャラが、普通に食べるよりもおいしいって言ってたのを思い出したの!
でも、実際にやってみると、想像以上に恥ずかしい! 漂流してる時にもやってるはずなのに、ラルフを異性として意識するだけで、こんなにも変わるものなの!?
「…………」
「え、ラルフ!? どうしたの、どこか痛いの!?」
ラルフは差し出したモンブランを食べず、片手で自分の目を覆って俯いてしまった。
そ、そんなに落ち込むほどされたくなかったのかな!? 私、今朝に続いてまた余計なことをしちゃったの!?
「いえ、まさかシエル様に、またあーんをされるだなんて、夢にも思っていなかったので……このラルフ、つい感動に浸ってしまいました」
「そ、そうなの……? ちょっと大げさな気がするけど、とりあえずラルフが悲しくなったわけじゃなくて安心したよ」
「申し訳ございません。では、今度こそいただきます」
すぐにいつも通りのラルフに戻ると、私が差し出したモンブランを口にする。すると、ラルフの表情が少し明るくなった。
よかった、今度はおいしく食べられたみたいだね。これでラルフの昔の幸せと、今日の思い出を少しは守ることが出来たかな?
それにしても、自分が差し出したものを食べてもらうのって、恥ずかしいけど……ちょっとだけ嬉しいというか……保護欲をくすぐられるというか……なんとも言えない、むず痒い気持ちになる。
……あぁもう! なんか色々な感情が混ざって、いてもたってもいられない! こういう時は、食べて発散だよ!
「あむっ! もぐもぐもぐもぐ……ごくんっ」
「シエル様、そんなに急いで食べると喉に詰まらせてしまいますよ」
「大丈夫だよ、ラルフ! あ、こっちのティラミスもおいしい!」
私の食べっぷりに苦笑するラルフを尻目に、次々にケーキを完食していき……さらに追加で二皿ずつ注文し、それも完食した。
「ふぅ、全部食べちゃった! 作ってくれた人と、私の栄養になってくれた食材達に感謝だね!」
「そうですね。あ、シエル様。動かないでくださいませ」
「うん、どうし……」
ラルフは静かに手を伸ばすと、その親指で私の唇を優しく撫でた。
まさか、そんなことをされると思っていなかった私は、目を丸くさせながら、お魚みたいに口をパクパクさせることしか出来なかった。
「口にクリームがついていたので」
「しょ、しょうにゃんだ……はへぇ!?」
男の人に唇を触られるという、ドキドキの初体験を経験した影響で、呂律が回っていない私に更なる追撃が襲い掛かる。なんと、ラルフはぬぐい取ったクリームを、そのまま食べてしまったの。
「あ、あわわわ……」
「シエル様、いかがされましたか?」
「か、かか、間接キスぅ……」
「……おっと、確かにそうですね。しかし、間接キス自体はマーチャント家にいる時に、何度もしていたと記憶していますが。先程のように、食べ物のおすそ分けを貰ったり、お茶を共有しあったり、食べきれなくなった食事を私が食べたり……」
言われてみると、確かにその通りだ。あの時は気にしていなかったけど、ラルフに告白をされてから、ラルフを執事ではなくて男性として意識するようになってるし、間接キスみたいな、今まで気にしなかったことも意識するようになっている。
……今思うと、マーチャント家を出る前にラルフに告白されていたら、小舟の上でくっついたりした時に、凄く意識しちゃってたかもしれないね……。
「そ、そうかもしれないけど……今回は色々と違うと思うよ!」
マーチャント家にいる時にしたのとは違い、告白をしていたり、私の唇に直接ついていたものを食べたりと、状況が結構違う。その違いが、私に恥ずかしさと戸惑いを与えているの。
……あ、言っておくけど嫌ってわけじゃないよ。
「と、とにかく! 私がビックリしちゃうようなこととか、ドキドキするようなことを、急にしちゃダメだからね!」
「善処いたします」
「それ、しないやつなんじゃ……とにかく、私はおいしかったよ! でも、マーチャント家にいる時にラルフが用意してくれたケーキのか、クリスティア様の紅茶の方が、私は好みかも?」
実家にいる時に、ラルフはたまにケーキを焼いて振る舞ってくれることがあった。
それがとてもおいしくて、よくラルフに作ってくれって、おねだりをしていたんだ。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。きっと姉上が聞いたら、喜ぶでしょう」
「ナディア様が? どういうこと?」
「ケーキの技術は姉上に教わったものなのです。姉上はお菓子作りが趣味でして」
「へぇ~!」
ラルフのケーキは、ほっぺたが落ちちゃうと思うくらいおいしいのに、それの先生であるナディア様が作ったら、一体どうなってしまうんだろう?
お願いしたら、作ってくれないかな……? 今度、それとなくお願いしてみよう……えへへっ。
「先程の女性……まさか、最近取引を始めた、あの方の娘……? どうしてこんな所に……念の為、あの方に連絡をした方がよさそうですね……」
しばらくラルフとおしゃべりを楽しんでいると、注文した品がズラッと並べられた。
私が注文したのは、モンブラン三つに、ショートケーキ、チーズケーキ、ティラミスを一つずつ。それに加えて紅茶も頼んだ。ちなみにラルフは、ショートケーキとコーヒーだ。
どれもこれもおいしそう……えへへ、ラルフのお気に入りのお店に、こうして二人で来られるなんて、夢のようだ。
幼い頃は勉強と習い事の毎日で、見捨てられてからは家の評判を下げないために、基本的に家にいさせられていた。そんな過去の私が今の私を見たら、きっと驚くだろうね。
「シエル様、勧めた張本人がお伝えするのはなんですが……そんなにお召し上がりになられて大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だよ!」
ジトーッとした目で見つめてくるラルフに、少し言葉を詰まらせながら答える。
こんなに食べたら太っちゃうかな……でも、ラルフのおススメを紹介されたんだから、たくさん食べたいんだよね……えーい、食べちゃえ!
「もぐもぐ……うん、おいしい!」
まずはショートケーキから食べてみる。すると、生クリームの甘さとスポンジの間に挟まれたイチゴの酸味が、口いっぱいに広がった。
次に紅茶を……うん、おいしい。でも、クリスティア様が淹れてくれた紅茶の方が、私は好みかな?
「では私もいただきます……うん?」
「どうかしたの?」
自分の分のショートケーキを食べたラルフは、眉の間にシワを刻んでいた。
「いえ……私が以前食べた時と、少々味が変わっていると思いまして」
「そうなの?」
……この感じだと、前に食べた方がおいしかったのかな?
私には、ラルフが前に食べた味がどういうものなのかわからない。でも、私は普通においしいと思うし、なによりもラルフと来れたことが嬉しいから、何も問題は無い。
「こっちのモンブランはどうかな? ラルフ、味見してみていいよ!」
「シエル様の分が減ってしまいますよ?」
「たくさんあるから大丈夫! せっかく思い出のお店に来て、微妙な感じで終わるなんて悲しいじゃない? だから、ここで名誉返上のチャンスだよ!」
「ふふっ、名誉は挽回するものですよ」
「あ、あれー? そうだったっけ?」
わざと間違えて場の雰囲気を和やかにする大作戦は、見事に成功してラルフを笑顔にすることができた。
あとは、どうすればラルフにおいしいって思ってもらえるかだけど……何か良い方法はないかな……。
「……あっ」
「どうかされましたか?」
「い、いや! なんでもないよ!」
少し考えた結果、一つだけ方法が思い浮かんだ。でも、その方法はちょっと恥ずかしいというか……勇気がいる。
その恥ずかしくて勇気がいる方法とは……。
「ラルフ……あ、ああ、あーん……」
「…………」
私は体中を真っ赤にさせながら、モンブランの食べやすいサイズにカットしたものを、ラルフの口元に持っていった。
これぞ、あーん大作戦! この前読んだ恋愛小説に、付き合い始めた主人公とそのお相手がやっていて、これをされていたキャラが、普通に食べるよりもおいしいって言ってたのを思い出したの!
でも、実際にやってみると、想像以上に恥ずかしい! 漂流してる時にもやってるはずなのに、ラルフを異性として意識するだけで、こんなにも変わるものなの!?
「…………」
「え、ラルフ!? どうしたの、どこか痛いの!?」
ラルフは差し出したモンブランを食べず、片手で自分の目を覆って俯いてしまった。
そ、そんなに落ち込むほどされたくなかったのかな!? 私、今朝に続いてまた余計なことをしちゃったの!?
「いえ、まさかシエル様に、またあーんをされるだなんて、夢にも思っていなかったので……このラルフ、つい感動に浸ってしまいました」
「そ、そうなの……? ちょっと大げさな気がするけど、とりあえずラルフが悲しくなったわけじゃなくて安心したよ」
「申し訳ございません。では、今度こそいただきます」
すぐにいつも通りのラルフに戻ると、私が差し出したモンブランを口にする。すると、ラルフの表情が少し明るくなった。
よかった、今度はおいしく食べられたみたいだね。これでラルフの昔の幸せと、今日の思い出を少しは守ることが出来たかな?
それにしても、自分が差し出したものを食べてもらうのって、恥ずかしいけど……ちょっとだけ嬉しいというか……保護欲をくすぐられるというか……なんとも言えない、むず痒い気持ちになる。
……あぁもう! なんか色々な感情が混ざって、いてもたってもいられない! こういう時は、食べて発散だよ!
「あむっ! もぐもぐもぐもぐ……ごくんっ」
「シエル様、そんなに急いで食べると喉に詰まらせてしまいますよ」
「大丈夫だよ、ラルフ! あ、こっちのティラミスもおいしい!」
私の食べっぷりに苦笑するラルフを尻目に、次々にケーキを完食していき……さらに追加で二皿ずつ注文し、それも完食した。
「ふぅ、全部食べちゃった! 作ってくれた人と、私の栄養になってくれた食材達に感謝だね!」
「そうですね。あ、シエル様。動かないでくださいませ」
「うん、どうし……」
ラルフは静かに手を伸ばすと、その親指で私の唇を優しく撫でた。
まさか、そんなことをされると思っていなかった私は、目を丸くさせながら、お魚みたいに口をパクパクさせることしか出来なかった。
「口にクリームがついていたので」
「しょ、しょうにゃんだ……はへぇ!?」
男の人に唇を触られるという、ドキドキの初体験を経験した影響で、呂律が回っていない私に更なる追撃が襲い掛かる。なんと、ラルフはぬぐい取ったクリームを、そのまま食べてしまったの。
「あ、あわわわ……」
「シエル様、いかがされましたか?」
「か、かか、間接キスぅ……」
「……おっと、確かにそうですね。しかし、間接キス自体はマーチャント家にいる時に、何度もしていたと記憶していますが。先程のように、食べ物のおすそ分けを貰ったり、お茶を共有しあったり、食べきれなくなった食事を私が食べたり……」
言われてみると、確かにその通りだ。あの時は気にしていなかったけど、ラルフに告白をされてから、ラルフを執事ではなくて男性として意識するようになってるし、間接キスみたいな、今まで気にしなかったことも意識するようになっている。
……今思うと、マーチャント家を出る前にラルフに告白されていたら、小舟の上でくっついたりした時に、凄く意識しちゃってたかもしれないね……。
「そ、そうかもしれないけど……今回は色々と違うと思うよ!」
マーチャント家にいる時にしたのとは違い、告白をしていたり、私の唇に直接ついていたものを食べたりと、状況が結構違う。その違いが、私に恥ずかしさと戸惑いを与えているの。
……あ、言っておくけど嫌ってわけじゃないよ。
「と、とにかく! 私がビックリしちゃうようなこととか、ドキドキするようなことを、急にしちゃダメだからね!」
「善処いたします」
「それ、しないやつなんじゃ……とにかく、私はおいしかったよ! でも、マーチャント家にいる時にラルフが用意してくれたケーキのか、クリスティア様の紅茶の方が、私は好みかも?」
実家にいる時に、ラルフはたまにケーキを焼いて振る舞ってくれることがあった。
それがとてもおいしくて、よくラルフに作ってくれって、おねだりをしていたんだ。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。きっと姉上が聞いたら、喜ぶでしょう」
「ナディア様が? どういうこと?」
「ケーキの技術は姉上に教わったものなのです。姉上はお菓子作りが趣味でして」
「へぇ~!」
ラルフのケーキは、ほっぺたが落ちちゃうと思うくらいおいしいのに、それの先生であるナディア様が作ったら、一体どうなってしまうんだろう?
お願いしたら、作ってくれないかな……? 今度、それとなくお願いしてみよう……えへへっ。
「先程の女性……まさか、最近取引を始めた、あの方の娘……? どうしてこんな所に……念の為、あの方に連絡をした方がよさそうですね……」
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