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バーバラの屈辱
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学園の長期休暇が終わる頃、帝国からアルフレッド一行が帰国した。
ルーカスは出来る限りエレインとバーバラの接触を避けたいと考えているが、貴賓館に長期滞在するのであれば、それは避けられない事なのだろうと考えている。
エレインは王宮の図書館へ通うのが日課になっており、アルフレッドと親睦を深める事が出来るのも王宮図書館なのだ。
『本当に厄介な物を、押し付けて来たな』
ルーカスは、馬車の中で憂鬱な気持ちになっていた。
アルフレッドが王宮に帰って来ると、何処から聞きつけて来たのか、バーバラが出迎えに出ていた。
馬車から下りるアルフレッドを、舐めまわす様な視線で見つめている。
思わず全身に鳥肌が立ち、作り笑顔が歪むところを、何とか堪えて挨拶をした。
「はじめまして、バーバラ王女殿下。二年間の留学はかなり長いので、早々に帰国されても構わない。私とは余程の事が無い限りお会いしないので、先にお別れの言葉を述べておこう。気を付けて帰りたまえ。では、失礼する」
バーバラはアルフレッドが魅了され、求婚されるのを待っていただけに、何を言われたのかを理解するのにやや暫く時間が掛かった。
颯爽と王宮内に入って行くアルフレッドを、声を張り上げて呼び止めたのだ。
「お待ちくださいませ!」
しかしアルフレッドは、聞こえなかった振りをして、足を止める事はしなかった。
「お待ちになってと、言ったのに…アルフレッド殿下は、目だけではなく耳までお悪いのかしら。姿絵よりもずっと素敵な方なのに、もっと近くに寄って、私を見て貰う必要がありますわね」
バーバラはアルフレッドへ会いに行こうとしたのだが、王族の執務室がある場所への部外者の立ち入りは禁止されており、近寄る事が出来なかったのである。
「夫が帰国したのだから、寝室は共にすべきでしょう。私は、結婚式に等こだわりはなくってよ。そのような物は、後からでも宜しいのではなくって。貴方と会話をしていても埒があかなくてよ、アルフレッド殿下をお呼びしなさい!」
最後はヒステリックになったので、仕方なくアルフレッドへと報告をしに来た近衛騎士は、かなり憔悴しきっている様に見えた。
「苦労を掛けてしまったな、仕方が無い。私の方から、貴賓館へと出向く事にしよう。今日は疲れているから、明日以降になると伝えてくれ。日取りは、落ち着いてから知らせる」
「畏まりました」
近衛騎士は、アルフレッドからの伝言を、バーバラに伝えたのだった。
帰国直後ならば仕方がないと、素直に戻って行く王女の後姿を見て、二度と来ないで欲しいと思うのである。
それから数日は大人しくまっていたのだが、一切音沙汰がない事に痺れを切らしたバーバラは、懲りずにアルフレッドの執務室へ通す様にと近衛騎士に命じるのであった。
「畏れながら、本日はご公務で視察に行かれております。戻られるのは深夜になりますので、お会いする事は出来ません」
その翌日は…
「畏れながら、本日はご公務で視察に行かれております。戻られるのは明日以降になりますので、お会いする事は出来ません」
その翌日は…
「畏れながら…」
「居留守を使っているのは、分かっておりますのよ!会えないと言うのならば、お会い出来るまでここで待たせて頂きますわ」
バーバラは案外根性のある性格の様で、廊下で近衛騎士と睨み合いながら、何時間も立っていたのだ。
流石にこの時間にはいないだろうと思い執務室から出て来たルーカスが、バーバラと対面してしまったのは、運が悪かったのかもしれない。
想像もしていなかった、眉目秀麗な男が出て来た事に心を躍らせたバーバラは、慣れた仕草で語りかけて来るのであった。
「あら。この出会いは、運命かもしれませんわね。お前に、名を名乗る栄誉を与えますわ」
ルーカスは、一瞥してから無言で立ち去った。
『何が運命だ。お前に比べたら、アルフレッドに一途だった、マルゲリーターの方が余程可愛げがある』
エレインを学園へ迎えに行くために、急いでいたのだから当然の結果である。
「ちょっと、お待ちなさい。私から声を掛けてあげたのですわ、光栄な事でしょう…」
バーバラは、信じられなかった。
ルーカスとはしっかりと視線が合ったので、美貌に目が眩んだと確信したのだが、侮蔑の表情を見せられてしまったのだ。
声を掛けている間もバーバラを見つめ最後まで聞ていた筈なのに、答える事もなく無言で立ち去るとは、思いもしなかったのである。
「この国の男たちは、美的センスがおかしいのかしら。私を見ても、求婚すらしないなんて、普通では考えられませんわ」
独り言の様な呟きは、しっかりと近衛騎士の耳にも入っている。
『お前如きエレイン様に比べたら、足元にも及ばない。さっさと国へ帰ってしまえ阿婆擦れが』
無表情で立っている近衛騎士の心の声は、バーバラには分からないのである。
ルーカスがエレインを迎えに行き、図書館までエスコートをした後で執務室へと戻って来ると、バーバラと視線があった。
「チッ」
思わず舌打ちが出てしまった。
『エレインが可愛すぎて、この女がいた事を、すっかり忘れていた。失態だ』
ルーカスが戻って来たのは、自分に会いたいと思ったのだと勘違いをしたバーバラは、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
『先程は私の美貌に驚き過ぎて、意思とは関係の無い行動を取ってしまったのね。許すわ、当然でしょう。さあ、チャンスを与えてあげるのだから、謝罪なさい。這い蹲って許しを請うのであれば、お前を傍付にしてあげても良くってよ』
バーバラが何を考えているのかは、ルーカスにはお見通しであった。
『僕が、声を掛けるとでも思っているのか。鬱陶しい女だな、厚かましい』
不愉快だと言わんばかりの視線を向けて、やはり無言で立ち去って行くルーカスの後姿を、茫然と見送るバーバラであった。
「あり得ないわ。この私に、あの様な視線を向ける男がいるなんて…ちょっと貴方。彼の名を教えなさい。一国の王女に対して、失礼過ぎるわ。お父様に伝えて、私の下僕にしなくては、気が済まないわ」
近衛騎士は、無言を貫き通していた。
「お前。王太子妃になる私に対して、無礼だわ。名を名乗りなさい!お前は、私の好みではないから、今直ぐに王宮を追い出してあげますわ!」
暫くバーバラは、怒りで近衛騎士に文句を言っていたが、相手にされないというのに去ろうともしなかった。
「何を騒いでいるのです」
近衛騎士たちは、これは不味い事になったと思い、一人がルーカスを呼びに行った。
鈴を転がした様な美しい声音を聞き、勢いよく振り返ったバーバラは、エレインの姿を見て絶句した。
エレインは隣国から留学生が来ている事を知っていたのだが、学園に姿を現さないので、何か不安でも感じているのかと勘違いをしていたのだ。
「初めまして、私はエレイン・オルターナと申します。人違いでしたら申し訳ないのですが、貴方は隣国からいらした、バーバラ王女殿下ではございませんか」
バーバラは、腐っても王族だ。
その名を聞いて、オルターナ公爵家の令嬢であり、皇弟妃の娘である事を理解した。
そして悟ったのだ、この国の男たちの美的感覚がおかしいのではなく、エレインと比べて自身が劣っていると言う事を…
美貌も、気品も、肩書すら叶わない。
バーバラの中に、今まで感じた事も無い、どす黒い感情が溢れて来たのである。
『認めません。認めませんわ!この私が、世界で一番美しいの。世界中の男は、皆私の美貌の虜になるのですわ。誰も、私には敵わないのです』
両手を握りしめ顔を真っ赤に染めて、プルプルと震えるバーバラを、エレインは心配そうに見つめていた。
その仕草ですら、美しいと思ってしまうバーバラは、自身の心を恥じたのである。
『悔しい』
二十歳一歩手前で、初めて味わった屈辱であった。
ルーカスは出来る限りエレインとバーバラの接触を避けたいと考えているが、貴賓館に長期滞在するのであれば、それは避けられない事なのだろうと考えている。
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ルーカスは、馬車の中で憂鬱な気持ちになっていた。
アルフレッドが王宮に帰って来ると、何処から聞きつけて来たのか、バーバラが出迎えに出ていた。
馬車から下りるアルフレッドを、舐めまわす様な視線で見つめている。
思わず全身に鳥肌が立ち、作り笑顔が歪むところを、何とか堪えて挨拶をした。
「はじめまして、バーバラ王女殿下。二年間の留学はかなり長いので、早々に帰国されても構わない。私とは余程の事が無い限りお会いしないので、先にお別れの言葉を述べておこう。気を付けて帰りたまえ。では、失礼する」
バーバラはアルフレッドが魅了され、求婚されるのを待っていただけに、何を言われたのかを理解するのにやや暫く時間が掛かった。
颯爽と王宮内に入って行くアルフレッドを、声を張り上げて呼び止めたのだ。
「お待ちくださいませ!」
しかしアルフレッドは、聞こえなかった振りをして、足を止める事はしなかった。
「お待ちになってと、言ったのに…アルフレッド殿下は、目だけではなく耳までお悪いのかしら。姿絵よりもずっと素敵な方なのに、もっと近くに寄って、私を見て貰う必要がありますわね」
バーバラはアルフレッドへ会いに行こうとしたのだが、王族の執務室がある場所への部外者の立ち入りは禁止されており、近寄る事が出来なかったのである。
「夫が帰国したのだから、寝室は共にすべきでしょう。私は、結婚式に等こだわりはなくってよ。そのような物は、後からでも宜しいのではなくって。貴方と会話をしていても埒があかなくてよ、アルフレッド殿下をお呼びしなさい!」
最後はヒステリックになったので、仕方なくアルフレッドへと報告をしに来た近衛騎士は、かなり憔悴しきっている様に見えた。
「苦労を掛けてしまったな、仕方が無い。私の方から、貴賓館へと出向く事にしよう。今日は疲れているから、明日以降になると伝えてくれ。日取りは、落ち着いてから知らせる」
「畏まりました」
近衛騎士は、アルフレッドからの伝言を、バーバラに伝えたのだった。
帰国直後ならば仕方がないと、素直に戻って行く王女の後姿を見て、二度と来ないで欲しいと思うのである。
それから数日は大人しくまっていたのだが、一切音沙汰がない事に痺れを切らしたバーバラは、懲りずにアルフレッドの執務室へ通す様にと近衛騎士に命じるのであった。
「畏れながら、本日はご公務で視察に行かれております。戻られるのは深夜になりますので、お会いする事は出来ません」
その翌日は…
「畏れながら、本日はご公務で視察に行かれております。戻られるのは明日以降になりますので、お会いする事は出来ません」
その翌日は…
「畏れながら…」
「居留守を使っているのは、分かっておりますのよ!会えないと言うのならば、お会い出来るまでここで待たせて頂きますわ」
バーバラは案外根性のある性格の様で、廊下で近衛騎士と睨み合いながら、何時間も立っていたのだ。
流石にこの時間にはいないだろうと思い執務室から出て来たルーカスが、バーバラと対面してしまったのは、運が悪かったのかもしれない。
想像もしていなかった、眉目秀麗な男が出て来た事に心を躍らせたバーバラは、慣れた仕草で語りかけて来るのであった。
「あら。この出会いは、運命かもしれませんわね。お前に、名を名乗る栄誉を与えますわ」
ルーカスは、一瞥してから無言で立ち去った。
『何が運命だ。お前に比べたら、アルフレッドに一途だった、マルゲリーターの方が余程可愛げがある』
エレインを学園へ迎えに行くために、急いでいたのだから当然の結果である。
「ちょっと、お待ちなさい。私から声を掛けてあげたのですわ、光栄な事でしょう…」
バーバラは、信じられなかった。
ルーカスとはしっかりと視線が合ったので、美貌に目が眩んだと確信したのだが、侮蔑の表情を見せられてしまったのだ。
声を掛けている間もバーバラを見つめ最後まで聞ていた筈なのに、答える事もなく無言で立ち去るとは、思いもしなかったのである。
「この国の男たちは、美的センスがおかしいのかしら。私を見ても、求婚すらしないなんて、普通では考えられませんわ」
独り言の様な呟きは、しっかりと近衛騎士の耳にも入っている。
『お前如きエレイン様に比べたら、足元にも及ばない。さっさと国へ帰ってしまえ阿婆擦れが』
無表情で立っている近衛騎士の心の声は、バーバラには分からないのである。
ルーカスがエレインを迎えに行き、図書館までエスコートをした後で執務室へと戻って来ると、バーバラと視線があった。
「チッ」
思わず舌打ちが出てしまった。
『エレインが可愛すぎて、この女がいた事を、すっかり忘れていた。失態だ』
ルーカスが戻って来たのは、自分に会いたいと思ったのだと勘違いをしたバーバラは、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
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不愉快だと言わんばかりの視線を向けて、やはり無言で立ち去って行くルーカスの後姿を、茫然と見送るバーバラであった。
「あり得ないわ。この私に、あの様な視線を向ける男がいるなんて…ちょっと貴方。彼の名を教えなさい。一国の王女に対して、失礼過ぎるわ。お父様に伝えて、私の下僕にしなくては、気が済まないわ」
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鈴を転がした様な美しい声音を聞き、勢いよく振り返ったバーバラは、エレインの姿を見て絶句した。
エレインは隣国から留学生が来ている事を知っていたのだが、学園に姿を現さないので、何か不安でも感じているのかと勘違いをしていたのだ。
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バーバラは、腐っても王族だ。
その名を聞いて、オルターナ公爵家の令嬢であり、皇弟妃の娘である事を理解した。
そして悟ったのだ、この国の男たちの美的感覚がおかしいのではなく、エレインと比べて自身が劣っていると言う事を…
美貌も、気品も、肩書すら叶わない。
バーバラの中に、今まで感じた事も無い、どす黒い感情が溢れて来たのである。
『認めません。認めませんわ!この私が、世界で一番美しいの。世界中の男は、皆私の美貌の虜になるのですわ。誰も、私には敵わないのです』
両手を握りしめ顔を真っ赤に染めて、プルプルと震えるバーバラを、エレインは心配そうに見つめていた。
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