【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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化石の真の姿

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 顔色を変えてブルブルと震え出したバーバラを見て、エレインは人違いをしてしまったのかと思い謝罪しようとした時だった、血相を変えたルーカスが飛び出して来た。
 「エリー!大丈夫か。何があった、何処も怪我はしていないか、嫌な事を言われたりもしていないか」
 ルーカスはエレインの両腕を取り、視線を上下に動かしながら、衣服の乱れが無いかを確認している。
 「何事もございませんわ、お兄様。私は留学生のバーバラ王女殿下なのではないのかと思い、お声を掛けたのですが、人違いをしてしまった様です。今謝罪を…」
 「その必要は無い。エリー、勝手に出歩くなと言っただろう。王宮は広いのだ、今は隣国からの来客もいる。警備が万全とは、言えない状況になってしまったのだ。用があるのならば、僕が迎えに行く。だから、これからは大人しく待っていなさい。お前に何かあってからでは遅いのだ。分かったね」
 「申し訳ありません、お兄様。どうしても殿下へお伝えしたいと思いまして、気が急いてしまいましたの。お兄様にご心配を掛けてしまう事まで、配慮出来ませんでしたわ」
 エレインは自身の浅はかな行動で、ルーカスの手を煩わせてしまったと思い、罪悪感を覚えてしまった。
 そんな妹の心情を理解したルーカスは、焦りのあまりに冷静さを失っていた事に気付くのだった。
 真綿を包むように優しくエレインを抱き寄せると、静かな落ち着いた口調で詫びるのだった。
 「すまなかった、エリー。お前が俯く必要は無い、今のは僕が全面的に悪かった。許してくれ、愛している」
 エレインはルーカスの胸の中でクスクスと小さな笑い声をあげると、顔を見上げて「怒ってなどおりませんわ」と、満面の笑みをみせるのだ。
 ルーカスだけではなく、アルフレッドもこの屈託のない笑顔が大好きなのだ。
 先程まで乱れていた感情は落ち着きを取り戻し、優しい笑顔を向けて問いかけて来る。
 「エリー。アルフレッドに、何か急用でもあったのか。ならば、一緒に執務室へ行こうか」
 「いいえ。お兄様が執務室へお戻りになられるのでしたら、こちらを殿下へお渡しして頂きたいのです。新しい発見がありましたの、きっと殿下も驚きになられると思いますわ」
 エレインは纏めた資料をルーカスに手渡したのだが、やはり自分で説明した方が良いといわれたのだ。
 そしてルーカスがエスコートをしようと腕を差し伸べたのだが、エレインは何やら戸惑っている様子であった。
 「どうした。何か気がかりでもあるのか」
 「はい。あちらにいらっしゃるお方が、気になっておりますの。私の言葉で気分を害されてしまったのでしたら、やはり謝罪をした方が良いと思うのです」
 ルーカスは無表情で立っている近衛騎士に、視線で何かあったのかと訴えかけるが、彼らは揃って首を横に振り苦笑いを浮かべていた。
 その素振りだけで、エレインは何も悪くない事を理解したのだ。
 「エリー。彼女は、隣国のバーバラ王女で間違いない。気分を害する様な事は何も無かったと、近衛騎士たちが証明している。だから、何も気に病む事はない」
 エレインがバーバラへ視線を向けると、やはり鬼の形相で睨み付けて来る。
 思わずルーカスの胸に当てていた手に力が入り、きつく抱き付いてしまうのだった。
 ルーカスがバーバラの方へ向き直ると、視線が合った。
 その途端満面の笑みを見せたのだが、一瞬ではあったが酷く歪んだ表情をしていたのを、見逃す事はしなかった。
 腹の底から、沸々と怒りが湧いて来たが、ぐっと押し込めてエレインを抱き上げたのだった。
 「お、お兄様。どうされたのですか」
 驚いたエレインは、思わずルーカスの首に腕を回してしがみ付いたのだが、優しく「行こうか」と言われただけで下ろしてはくれなかった。
 バーバラは、妹を抱きかかえながら歩いて行くルーカスの後姿を、静かに睨み付けている。
 『あれ程の美貌を携えた兄妹がいたなんて…心外ですわ。確か、オルターナ公爵令息は、ルーカスと言ったわね。皇弟妃の息子ならば、私へのあの不敬な態度を、改めさせるのは無理ですわ。悔しいけれど、帝国を敵に回す事なんて、出来ませんもの。男でさえあの美しさなのですから、妹がアレなのは…悔しい。やはり許せませんわ。私よりも美しい娘がいる等、言語道断。邪魔ですわね』
 バーバラは、何とかエレインを醜い姿に出来ないかと、画策をするために貴賓館へと戻っていったのだった。
 
 初めてアルフレッドの執務室へと入ったエレインは、少し緊張した面持ちで座っていた。
 宮仕えが出してくれたお茶を飲み、向かい合ってソファーに座っており、隣にはルーカスもいる。
 他の側近たちも興味津々で、エレインが纏めて来た資料に目を通していた。
 誰も何も言わずに、沈黙が流れて行き、少々居心地の悪さを感じているのだ。
 すると全ての資料に目を通し終わったアルフレッドが立ち上がると、エレインの傍まで来て両手を握りしめる。
 恍惚とした表情で、真っ直ぐに見つめて来る瑠璃色の瞳に、エレインの姿だけが映し出されていた。
 「あの…殿下?」
 「素晴らしい発見だね。私は、この瞬間に立ち会えた事を、神に感謝したいくらいだ。其方の纏めた資料はとても分かり易く、今直ぐにでも学会で公表したい程だよ」
 アルフレッドは珍しく興奮しているようで、エレインの顔が赤く染まっている事に気付いていない。
 今にも唇が重なりそうな程、前のめりになっているアルフレッドを、ルーカスはそっと押し退けた。
 「近過ぎる。エリーが恥ずかしがっているではないか」
 アルフレッドは、慌てて握りしめていた手を放して、顔を真っ赤にそめながら許しを乞うている。
 「こ…これは失礼をした、許して欲しいエレイン嬢。つい、興奮してしまい、見境が無くなってしまった。私は、女性の扱いに慣れていない様だ。四六時中、男共に囲まれている所為ではないだろうか」
 四六時中囲まれているのではなく、好んで囲まれているのでは?と、側近たちは思うのだが、敢えて口に出す事はしなかった。
 後で面倒くさい事になるのが、目に見えているからなのだ。
 最近ではエレインの前では格好を付けたいと思っている様で、何か失敗でもしようものならば、かなり繊細な心情に陥ってしまうのである。
 良い方向へ向かえば苦労はないのだが、悪い方向へ向かう事が多いので、持ち上げるのも大変な作業になるのだ。
 ロマンチストも良いとは思うが、もう少し押し気味に思いを伝えなければ、鈍感なエレインには伝わらない事も側近たちは知っている。
 主の面白いポンコツ部分を見て、完璧な人間はいないのだと、再認識するのも珍しくは無い。
 ルーカスは呆れた様な表情でアルフレッドを見ているが、他の側近たちは「お前も同じだよ」と思っている事を、知らないのは本人だけであった。
 エレインを前にすると、とても残念な人物に変ってしまうのだが、今回ばかりは側近たちもアルフレッドに共感したのだった。
 それぞれにエレインを称える言葉を放っているが、皆がいっぺんに話しているので、全てを拾い切る事は出来ていない。
 化石は男のロマンでもあるので、ルーカスも密かに興奮していたのである。
 「エリー。アルフレッドの言う様に、これは本当に素晴らしい研究成果だ。この短期間で、よく出来たと思う。僕は、兄として鼻が高い。優秀な妹を、誇りに思う」
 「本当だ。素晴らしいぞ、皇女殿下。マシューなんか、驚き過ぎて酷い顔をしている。あの間抜け面は、貴重だぞ。日頃澄ました顔をしている奴程、気が抜けた時の顔は面白いな」
 マシューは意識を取り戻したかのように、話し出した。
 「ダニエルさん!貴方は、この素晴らしい資料を見て、実際に化石が展示されているところを想像してください!私は、この興奮をどう納めたら良いのかが、分からないのです」
 「確かに、巨大なオブジェの様になるだろうな」
 「そうなのです!ウイロー様、イーシア様。ちいさな展示場では、収まり切れない程の大きさなのです。私も発見した時は、とても驚きましたわ」
 「しかし、よく気が付いたね、エリー。僕も骨格は全て目を通していたが、まさかこれ程大きな姿になるとは想像も出来なかった」
 「殿下のお蔭ですわ」
 「え?私は何もしていないよ」
 エレインは、にっこりと微笑んでいた。
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