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ep.2 妥協の契約結婚!? そんなものはお断りです
3.
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「静岡市にある『由比漬物店』、こちらが由比さんのご実家ですよね? 従業員30名ほどの、中小の優良企業だ。ずっと安定した経営を続けていたが、昨今の漬物離れで現状は厳しいといったところだろうか……」
若宮伊吹の語る内容の通りだった。
榛名の父が社長として経営している由比漬物店。将来的には姉夫婦が跡を継ぐ予定だ。
しかし、最近の食生活の変化における漬物離れは、我が家業の売り上げにも大きく影響していた。
「そこで、我がホテルロイヤルヴィリジアンとの継続的なお付き合いを提案させて頂きたい。その他にも、若宮家の顔が利く、銀座や日本橋のお得意先にも紹介するつもりです」
「つまりは契約……交換条件ということですか?」
「そういうことになりますね」
そうは言っても、双方の利益にだいぶ差があるのではないか。
榛名側の受け取る利益の方が遥かに大きい。
榛名と結婚したことで若宮伊吹が得られる利益と言えば、周囲からの「結婚しろ」攻撃から逃れるための避雷針代わりくらいだろう。
(いま、若宮伊吹が言ったことが現実になったとしたら、由比漬物店はきっと助かる)
(だけど、自分を手酷く振った相手から施しを受けるなんて、プライドがないと思われる。そんなのは嫌だ)
(でも……お父さん、お母さん、お姉ちゃんたちや従業員のことを考えたら……)
榛名の頭の中ではいくつもの考えが渦巻き、葛藤していた。すると――
「実は、あなたのご両親にはすでに提案を済ませていて、ぜひお願いしたいと了承を頂いている。あとは契約の手続きをするだけです」
「えっ……」
「もちろん、これはホテルと漬物店の間の契約についてのことだけです。私とあなたの結婚については、私たち2人の間だけの秘密裡の取引ですよ」
(秘密裡の取引……)
――まさか、すでに由比漬物店とホテルロイヤルヴィリジアンの間で話がついていたなんて……。
榛名はサァーッと青ざめた。
両親は、榛名と若宮伊吹の結婚が条件であることは知らない。聞かされていないからだ。
(もし、断ったら……)
「もし、あなたが結婚を断ったら、両社の契約は白紙になります。もちろん他の取引先への紹介も同様です」
若宮伊吹は試すような視線で榛名を見つめてくる。
「そんな、脅しですか?」
――卑怯だ。
榛名は怒りのこもった目で、真っ向からその視線を受けて立った。
「まさか! 心外です。これは交渉です。双方にとってWin―Winじゃないですか」
「どこがですか? 私よりも条件の良いお相手は星の数ほどいるじゃないですか。もっと家柄の良いお嬢様とか……」
自分で言うのも悲しくなるが、榛名は先程も感じたように、この結婚における若宮伊吹の利益が少ない点を指摘した。
「私の価値観では、あなたのような方が最も条件が良いんですよ。それに、私が元々は御曹司だの、社長の孫だのとは無縁の生活を送っていたことを、由比さんは誰よりもご存じじゃありませんか」
若宮伊吹の言葉を受けて、榛名はハッとした。
脳裏には、あの頃の――大学生の伊吹の姿が浮かんだ。
質素倹約で、生活を切り詰めて、アルバイトに励んでいた興津伊吹の姿が。
「私にとっては、普通の、よくある一般家庭の娘さんが1番良いんですよ」
若宮伊吹の少し寂しげな微笑みに、思わず心がグラつきそうになるのを堪えた。
「……わかったわよ」
「えっ……」
榛名は決意した。
「わかりました。あなたと結婚します」
「本当ですか?」
若宮伊吹の表情はパアッと明るくなった。
「その代わり、熟年離婚してやりますからね!」
相手はロクに理由も語らずに、榛名を振って姿を消した元恋人であり、元親友。
色々と試した結果、榛名が1番良かったからという理由で選ばれた妥協婚。
せめてもの意地だった。
「フフッ、熟年離婚なんてさせませんよ」
若宮伊吹が静かに囁いたツッコミは、この際聞かなかったことにした。
若宮伊吹の語る内容の通りだった。
榛名の父が社長として経営している由比漬物店。将来的には姉夫婦が跡を継ぐ予定だ。
しかし、最近の食生活の変化における漬物離れは、我が家業の売り上げにも大きく影響していた。
「そこで、我がホテルロイヤルヴィリジアンとの継続的なお付き合いを提案させて頂きたい。その他にも、若宮家の顔が利く、銀座や日本橋のお得意先にも紹介するつもりです」
「つまりは契約……交換条件ということですか?」
「そういうことになりますね」
そうは言っても、双方の利益にだいぶ差があるのではないか。
榛名側の受け取る利益の方が遥かに大きい。
榛名と結婚したことで若宮伊吹が得られる利益と言えば、周囲からの「結婚しろ」攻撃から逃れるための避雷針代わりくらいだろう。
(いま、若宮伊吹が言ったことが現実になったとしたら、由比漬物店はきっと助かる)
(だけど、自分を手酷く振った相手から施しを受けるなんて、プライドがないと思われる。そんなのは嫌だ)
(でも……お父さん、お母さん、お姉ちゃんたちや従業員のことを考えたら……)
榛名の頭の中ではいくつもの考えが渦巻き、葛藤していた。すると――
「実は、あなたのご両親にはすでに提案を済ませていて、ぜひお願いしたいと了承を頂いている。あとは契約の手続きをするだけです」
「えっ……」
「もちろん、これはホテルと漬物店の間の契約についてのことだけです。私とあなたの結婚については、私たち2人の間だけの秘密裡の取引ですよ」
(秘密裡の取引……)
――まさか、すでに由比漬物店とホテルロイヤルヴィリジアンの間で話がついていたなんて……。
榛名はサァーッと青ざめた。
両親は、榛名と若宮伊吹の結婚が条件であることは知らない。聞かされていないからだ。
(もし、断ったら……)
「もし、あなたが結婚を断ったら、両社の契約は白紙になります。もちろん他の取引先への紹介も同様です」
若宮伊吹は試すような視線で榛名を見つめてくる。
「そんな、脅しですか?」
――卑怯だ。
榛名は怒りのこもった目で、真っ向からその視線を受けて立った。
「まさか! 心外です。これは交渉です。双方にとってWin―Winじゃないですか」
「どこがですか? 私よりも条件の良いお相手は星の数ほどいるじゃないですか。もっと家柄の良いお嬢様とか……」
自分で言うのも悲しくなるが、榛名は先程も感じたように、この結婚における若宮伊吹の利益が少ない点を指摘した。
「私の価値観では、あなたのような方が最も条件が良いんですよ。それに、私が元々は御曹司だの、社長の孫だのとは無縁の生活を送っていたことを、由比さんは誰よりもご存じじゃありませんか」
若宮伊吹の言葉を受けて、榛名はハッとした。
脳裏には、あの頃の――大学生の伊吹の姿が浮かんだ。
質素倹約で、生活を切り詰めて、アルバイトに励んでいた興津伊吹の姿が。
「私にとっては、普通の、よくある一般家庭の娘さんが1番良いんですよ」
若宮伊吹の少し寂しげな微笑みに、思わず心がグラつきそうになるのを堪えた。
「……わかったわよ」
「えっ……」
榛名は決意した。
「わかりました。あなたと結婚します」
「本当ですか?」
若宮伊吹の表情はパアッと明るくなった。
「その代わり、熟年離婚してやりますからね!」
相手はロクに理由も語らずに、榛名を振って姿を消した元恋人であり、元親友。
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若宮伊吹が静かに囁いたツッコミは、この際聞かなかったことにした。
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