あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

文字の大きさ
16 / 78
二皿目 黄身時雨と初恋の人に会いたい鎌いたち

その4 瑠璃と餡ミルクアイス 

しおりを挟む
(よかった。怒られるかと思ったけど、わかってもらえた……)

 安堵しながら、菜々美も包装紙や紙箱を準備していると、じきにカツンカツンとヒールの音が近づいてきた。

「菜々美ちゃんだったわね。その作務衣、よく似合っているわ。咲人くんは、今日も麗しいわね」

 親し気な様子で店に入ってきたのは、色が抜けるように白く、妖艶な雰囲気の美女――瑠璃だ。

「いらっしゃいませ!」

 菜々美が元気よく声をかけると、瑠璃は笑顔で頷いた。

「咲人くんだけだと、いつもつんけんと塩対応なの。菜々美ちゃんがいると、明るい雰囲気になっていいわね」

 咲人が顔を上げ、瑠璃を見た。

「今日も来たのか。瑠璃、よほど暇なんだな」
「ふふふ、あたしは夕さりの和菓子の大ファンだもの。忙しくても来るわよ。今日は何をいただこうかしら。毎日違う和菓子が並んで迷うわ。咲人くんは本当に立派な和菓子職人になったわね」
「……店内で食べるのか?」
「もちろん。咲人くんの顔を見ながら食べたほうが美味しいもの。えっと、今日は『水無月』を食べないとね。それから他の和菓子を全種類ひとつずつ」

(えっ、そんなにたくさん……?)

 すらりと細い瑠璃の見て、菜々美は小首を傾げるが、咲人は「わかった。座って待っていろ」と言い、瑠璃はカウンター席にすっと座った。

「雪女の瑠璃は冷たいものを好むから、大皿を取ってくれ」
「はいっ」

 目にも涼しげな硝子の大皿へ、和菓子をひとつずつ並べながら、咲人は苦笑した。彼のやわらかな笑みから、咲人と瑠璃の間に、長い年月を経た信頼関係のようなものが感じられる。
 
(あれ? もしかして、咲人さんと瑠璃さんは、昔付き合っていたとか? 瑠璃さんはこのお店の常連客として言ってなかったけど……)

 気が合う友人という雰囲気だが、二人はあやかし同士、しかも美男美女だ。
 彼の手伝いをしながら、菜々美の胸がちくりと胸が痛む。

「菜々美、あれを持って来てくれ」
「は、はい。あれ? あれって……これですか?」

 銘々皿か平皿だろうかと思ってあわてると、咲人は「違う、あれだ」と盆を視線で示した。

「わかりました」

 和菓子が美しく並んだ大皿を朱色の盆に載せると、今度は、調理台の横を見た後、くいっと顎で瑠璃が座るテーブルを示した。

「グラスをひとつ出せ。瑠璃は飲み物も冷たいものを好む。作り方を教えておく」
「はいっ」

 飲み物の作り方を教えてもらえる。菜々美は嬉しくなった。
 対面式の厨房の中で、咲人はグラスに粒餡を入れて冷えた牛乳を注いだ。シナモンスティックで掻き混ぜると、上からバニラアイスを落とす。

(わぁ、冷たくて美味しそう……)

「瑠璃が好きな餡ミルクアイスだ。一緒に運んでくれ」

 菜々美は笑顔で頷き、和菓子が並んだ硝子皿とグラスを朱色の盆に載せ、テーブル席の瑠璃の元まで運ぶ。

「お待たせしました」

 テーブルの上に置くと、瑠璃の目が輝いた、

「いつ見てもきれいな和菓子ね。まあ、餡ミルクアイスも。この味、大好きなの。餡とアイスと牛乳の味がなんともいえないのよ」

 瑠璃が子供のように喜んでいるのを見ると、菜々美も嬉しくなった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...